平定の海戦 前編
-ワシントン アメリカ海軍情報局-
「局長、日本海軍がハワイを出撃した様です」
暗号解読を得て、日本海軍がハワイを出港したことを確認した情報局は直ちに次の仕事に取り掛かる。
「サンディエゴ太平洋艦隊司令部に連絡を」
‐サンディエゴ太平洋艦隊司令部-
「了解しました。海軍省には私から連絡を入れておきます。全艦隊を出撃して攻撃するよう指示しました」
新太平洋艦隊司令長官のスプルーアンス大将はサンディエゴに居る主力艦隊全てを出撃させた。
「これが、最後の海戦なのだろうか」
出港する艦艇を見て、スプルーアンスは言う。そして、あの艦艇が対日戦での最後の犠牲で終わることを願った。
‐ホワイトハウス-
「サンディエゴの太平洋間司令部から日本海軍撃滅の為の艦隊が出撃しました」
キングが報告に来る。
「そうか。日本との外交ルートでの接触チャンネルの開設も国務省に依頼した。ただ、副大統領のウォレスの突然死が気になる」
「報告書では病死でしたが、持病は持っていないはずです」
「そうだ。だから、不審に思っている。君も周辺には気をつけたまえ」
「了解しました、大統領」
‐財務省-
「大統領は海戦での敗北後、講和する為のチャンネル開設を行っている」
「そんな事をされては困る。日本をアメリカに引き付けなくては、計画の意味が無い」
ホワイトと彼の上官に当たるヘンリー・モーゲンソウが対談している。
「上院下院共にコミンテルンを侵入させて、水面下での合衆国の共産化を図ってはいるが、大々的に動けないのでな。もう少し引き付けて貰わなくては困る」
「何とかしましょう。大統領を殺してでも、日本との講和を阻止しなくては。」
‐大和-
「電探に反応あり。索敵機と思われる航空機1。本艦隊に向けて接近中」
電探が、索敵機を捉えた。直ちに上空警戒機が排除に向かう。
「見つけたぞ、あれか」
雲の切れ間からドーントレスを視認する。烈風改のエンジンは唸りを上げて接近し、照準儀に捉えた。
「喰らえ!!」
20mm4門を備えた丙型だが、重装甲の爆撃機じゃないために直ぐに火が出た。
「ドーントレス、降下中。撃墜だな」
その時、降下中だったドーントレスは爆発四散した。
「こちら上空警戒機、偵察機を撃墜した。配置に戻る」
再び警戒空域の1500mまで上昇し、待機した。
‐大和-
「敵艦隊の存在はこれでハッキリした。後は、見つけるだけだな」
「長官、これがドーントレスの作戦行動半径です」
参謀が撃墜地点を中心に円を描き、電探で確認できた範囲内でディスプレイに飛行ルートを書き示す。
「コンピュータがこれらを元に自動計算した所、この範囲内に居る可能性が最も高い数値で出ました」
ディスプレイに赤い円が出現する。敵の居る可能性の高い海域を示している。
「分かった。この円の中を重点的に捜索しろ。航空戦は先に見つけたほうの勝利だ」
「了解しました」
‐東郷-
「対潜哨戒部隊が帰還しました」
シーホークが上空にてホバリングする。着艦体制に入ったのだ。そして、それと入れ替わりで第二陣が飛び立つ。
「対潜警戒を厳重にしろ。敵艦隊発見も重要だが、我々の任務は第一に対潜哨戒だ」
影鎖は長官椅子から指示を出す。元より、全員心得ている。
「索敵機は8機飛ばし、後は対潜魚雷装備で甲板に4機待機していろ」
甲板には既に4機の天山が対潜魚雷を腹に抱いて待機している。索敵機の彩雲は敵を探す、哨戒任務に従事している。
「哨戒ヘリが潜水艦を探知、撃沈しました」
通信室から報告が入る。それを受け、影鎖は立ち上がった。
「上空警戒機を20分以内に対空装備で甲板に並べろ。敵機探知次第、発艦させる。他の空母にもその事を伝えろ」
東郷の発光信号で、伝えた。それと同時に作業に入った。
‐エセックス-
「攻撃隊を上げろ!!。どんどん上げろ!!」
空母艦隊司令長官に戻ったハルぜーは久しぶりの海戦に血が滾る。ずっと南方にて辛酸を舐めさせられていたハルぜーにとって、名誉の挽回を狙っていた。
「第一攻撃隊は全機発艦しました。第二次攻撃隊も準備中です」
「直ぐに終えさせろ」
ハルぜーはそう命じ、銀時計を開く。
「12時45分。攻撃隊は2時間後に敵を捉える。それまでは攻撃を凌ぎ切らねばならない」
銀時計を閉じ、握り締める。
「無事に帰ってくれ。ここで、お前達の命を無駄にする訳にもいかんのだから」
猛将で通るハルゼーらしからぬ発言に、艦橋に居た者全員が驚きを隠せなかった。