未来も動き始める
-未来 ドイツ連邦共和国-
自由国際都市、ベルリンにある、ドイツ時空管理省。その会議室に、スーツ姿の真清が居た。
「遅くなって申し訳ありません。」
ドイツ時空管理省の役人が会議室に入ってくる。
「いえ、こちらが早く来過ぎてしまったんです。どうぞ、お気になさらず。」
そう言って、二人は握手を交わす。そして、それぞれ向かい合って椅子に腰掛ける。
「さて、堅苦しい挨拶も抜きに単刀直入に聞きます。どうして、あの様な事を?」
真清はカマを掛ける様に言う。今回の訪問の理由を、相手に明確に伝えていないのだ。
「さあ、何の事でしょう?」
案の定、役人は惚ける。真清は日の本を発つ前に用意した資料を役人に見せる。
「ドイツで、膨大な電力使用が見られた。この様な膨大な電力を消費するのは、時空間転送装置を動かす以外に考えられない。」
真清は更にカマを掛ける。
「確かに、それ程の量の電力の使用は時空間転送装置を使用する以外に起こりえません。しかし、我々が貴方方に害成すことを何かしましたか?」
「・・・・ドイツは、随分と外交上手になったではないか。正直、安心した。今までは、別次元の日本がドイツに置き換わった状況だったからな。」
真清はそう言いながら、もう一枚の資料を渡す。
「大体の理由は、これを見れば予想が付く。第三者が、別次元のドイツを支援してるんだろう?」
それは、別の視点から見たドイツの電力使用量だった。最初に見せたデータは何者かの手によって改ざんされたデータであった。
「電力データを改ざんしている奴がいる。そして、ドイツに勝たせたい奴がな。」
真清はそう言いながら、窓から外を見る。
「ドイツは戦後、驚くべき経済成長を遂げた。そして、今では誰もが羨む超経済大国だ。そして、それを支えたのが、ナチス時代の労働条件とインフラだった。」
史実でも、ナチス時代のドイツの労働条件は当時の世界に比べて郡を抜いていた。そして、一部は現在でも世界中に名残が残っているほどだ。そして、戦後ドイツはアウトバーンを駆使して急激な経済成長を遂げている。
「しかし、それは戦後の自由主義経済による力が大きい。あのまま、ドイツが戦争に勝っていれば、現在の繁栄はどう変わっただろうか?」
役人は、椅子から立ち上がって真清の隣まで歩いてくる。
「それは、酷く荒んだ経済状況でしたでしょう。」
役人は、躊躇わずにそう答えた。ヒトラーの人種迫害政策は世界中の批判を浴び、恐らくは経済封鎖をされていた恐れがある。その意味では、ドイツは負けてよかったのだ。
「こちらの独自の調査で、相手は民間団体だと言う事も既に掴んでおります。民間団体なら、提供できる技術には限りがある。今の内に、ドイツは現状打開と犯人逮捕に全力を挙げる様にすればいいだろう。太平洋を片付け、日本を欧州に送るから。」
「そうして頂くと、助かります。」
真清も、これで謎が解けた。ドイツの現在の高度な技術は民間の、恐らくは狂信的なナチス支持者層が与えた物だ。しかし、殆どが民間人のために与えられる技術には限りがある。しかし、あの時代にとってこちらの民間技術でも十分に対抗できる力はある。
(古今東西、世界の歴史において戦争に勝って衰退した国は少なくない。しかし、負けて成長した国は数多あると言うのに。)
真清はそう思いながら、会議室を後にする。
‐昭和 ハワイ-
「連日の様にアメリカ西海岸を爆撃しております。」
陸海軍共同戦略航空軍基地を置いている元アメリカ陸軍飛行場のホイラー飛行場からは、連日の様に巻雲が爆撃を繰り返している。また、新型機の富嶽も本土で既に生産が始まっている。
「戦果報告では、まだ敵機の迎撃を受けているようですね。撃墜される機は少ないですが、毎回の出撃で損害を被って、稼働率が少しずつ低下しています。」
陸海軍共同戦略航空軍指令の塚原二四三中将が言う。
「それは分かっている積りですよ。陸軍航空総監部にも、増援機を要請しています。」
ここにあるのは、殆どが海軍所有機の巻雲だった。少しずつ、軍内部の対立は少なくなっているのだが、まだ完全とはいかなかった。
「終いには、二式大艇で西海岸を爆撃しそうですよ。」
塚原は皮肉を込めて言う。いくら、世界最高の飛行艇である二式大艇でも、戦闘機に捕捉されれば逃げられる確立は低い。
「富嶽を海軍に優先して回して貰う様に根回しした。まずは初期生産100機が3日後こちらに付く。それまでは耐えてくれ。」
視察に来ている山本は、塚原にそう言った。
‐ハワイ 海軍鎮守府-
「ホイラーでは爆撃機が不足しそうだよ。」
山本は視察から帰ってくるなり、鎮守府長官の豊田に言う。
「まあ、そんなもんだろう。護衛機なしで飛ぶんだ。むしろ、撃墜される機が少ないことが奇跡だよ。」
アメリカのB29並の防御力を持っているから、撃墜されることは少ないが、それでも稼働率が少しずつ低下しているのは不味いことであった。
「サンディエゴを狙いたいが、50機の巻雲の大半が敵機の攻撃で煙を噴いて帰ってきたそうだ。」
「敵も、自国の制空権は渡したくないんだな。やっぱり、パナマ運河よりも先にアメリカ本土を狙うべきではないか?」
豊田は山本にそう伝える。山本は暫く考え込む格好をする。
「最悪、パナマは空挺部隊で占領させる。運が良いことに、パナマはそこまで多くの守備隊が駐留しているって訳ではない。本土上陸と平行して、そちらも行うとしよう。」
「そうと決まれば、やる事は一つだな。」
豊田は立ち上がって、地図のサンディエゴの部分にバツを付ける。
「まずは、サンディエゴを叩いて、敵を無理やり出させ、敵艦隊と決戦。殲滅後、本土上陸。それと平行でパナマに空挺部隊降下。」
豊田はそう言って、地図に自艦隊と敵艦隊の動きを書く。
「仕方が無いが、それで行くか。」
山本も、そう言った。大まかな作戦も、山本は既に頭の中に叩き込んだ。