軍事計画
-横須賀-
「こ、これって?」
東郷率いる独立航空機動部隊は、横須賀に着いて驚く。日本の海上自衛隊の艦艇が停泊しており、陸には陸上自衛隊の10式戦車が見えた。
「本当だったんですね。」
隣に江田原が来て言った。
「遂に、日本政府も重大な決断をしたのだな。」
戦後始まって以来のアメリカに対する反抗。それは、自分を今まで育ててきた親元から離れるとは訳が違うだろう。
「西澤総理も大胆な決断をしたものだ。」
目の前にいる自衛隊員達が別人の様に見えてくる。それは、戻れなくなるかもしれないと覚悟を決めた男の顔そのものだった。
「彼らも、時代は違えどこの国を救う為に来たのだ。がんばって貰わねばなるまい。当面は、南方が主戦場になるだろう。特にガダルカナル。ここを、如何にかせねばなるまい。」
林原は史実どおりの正論を述べていった。実際、史実との経過は違うが、連合軍はガダルカナルを目指して進んでいた。上陸予定は9月10日。この日は、第二次アメリカ独立戦争にてエリー湖の湖上戦においてアメリカが決定的な勝利を得たことからこの日に上陸作戦開始をアメリカ政府は計画した。
「連合艦隊は我々からの資料を基にガダルカナルの早期基地化を行っております。既に、ラバウルから3個飛行中隊が進出しており、ブイン(ブーゲンビル島)にも飛行場建設が始まっております。1ヶ月弱で完成する見込みですよ。」
「早いな。」
「ただの燃料や弾薬を補給するだけの基地ですからね。航空機の駐機スペースを作る必要が無いんですよ。」
ブインに飛行場を建設する理由は、ガダルカナルがもし史実どおりに占領された時、途中の補給基地が航空隊に求められる。そこで、ラバウルとガダルカナルの丁度中間に位置するブインを中継基地に選んだのだ。
-国会-
「彼らが来て、我が国の工業水準は大幅に上がりました。今や、国内総生産は非常に高いレベルを誇っており、平均では列強諸国にも引けをとらない状態です。」
国会では、東條英機を始めたとする内閣の人間が平成からの増援についての処遇を考えていた。
「彼らは、必要ならば彼らの時代でも兵器生産をすると言ってきております。もし、これが本当ならアメリカとも対等な戦いが出来るでしょう。」
近代戦争は生産力も重要な課題なのだ。アメリカは、現在では兵器としての質でも高いが、第二次大戦当時はあまり高いとは言えなかった。しかし、勝てた理由の一つに世界一の工業生産力が上げられているのだ。
「まあ、そこは彼らの申し入れを受けようではないか。」
国会は、平成時代の日本と絶対的協力関係の維持をするという方針に決まった。
-平成の首相官邸-
「昭和の政府は我々の申し入れを受けると通達してきました。」
北里は西澤に現状を伝える。
「そうか。これで、我が国はより一層の好況になるだろう。」
この申し入れの裏には、やはり失業者の更なる吸収という意図が隠されていた。失業者を吸収し、経済を成長させるという狙いが政府は考えていた。勿論、国会内には太平洋戦争介入を反対する者が居た。しかし、北里は彼らに向かって
「そんな精神で、先人達の救ったこの日本に居るならば、今すぐに国籍を破棄して海外でも宇宙でも行ってしまえ。」
と、国会にて発言したのだ。
「早速、三菱重工業、昭和航空工業。それに、新たに創設された新米重工業、荒川重工業に航空機の生産を依頼しました。彼らは、何で旧軍の航空機を造るのか疑問の声を上げておりましたが、何とか誤魔化すことが出来ましたよ。」
「艦艇はどうする?」
「三井造船と川崎重工業に艦艇の建造を依頼しました。護衛艦などの建造と、艦艇に使われる鉄加工製品などの生産を行わせ、それを昭和時代に持って行って造ります。」
西澤は俯き加減になり
「彼らにも上手く誤魔化したのだろうな?」
「はい。」
「心は痛むよ。同民族の日本人を敢えて騙すなど。」
「お気持ちはお察しいたします。」
そう言って、北里は首相官邸を後にした。
-昭和の横須賀-
「部隊を輸送船に乗せ、ガダルカナルへ増援部隊を送る。ガダルカナルでの戦死者はおよそ2万。その内の約1万5千人ほどが餓死や病弱死だ。これだけは防がなきゃいけない。」
横須賀鎮守府の一室を貸して貰い、そこで陸自と海自とで会議をしていた。空自はジェット用に滑走路の延長が終わらねば活動できない為、暫くの戦場参加は無理だろう。
「既に、おおすみとしもきたに部隊や車両を乗せ、待機状態です。命令さえあれば、いつでも出撃できます。」
10式と18式戦車4台ずつと10台の浄水車や10台の野外炊具一号、それに大量のタイ米と陸上自衛隊員を乗せた輸送船が待機している。それに、ガダルカナルには輸送機によって自走野砲や高射砲などが空輸されており、それの訓練を受けた隊員も一緒に移動している。その他、第二便の輸送機には99式施設作業車などが送られ、飛行場の戦力化を早める要因となった。
「では、護衛艦10隻と共にガダルカナルへ派遣しよう。他の艦艇も訓練を終えたら随時、南方方面へと移動して貰う。」
海自総指揮官、影鎖義之海将は言った。彼も空母建造推進者の一人で、当時は海将補だった。
「東郷も、行ってくれるな?」
「勿論です。」
林原は了解する。一瞬、自分は何の為に内地に来たのだろうかと疑問に思ったが、そこは敢えて突っ込まないでおいた。
「史実を変えることが出来れば、今の日本が変わる。」
「ああ、しかし。これは総理や防衛大臣からの密命だが、あくまでも我々自衛隊は大東亜共栄圏の達成だ。東郷が何をしようと、我々はそれだけの実現を目指すからな。」
「ええ、構いません。」
次の日、輸送艦「おおすみ」と「しもきた」を入れた護衛艦10隻、それに東郷を旗艦とする独立航空機動部隊も横須賀を出航したのだ。日米激戦地、ガダルカナルを目指して。