北朝鮮からの使者
-首相官邸-
「総理、経済操作を行っていた工作員を何とか片付けられました。逮捕した工作員一人は、口を割っておりません。」
国家公安委員会委員長が首相官邸に訪れて、説明している。
「持っていた武器は、全て北朝鮮の刻印が刻まれております。しかし、米国製兵器などが一部見受けられ、入手ルートを探っております。ですが、内調の入手した記録チップを拝見しましたが、裏でやはりアメリカが絡んでいる可能性があります。」
「アメリカ、か。どうして、彼らの姿が見え隠れするのだろうか?」
「北朝鮮を支援して、彼らの国益になる事があるのでしょうか?」
総理も、そして国家公安委員会委員長も全く思いつかなかった。
「やはり、革命が起こる事を望んでいるのだろうか?」
「委員長、確かにその線も否定できないが。もう少し慎重に調べてくれ。工作員が口を割るのが最適ではあるが、この件は既に国際問題と言うレベルの話では無くなっている。」
西澤も、この一連の騒動が既に一国が処理できる問題で無い事を悟った。影で暗躍するアメリカ、戦争拡大の道を進むアジア、世界大戦すらも起こりえない欧州情勢。
「中国だけでなく、アメリカとも戦うのだ。欧州と共にな。アジアと欧州。この戦争は、規模がでか過ぎる。」
-国防総省-
防衛省から国防総省に変更された省内で、北里はある写真を見ていた。
「これが、未来から提供された技術を元に、18式戦車を大幅改造された戦車か。」
写真は、18式戦車を大幅に改造された戦車であった。モジュール装甲を全て取り外し、ゼネラルミック装甲を装備。更に、対戦車ミサイルランチャーを砲塔左に連装で設置。車内は、360°立体カメラによって映し出された映像を見て、死角無しの完全警戒型。
「まるで、戦車内に居ながら外にいるようだな。」
写真を見ながら、北里は思う。
「これなら、戦車長の指示なしにバックも出来る。戦車長の仕事を少し楽になるな。」
車内では、まるで仮想現実空間みたいな状況であった。しかし、ゲームに慣れた若者には直ぐこの手の戦車は慣れるのが良い。逆に、それなりの年長には扱いに苦労する。北里も、その一人だ。
「しかし技術庁も、もう少し我々にも扱いやすい戦車を開発して欲しいものだ。」
-技術研究本部陸上装備研究所-
神奈川県にある、陸上装備を研究する研究所では、試作一号車が置かれている。
「これが、今度正式採用することなった22式戦車です。っと言っても、18を改造しただけですが。」
東部方面総監が試作戦車を視察しに来ていた。実質、運用するのは2個機甲師団の中から選ばれた50台分の乗員。別に、総監自らの視察は特に必要と言うほどでも無い。
「しかし、新たに創設した第16師団があると言うのに、第7師団と合わせて選ばれた150名しか乗車できないのは残念です。新たに創設された16師団は、まだ十分な数戦車を装備していないのですから、そちらに優先的に回せばいいのですが。」
「新たに創設された物は、何かと低く見られるのが世の常だ。ついこの前まで、第16師団は存在しなかった。」
2020年頃から、第16師団創設に向けて動いていったが、何を装備する部隊にするのかで内部モメが起こった。その為、つい最近創設された。
「結局、戦車を装備する部隊になったのだが、戦車の数がどうしても揃わなくてな。74を与えて最近まで訓練していた。今は新式の10や18を受領して訓練に励んでいる。」
「その中と、7師団から選ばれた者だけが22を運用する。そして、選ばれたものは確実に激戦地送り。」
「ハハハ。別に、死んでこいと言っている訳ではないさ。一応、隊員の練度や成果などを見て国防総省で会議する事になる。」
もう一度、試作22式戦車を見る。
「こいつも、結局は闘う宿命を持つのだな。」
「戦車は、その名の通りに戦う車ですから。」
-首相官邸 会議室-
「これでようやく、準備は整った。」
各大臣が一斉に集まり、会議室で今後の方針を決めている。
「竹島奪還、舞水端里爆撃、防空・・・。どれも成功はしている。しかし、今度は離島での戦いではなく、こちらが補給面で非常に不利な戦いになる。」
「石油をとりあえず繋ぎとめて居りますが、中東が石油を売らないと言えば、幾らエネルギー省大臣の言う藻類燃料などでも限界が来るでしょうな。」
経済産業大臣と外務大臣は同意見であった。結局、日本は永遠に無資源国の不利を受けることになる。それは、資源が殆ど産出されない加工貿易国が避けては通れない宿命である。
「ええ。持って1年でしょう。成長が早いとは言え、大量に燃料を消費する戦車や一度に大量に動く車両軍団などを賄えるには限界が来ます。」
永見エネルギー大臣もそれは十分承知であった。元々、藻類燃料などは石油に代わる燃料ではあるが未だに賄えるだけの量を生産する力は日本には無かった。全国規模の藻類プラントも、石油を補う為に使用されている為、主力としての使用はしていない。
「法務大臣、特例として自動車移動量を制限する法案を作成できないかね?」
「総理、そんな事をすれば流石に国民は納得しませんよ。ただでさえ、未だに軍事に対して否定的な者が居るぐらいですから。そんな法案通せば、国会は崩壊しますよ。」
「国内動乱だけは避けねばならんからな。仕方が無いか。」
「国内動乱は何よりも危険です。革命は国を滅ぼす力こそありませんが、国家機能を一時的ではあるが麻痺させることが出来る。そんな中で他国が攻めて来たら、国は消滅します。滅ぶなら、立ち直る事も出来るが、消滅すれば立ち直ることが出来ない。」
「同じに聞こえますが。」
「同じようですが、中身は別物です。滅んでも完全に無くなる訳ではないので復興できる可能性がありますが、消滅すれば無くなるので、復興できません。」
「国防大臣、それは政府と言う概念が日本から無くなると言うことですか?それは、この国が行政を失った事を言っているのですか?」
「そうなりますね。行政を失えば、何でも自由に出来る。そして、国民に当たる者は二度と立ち直れないように教育する事だって可能なのです。そして、行政を失うことは三権分立の崩壊を意味します。そうなれば、他の司法と立法と併用してこの国は滅茶苦茶にする事だって出来る。それこそが、消滅を意味します。」
-東京湾-
「1ヶ月掛かって、ようやく侵入できたな。」
東京湾に侵入した新羅海軍所属の原子力潜水空母『赫居世居西干』は、オホーツク海から1ヶ月掛けて侵入できるチャンスを待った。そして、対潜艦の交代する一瞬の隙を突いて侵入できた。
「浮上後、例の電文を発信する。それと同時に、マストを露出させて軍使旗と白旗と新羅国旗を掲揚する。」
艦長を務める、朴明国大佐(北朝鮮で大佐は一般には上級大佐。ちなみに、一般の大佐は北朝鮮では上佐)は乗員に指示を出す。
「了解しました。タンクブロー、浮上します。」
赫居世居西干は、タンクから海水を排出して浮上する。
「東京湾の窮屈な水中から、やっと出られるんだ。」
入るときに一時的に船体上部が露出したが、今では完全に潜行している。東京湾の平均水深は17m。最大でも、70m程度しかない。
「浮上しました、直ちに電文発信並びにマストに旗を掲揚します。」
浮上したと同時に、電文と旗を掲揚するのであった。