短すぎた終結
-ハワイ パールハーバー-
「燃料タンクは60%残っているな。」
「はい。残りの40%は既に燃やされておりました。」
山本は港湾設備を見て回っている。
「ドックは無事だったから良かったが、大和型をはじめとする、大型艦艇は自走浮きドックか、内地のドックで修理するしかないのか。」
「はい。湾内に着底している艦は引き上げ、ここで応急修理した後、内地へ送って大改装を行います。」
「速力を上げる機関換装と砲塔と砲身の大型化。それに伴う船体の延長と拡大。終わるのは例によって半年か。」
「はい。機械化によって効率は上がっておりますが、まだまだアメリカには敵いません。」
「アメリカは半分の期間で済ましてしまうぞ。」
「分かっております。」
-ハワイ鎮守府-
ここは、元太平洋艦隊司令部だった所。現在はハワイ鎮守府として、太平洋方面の重要な泊地となっている。
「アメリカ艦隊と決戦は出来ませんできませんでしたな。」
ハワイ鎮守府司令長官に着任した豊田副武大将は山本と将棋をしながら話す。
「豊田さん。私は、予想外でしたよ。ハワイで決戦を行うつもりだったのに、逃げられた気分です。」
「山本さん、貴方はハワイを獲って終戦に持っていく考えだった筈。今なら、講和の席を設けられるかもしれない。現に、イギリスはドイツ軍に上陸され厳しい。ソ連はモスクワが墜ち、連合軍の雲行きは気難しくなっている。今、我々は連合軍に下るべきではないのか?」
「アメリカと現時点での講和は難しい。なぜなら、アメリカは未だに太平洋方面に空母の大艦隊を持って来ようとしている。捕虜が吐いた情報を組み合わせると、サンディエゴに新鋭エセックス級空母4隻が擬装中であり、しかも残りの空母も集結中だそうだ。」
っと、そうこう言っている間に、山本は王手を掛けた。
「ハハハ、負けた負けた。やっぱり、博打など賭け事では敵わんな。」
「戦争が終われば、ビリヤードでも付き合いますよ。」
「若い頃は熱中したな。まだ、勘があれば良いのだが。」
そして、豊田は急に真面目な顔になって。
「さっきの空母の話。信用できるのか?第一、捕虜はそう簡単に情報を吐かんと思うが。」
「源田君が、飴とムチ作戦で片っ端から吐かせたそうだ。」
「成程。」
飴とムチとは、元々は国民懐柔策の一種だが、ここでは尋問方法を意味する。基本2人一組で行う。片方が優しく接する。これが、飴の意味。それで従わないと、もう片方が銃なり何なりで、脅して無理やり吐かせる。その時は、本気で殺すぐらいの迫力と相手が比較的臆病で無ければ成功は難しい。
「捕虜の人道的扱いと、えらくかけ離れていますが。」
「殺してないのだ。そこら辺は厳命している。」
-東郷-
「艦長、ジョージ・ワシントンの核兵器の搬入、終了しました。」
尾上が報告に来る。
「そうか。尾上、すまんがこの艦の艦長になってくれ。」
いきなり、影鎖は尾上に言う。
「どうしたのですか?突然。」
「私は大将でもある。大将が艦長兼任では身が持たん。副長の席は空ける事になるが、やってくれ。」
「別に、それは構いませんが。実質、艦長は私がやっていた様なものでしたので。」
「助かる。」
-軍令部-
「ハワイ、連合艦隊司令部より新たな作戦案が提出されたようです。」
その、新たな作戦案を見た。
「攻撃目標、サンディエゴ。目的、アメリカ空母艦隊を撃滅し、一気に講和へと運ぶ。」
「また、山本は突拍子も無いことを。」
永野総長は言う。
「しかし、空母を叩けば講和に応じる可能性があります。ハワイで、敵艦隊と。」
「知っていたのだよ。」
林原の言葉を永野は遮った。
「え?」
「脱走した尾崎秀実が、情報を盗んだのだ。だから、ニミッツは空母艦隊をサンディエゴに向かわしたんだ。」
「それは違います。尋問で、二ミッツ長官は空母をこれ以上失わせない為に撤退させたと言っております。大統領命令でも、ハワイを死守するように言われていたそうです。」
「では、尾崎は何処に?」
「それは不明ですが、少なくとも尾崎は無関係です。」
「なら、良いのだが。」
-ウラル要塞-
「同志スターリンは戦死。」
モスクワ攻防戦でスターリンは巻き込まれて戦死。モスクワは陥落した。逃げ切った共産党員達は軍を再編してウラル要塞へ立て篭もった。
「変わって、同志スターリンの遺言により、この私ゲオルギー・マレンコフが最高指導者となった。」
(スターリンの懐に隠れて権力を握った飼い犬めが。)
アンドレイ・ジダーノフは拍手こそしているが、内面ではどう葬るかを考えていた。
(日本はハワイを落とした。そして、もうじきアメリカと。いや、連合国と講和する。その時、我々は第三国として日本や中国に攻め込む。逃げ道を作り、そこからドイツへも反撃してやる。その準備が整うまで、精々頑張るのだな、ゲオルギー。)
その奥には、尾崎が控えていた。