伏兵
-オアフ島-
「橋頭堡を確保し、ホノルル市内での戦闘が激化しております。」
山下中将の下に伝令が来る。
「分かっている。」
山下は落ち着いていた。市街戦など、日本軍は幾度と無く経験している。その経験を信じての落ち着きだった。
「急げ急げ!!」
機関銃などを背負って行き、窓に備えて応戦している。市街地では、スターリングラード並みの戦闘が繰り広げられていた。
「撃ち続けろ。」
窓から機関銃弾が襲い、前進する日本軍を阻む。
「とにかく、時間を稼ぐんだ!!」
「戦車に応援を求む。それと、沿岸から航空支援か砲撃支援を要請しろ。」
中隊長が無線で各部隊に応援を要請するように言う。
「市街戦は何度も経験してるが、これ程の激戦は未だかつて無い。」
「隊長、本当にあの部隊は来るんですか?」
「来ると信じて、戦ってるんだ。来るとな。」
全員が、向かっている部隊を期待している。
「とにかく、今は戦うことだけを考えろ!!。生き残ることを考えろ!!。」
2式重戦車が、先ほどまで機関銃を撃っていた窓に90mm砲を撃ち込んで沈黙させた。
「前進する。」
急いで出て、道路を戦車の陰に隠れて前進を開始する。
-伊勢-
「仰角30°。目標、ホノルル市内。」
伊勢を含む、日本海軍戦艦部隊が単縦陣で主砲をホノルル市内に向ける。
「零観からの砲撃観測準備完了。」
伊勢から打ち出された零式観測機がホノルル市内上空に滞空。着弾観測の用意に入った。
「撃て!!」
早速、第一斉射が行われる。各艦一斉砲撃は迫力満点である。
「上陸部隊に被害が出ないよう、観測は慎重に行え。」
「分かっております。」
-大和-
「攻撃隊が飛び立ちました。」
航空支援のために南下していた大和を含む空母艦隊から、急降下爆撃機と戦闘機が発艦した。続いて、過重爆装した水平爆撃機も暫く後に発艦する。
「山口中将、作戦は順調ですね。」
「そうだろうな。ハワイに集結した作戦部隊は日本海軍が今まで経験したことの無い大艦隊と大航空兵力、そして上陸部隊。3倍は満たせなかったが、それでも大兵力には代わりが無い。」
上陸戦3倍法則を満たしていないが、それでも十分戦えるだけの兵力を整えている。
-東郷-
「電波を出し続けているが、まだレーダーに捉えられんのか?」
影鎖は焦っている。ずっと電波を出している為、既に東郷の居場所は突き止められている。艦隊から離れた所を護衛艦艇と行動を共にしている為、他の艦隊には支障が出ないのが幸いである。
「敵なら捉えましたがね。数25の戦爆連合です。」
「直援機が向かいました。」
「急降下射撃を仕掛ける。」
相手の頭上から一気に急降下。頭からの攻撃。太陽を背にした攻撃は見つけにくい。
「一撃で、9機の爆撃機を葬った。我が方損害なし。」
一撃で9機が、煙を吹き、プロペラが停止して降下していく。撃墜であった。
「ペロハチが来るぞ。」
護衛しているP38は烈風改を追ってくる。
「2班に分かれて迎撃。」
対戦闘機部隊と対爆撃機部隊とに分かれて迎撃を再開した。
「早く来てくれ。出ないと、長期化してしまう。」
戦闘機パイロットも焦りが出始めている。なんだかんだ言って、2週間も戦っている。流石に、疲れが出始めている。
-東郷-
「ちょ、長官。捉えました。本隊を、レーダーが捉えました。」
「そうか。勝った。我々の勝利だ。」
影鎖は安堵して、椅子に座る。
「短いようで長かった2週間だな。」
「野中一家。爆撃機及び降下部隊を引き連れて登場。」
編隊を率いる一番機『巻雲』に搭乗しているのは野中五郎少佐。陸海軍合同生産機である『巻雲』は陸海軍の対立を終結させるという重要な役割を担った機でもある。
「やっぱり、爆撃機こそが俺の天職だったのかもな。」
後部座席に居る野中は余裕で座っている。
「降下部隊に準備するよう伝えろ。降下部隊を乗せた鈍足な二式大艇と、零式輸送機に飛翔(キ92)を引き連れて来たんだ。失敗したら、連中に爆弾の雨を降らせてやる。」
ホノルルへ進路をとる爆撃機と輸送機は完全に戦闘態勢に移行する。
「降下開始!!」
巻雲の爆撃の中、降下部隊がパラシュートで降下を始める。
「ホノルルを落とせば、ハワイは降伏する。絶対に落とせよ。」
「下は火の海ですね。」
「ああ。住民は既に避難している。残ってるのは軍人だ。」
敵戦闘機も飛んでいない。制空権を完全に獲っている。日本本土爆撃とは逆の状況であった。
-太平洋艦隊司令部-
「提督、ホノルルに配置した部隊が壊滅したそうです。」
「敵落下傘部隊が続々と降下中。」
ニミッツの元に続々と戦闘情報が来る。その殆どが、自軍の大損害を伝える報告だった。
「我々は、十分戦ったのだろうか?」
ニミッツは窓の外。燃えるホノルル市内を見て言う。至る所で火災が起こっている。しかし、消防車がサイレンを鳴らしていない。民間人は、ワイアナエ山脈や農地などへ避難させている。
「提督。これ以上の犠牲は、とても。」
「降伏するなら、今しかありません。」
参謀たちは降伏を促す。
「・・・分かった。至急、キング提督へ電報を打ち、降伏することを伝えよ。それに、日本軍へ特使を出し、こちらに降伏交渉の用意がある事を伝えよ。」
「了解しました。」
ニミッツは、遂に降伏を決意。既に勝ち目が無かった。敵の兵力を見誤っていたわけではない。決して、油断があったわけではない。時が、遅すぎたのだ。
「我々は、反撃する最善の時を逃してしまった。ミッドウェーと言う最高の場を用意されながら、失敗した。」
暗号解読が出来て、待ち伏せに成功した筈の唯一の作戦。それを裏をかかれて失敗。スプルーアンスは左遷、除隊させられている。
「やはりスプルーアンスの忠告を聞くべきだったか。」
ミッドウェーでの敗北後、スプルーアンスは日本と講和できる唯一の時は今しかないと主張。上層部は撥ね退けたが、二ミッツは聞き入れていた。
「いや。今は終結が先か。」
この後、二ミッツと山下とで降伏交渉が開始。二ミッツは捕虜の人道的扱いを要求。山下は承諾。それを持って、ハワイ守備隊は武装解除を行った。