トラ・トラ・トラ『我、再ビ真珠湾奇襲成功セリ』
-大和-
山口多門中将は、第一航空戦隊旗艦の大和の艦橋に構えていた。
「山口司令、山本連合艦隊司令長官より電文。貴艦隊は、そのまま東進。真珠湾を北方より奇襲せよ。です。」
通信士官が報告する。
「分かった。これより、無線封鎖に入る。艦艇同士の連絡は発光信号、手旗信号にせよ。」
「了解。」
通信士官は艦橋を降りていく。
-紀伊-
「長官、山口中将からの返信ありません。」
紀伊では、大和の山口司令官宛に送った電文の返信を待っていたのだ。
「構わないだろう。恐らく、向こうは無線封鎖に入ったのだ。こちらも、もう間もなく入る。」
こちらには、ジョージ・ワシントンと東郷が空母として参加している。残りは全て、山口中将か角田中将のどちらかの指揮下に入っていた。
-大西洋 空母『フォーミダブル』-
大西洋では、ドイツ海軍のUボートだけでなく、小型の巡洋艦による通商破壊にも悩まされ始めていた。
「艦長、ここら辺もドイツ空軍の勢力圏内です。航行は気を付けた方が。」
「霧の中なのに、これ以上気を付ける必要があると思うか?ただでさえ、護衛している艦艇の殆どを目視できないと言うのに。」
霧の中、フォーミダブルはマルタ島への航空輸送任務を負っていた。マルタ島は、ドイツ軍の猛攻を再び浴びる羽目になったアフリカへの枢軸輸送路を脅かすことが出来る数少ない場所の一つである。その為、何が何でも守り通す必要があった。
「レーダーに感あり。単機です。こんな霧の中を単機で飛ぶはずがないので、恐らくは霧の粒子の乱反射でしょう。」
「目標、ロック。」
しかし、機体には独逸空軍の国籍マークが描かれていた。
「初の実戦参加だな。」
搭乗している機体はMe264。そして、搭載されているのは何とV1だった。
「ええ。どちらも初めての実戦参加です。この戦果次第で、今後の両兵器の生産が決定します。」
「しかし、航空機で撃ち出すとはな。科学者も考えたよ。これなら、搭載燃料が少なくて済むから、弾頭の爆薬量を増やせる。」
1.5t試作弾頭を搭載しているV1は、爆弾倉が開放されると、アームによって機外に出される。
「発射!!」
アームが外れ、ロケットエンジンに点火。霧の中を、ロックしたフォーミダブル目指して飛行を始める。
-フォーミダブル-
「!!。霧の粒子による乱反射じゃない!!これは、敵です!!」
直ぐにレーダー員が異変に気付いた。しかし、遅かった。
「左舷より、高速接近中の物体あり!!」
甲板には航空の山。格納庫内には爆弾など、大量の可燃物。燃料も満載。幾ら防御力が強靭だと定評の英空母。それもイラストリアス級航空母艦でも耐えられる筈がない。
「か、回避!!」
「無理です。向こうの方が上です!!」
左舷に命中したV1ロケットは、その勢いに任せて舷に突き刺さった。そして、遅発信管が数秒後に作動。爆発が起き、格納庫をいとも簡単に破壊。そして、破壊エネルギーは突き刺さった破孔だけでは解放し切れず、飛行甲板に達する。
「総員退艦!!」
こうなれば哀れだった。たった一発で、飛行甲板すらも火の海に変え、破孔から浸水した為に艦が傾斜していく。
「こんな所で。本艦の兵器が無ければマルタ島も落ちる。アフリカから、連合軍は撤退する。そうなれば、大英帝国は本当に崩壊する。」
爆発が続く中、艦橋に残った艦長は悟った。
「大英帝国が、無敵の不沈空母と謳ったイラストリアス級がたった一発の攻撃で沈んだ。この事実は、大英帝国崩壊の第一幕になったか。」
艦長はそう言ったところで、考える。
「いや。第二幕だな。第一幕は、日本がインドを占領した時だな。」
フォーミダブルは、その巨体をゆっくりと海中に没して行った。
-大和-
「攻撃隊、準備完了。」
一週間半程掛けて、ハワイ北方の作戦海域に到達した山口中将指揮の第一航空艦隊。
「発艦開始!!」
山口中将の号令一回で、各機が次々と発艦する。
-ハワイ レーダー監視所-
「レーダーが作動しない。」
レーダー全域に雲が発生し、役に立たなくなる。
「くっそ。故障とはついてない。」
手で叩くが、直らない。
「他の監視所にも連絡して、確認してみよう。」
直ぐに電話で、他の監視所に問い合わせた。しかし、
「どういう事だ?全ての監視所から、ほぼ同時刻にレーダーに雲が発生して役に立たなくなったと言う報告が来る。」
何処も同じだった。
-ハワイ上空-
ハワイに存在するレーダー網をすり抜け、大和から早朝に飛び立っていたE2E(電子戦用に改造された機)とE2Dがハワイ上空に到達し、真珠湾の状況を正確に伝えている。
「湾内に停泊中の大型戦艦あるも空母無し。」
『了解。偵察を続行せよ。』
「了解。E2Eの電子妨害で、敵の電子の目を潰している。本機は偵察及び攻撃隊の指揮を請け負う。」
旋回し、真珠湾上空を回り始める。
「最高だぜ。雲があるお陰で、こっちの姿は地上からは発見されない。」
2機のE2はペアを組んで一緒に旋回している。片方は敵の電子の目を潰す。もう片方は偵察と指揮。どちらも、この作戦には欠かせない重要な任務を負っていた。
「真珠湾上空に敵機なし。」
攻撃隊は真珠湾を捉える。
「よ~し、真珠湾攻撃の再現だ。」
艦隊に戻って来れた、真珠湾攻撃時の隊長。淵田美津夫中佐は2度目の真珠湾でも隊長を任されていた。
「軍令部なんてお堅い連中が居るとこで仕事なんか性に合わん。俺はやっぱり、飛行機に乗っている方が一番落ち着く。」
偵察員席に座っている淵田。真珠湾攻撃時の97式艦攻ではないが、塗装は全く同じである。
「母艦に打電、『我、真珠湾ヲ再ビ奇襲セリ。トラ・トラ・トラ。』。」
後部に居る電信員が母艦の大和を始め、連合艦隊各艦並びに本土にも転電されて届く。
「先手必勝。先に戦艦を頂くぞ。」
淵田の乗る天山は、真珠湾攻撃一発目の魚雷を停泊しているペンシルベニアに命中させるのであった。
V1を飛行機から発射するのは、実際に行われている。命中率は低かったらしいが。作者が知る限りでは、He111から発射したのがロンドンに来襲した位。他にもあるかもしれないが。