講和計画
―ジョージ・ワシントン―
「この艦はどうするんだ?」
影鎖が浜西と共にジョージ・ワシントン艦内を歩く。
「船体は帝国海軍の軍籍にして、艦載機を積み込む予定だそうです。元々の艦載機じゃあ、ジェットの為に運用できませんから。」
「なら、艦載機は陸揚げして平成に送ってくれ。我々には艦載機が無いんだ。この貴重な艦載機を研究に使わない手は無い。」
「確かに、そうですね。東郷も、完成したはいいが艦載機が無かったですからね。」
東郷は、完成したのに艦載機が無いと言う不運に見舞われた。だが、艦載機があったら建造許可が出たのか怪しい所なので、その点は得した。
「艦載機はF18とF35、それに新型輸送機のC13、警戒機のE2、電子戦機のEA18G、どれも最高の機体ばかりですね、影鎖大将。」
「ああ。それにステルス・シーホーク、対潜シーホークに救難シーホーク。シーホークシリーズの勢ぞろいだ。」
ビンラディン殺害に使用されたと噂されるステルスブラックホークの海軍版まで搭載している。
「ステルス・シーホークを6機も積んでいますよ。2機ほど、残してもいいでしょう?」
「そうだな。役に立つかもしれんし、残しとこう。残りのヘリは陸揚げしよう。艦載機は、警戒機を2機残して陸揚げだ。E2ならレシプロ機、最高でも625㎞/h程度しか出ない。十分使い熟せると思うからな。」
「はい。」
「ただ、やはり機器の操作には空自の早期警戒機に乗っていた人間にやってもらう。操縦はこの時代の人間でもフライト・シュミレーターを使えば難なく出来るようになるが、機器の扱いまで訓練している余裕は無いからな。」
「ええ。御尤もです。」
昼、ジョージ・ワシントンから艦載機の陸揚げが始まった。分解してC130で海上にできているタイムトンネルに突入。そのまま飛行場に降り、技術解析等を行う。
―東郷―
「艦載機とパイロットもそれぞれの空母に少しずつ配備され始めております。皆、猛訓練を耐えた猛者ばかり。練度は、開戦時よりも更に上がっております。」
尾上は影鎖に報告する。
「そうでなくては困る。艦載機パイロットの練度が、この作戦の成否を左右するのだからな。内地では、111号艦の『紀伊』が進水した明日には各種試験を処女航海で行いながらトラック諸島に向かう。ま、5日ほど掛かる。」
「5日、ですか。」
「早い方だ。本来なら1週間程度は掛かる。あの艦の速力は34ノット。原子力機関を採用したから、加速も速いし、燃料も不要だ。」
世界初の原子力戦艦として大和型改の紀伊が進水した。
「扱えるのですか?」
「原子力発電所に勤めていた人間や、原子力船『むつ』に居た者も混ざっている。扱えるさ。」
「確かにそうですが、もし沈んだ時に原子炉はどうするのですか?」
「自動閉鎖されるようにしている。それに、沈まない様に随所に工夫を凝らしている。」
喫水線下にバルジを設けるなどの工夫を凝らされている。それに、新素材金属を使って船底などを加工されている為、沈む可能性は低い。
「それなら、安心です。」
「それじゃあ、私は行くぞ。山城の長官室に呼ばれている。山本長官からな。」
「それは、急がなきゃいけませんね。」
「ああ。そっちの艦隊には感謝している。船団護衛で、潜水艦を先制攻撃して沈めているそうじゃないか。お陰で、輸送船の被害は全くと言っていいほど無い。」
「はい。」
―山城 長官室―
「さて、影鎖大将。貴方方のお陰で当初の目的は達成された。」
「恐れ入ります、山本長官。」
「皆の者にも言っておいたよ。ハワイが、アメリカとの決戦場だと。」
「はい。しかし、アメリカの最終兵器をどうにかしない事には。」
山本は俯き加減になる。
「やはり、原爆か。」
「ええ。原爆をどうにかしない事には、アメリカも講和の席に立つとは思えません。」
「その始末は、私達に任せて頂きたい。原爆を、絶対に葬ってやります。」
「そうか。では、信用していいのだな?」
「はい。」
―盛岡―
「では、お願いします。」
米内が都内から一度、郷里に帰っていると聞き、林原は盛岡にて米内と接触。事の経緯、今後の事、そして、説得を行っていた。
「米内さんは、あくまでも山本長官が海軍大臣に成る間の中継役でお願いします。」
「まあ、山本君とは面識もあるし、彼なら海軍大臣を任せて良いから、構わん。だが、なぜ中継役が必要なのかね?今から山本君を海軍大臣にしても良いではないのか?」
「確かに、それもそうです。しかし、山本長官は不本意ながらもこの戦争突入のきっかけを作った真珠湾攻撃の立案者です。その責任は、取ってもらいます。彼の手で、対米戦を終えさせなくてはいけません。」
「それじゃあ、君たちかね?石原を説得して、日本と共産党を極秘裏に講和させたのは。」
米内は思い出すように言う。
「ええ。恐らくは、影鎖長官が行った事でしょう。」
「君たちには驚かされるよ。僕の考えていた、負けなければこの国は目覚めない。これが、覆されたのだから。海外から、どんどん取り入れ、仕舞いにはやっかいな軍国主義まで取り入れてしまった。」
「それが、日本人ですよ。宗教での多神教国だからこそ、色んなものを取り入れているんでしょう。取り返しのつかない物を取り入れてしまう事も時々はありますが、それもまた、日本人の美徳なのでしょう。」
「僕には、まだ分からないよ。」
米内のこの言葉を背中に、林原は外に出る。
「出せ。」
外に待たせていたトヨダ・AA型自動車に乗る。
「どちらまで?」
「東京だ。東京、海軍省に。」
「分かりました。」
運転手は車を走らせる。
(これで、良いな。近衛さんは永野さん直々に説得に行ったらしいし、これで内地での準備は整ったか。)
山道に入った所で、林原は後ろを走っている同じくトヨダ・AA型車に気付く。ガラスが太陽の光を反射して、車内を見ることが出来ない
(大衆車だから特に怪しまなかったが、こんな人通りの少ない山道まで一緒なんてことはありえんだろう。・・・・まさか!?)
その時、後ろの車から九九式軽機関銃がフロントガラスを突き破って現れ、ボンネットに固定する形で発砲してきた。
「くそ。」
予想できていた林原は直ぐに伏せる事が出来たので、大事には至らなかった。しかし、
「ぎゃああ。」
運転手はそうもいかない。車は山道から脇に出て、そこにある岩で一回転をして横転した。
「国賊が、死んだか?」
車から、二人の陸軍軍人が降りた。そして、横転した車をチェックする。
「死んだか?」
割れたガラスの中を見ると、顔などに血の付いた林原の姿を認める。
「国賊は死んだ。」
そう言った時、林原はホルスターの9mm拳銃を抜いて、確認した陸軍の人間に発砲。心臓を一撃で撃ち抜き、車から脱出する。
「お前たち、一体何をやっている!?」
林原は9mm拳銃を構えながら言う。
「煩い、貴様ら国賊が居るから、盟友ドイツが同盟を破棄したんだ!!」
そう言って一式拳銃を抜いたため、林原は右胸を撃つ。
「残念だが、ドイツが同盟を破棄したんじゃない。我々が、破棄したのだ。」
「か・・・はっ!。何故だ?何故、。」
「ドイツ総統、ヒットラーの書いた我が闘争の完訳版か原版を読むんだったな。そうすれば、なぜ破棄したか分かっただろうに。」
ヒトラーの著書、我が闘争でアジア民族を劣等種と書いた事は有名な話だろう。
「馬鹿・・・な。」
そこで、力尽きる。
「馬鹿者め。さっきの言動から見て、陸軍親独派の一派だろう。海軍では、既に親独派の殆どが考えを改めたと聞くし、陸軍もいい加減考えを改めてほしいよ。」
顔に付いた血を拭う。林原本人の血では無く、運転手の血である。それを死んだと見せかける為に顔に付け、死んだフリをしていた。
「まあ、これに懲りて、考えを改めてくれたらいいのだけど。」
陸軍軍人の乗っていた方のトヨダ・AA型に乗り、改めて東京目指して走りだした。