そうりゅうVSバッファロー 後編
―そうりゅう―
「敵の我慢比べで3時間か。」
海底に鎮座して3時間。じっとしていられるのも、そろそろ限界になる頃だった。
「ソナー、注意して聞けよ。」
「分かっております。」
―バッファロー―
「前に潜望鏡で確認できましたが、この時代にはえらく旧式の輸送船が存在しています。」
「分かっている。衛星が使えないんだ。つまり、ソ連が1957年に打ち上げたスプートニク1号すら宇宙に行っていない時代かもしれん。」
冷戦時代の宇宙開発では、ソ連とアメリカが対決していた。だが、宇宙開発ではソ連が一歩リードしていた。ドイツ人科学者をソ連は多く獲得していた為、リードすることが出来たのだ。
「太平洋戦争の最中だって言うんですか?」
「言い切れんが、船の国籍は日本だったのだろう?なら、可能性は高いよ。戦後の日本にそんな余裕は無い筈だし、戦前にしては少しおかしいからな。」
「とにかく、核の処理は艦長にお任せします。早急に考えてください。さっきから、嫌な予感がするので。」
―そうりゅう―
「中々、ボロを出しませんね。」
「ああ。有線通信できないか?上の対潜哨戒機に?。」
「分かりました。」
通信したいと言う意味の、艦内の重油を出す。重油は潜水艦の燃料に直接応用できないから、脱出時に使うように積んでいる。
「了解。ソナーを投下してもう一回、探知する。」
しかし、対潜哨戒機のパイロットは勘違いをしてソナーを射出してしまう。
「馬鹿野郎が。それじゃあ、捕捉できるが、こっちも見つかっちまう。」
そうりゅうの乗組員がそういった時、ソナーが探信音を放ってしまった。
「敵潜探!!。ほ、本艦の真横です!!。」
「何!?」
―バッファロー―
「!!。艦長、この海域に敵潜が!!。っと、言うか。本艦の真横に敵潜が!!」
「何だと!?」
両者が同時に相手の潜水艦を見つけた。
「音紋分析、そうりゅう型です。」
「海自の潜水艦がこの海域に用も無く居る筈がない。戦闘態勢に入れ!!」
バッファロー艦内は戦闘態勢に入る。
「魚雷を装填しろ!!全速前進。」
―そうりゅう―
「敵、魚雷発射管内に注水。」
「敵もやるきだ。後進急げ!!」
「敵は前に航行しています。」
勝った!!と艦長は思った。
「敵の推進音を魚雷に入力しろ。発射!!」
2本の魚雷が敵潜目掛けて発射された。
―バッファロー―
「そうりゅう、魚雷を発射!!」
「やはりか。こっちも魚雷発射だ!!」
バッファローも魚雷を発射する。
―そうりゅう―
「更に2本発射用意。言っておいた座標に魚雷を撃ち込め。」
「了解。」
更に2本。座標入力で魚雷を発射した。
「魚雷接近中。ロス級からの魚雷2本が、本艦に向けて来ます。」
発射後に、ソナー員が伝える。
「急速回頭。面舵一杯!!」
直ぐに移動を開始する。
―バッファロー―
「敵潜、魚雷を発射。」
「機関停止、タンク注水。」
バッファローの艦長は機関を停止させ、タンクに注水して潜航で回避を決断する。
「感2、いえ4。本艦に向けて来ます。」
「大丈夫だ。全て推進音を入力している筈だ。」
―そうりゅう―
「敵魚雷、真っ直ぐこちらに向かってきます!!。」
「き、機関停止!!急げ!!」
「だ、駄目です!!。敵魚雷、迷走せずに真っ直ぐこちらに向かってきます!!」
「対潜哨戒機に入電。『我、任務全ウセリ。最後マデ影鎖長官ニオ供出来無カッタ事ヲ悔ム。先ニ靖国ヘ行ッテオリマス。』と。」
直ぐさま、対潜哨戒機がこの入電を受け取る。そして、暗号化して軍令部などの関係各所に転電された。
「さようなら、日本。影鎖長官。来世で、またお会いできる事を願っております。」
艦長は覚悟を決める。乗組員も、全員同意した。
数秒後、魚雷はそうりゅうに直撃。艦首を破壊され、そのまま沈降。暫く沈み、圧潰した。
―バッファロー―
「敵潜が沈みました。」
「魚雷は?」
「2本、迷走して通過しました。残り2本はもう直ぐ通過。」
バッファローは安心しきっていた。
「あ!!。艦長、ぎょ、魚雷が魚雷が進路を変えて本艦に!!」
「何だと!!」
「残りの2本は音紋じゃない。座標による、無線誘導です。」
全員が慌てる。
「き、機関緊急始動!!回避!!。」
「だ、駄目です。間に合いません!!。」
バッファローにも、そうりゅうの遺産。2本の魚雷が艦首に命中。そのまま、そうりゅうと同じく圧潰した。
―東郷―
「そうりゅうが沈没。乗組員、全員戦死・・・・か。」
林原は東郷にて報告を聞く。
「惜しい連中を失った。艦は金があれば作れるが、乗組員はそうそう用意できない。」
「ええ。特に、そうりゅうの乗組員は最高の練度を誇っていた。彼らの様な人間はそうそう育つものじゃありません。」
尾上も、そうりゅうの損失以上の損失を感じ取る。
「家族には、どう説明したらいいだろうか?」
「中国との交戦で、最後まで任務を全うした。っとしか言えませんね。」
「だな。」
昭和にも、平成の中国が宣戦布告した報告が届いていた。
「5月、17日。そうりゅう、パラオ沖にて沈没・・・か。」
「ええ。我々としては初の大きな損失です。みかさは元々、アメリカから購入したので問題ありませんが。」
「許してくれよ。我々が無理してでも留まっておけば、沈まずに済んだかもしれないのに。」
「艦長。」
「尾上君。暫く、一人にさせてくれ。」
「はい。では、失礼します。」
尾上は、そう言って東郷の艦橋を後にする。
―ワスプ―
「いよいよ、空母として初の4発機発艦だ。」
ワスプの艦上には、片翼を海に出したB17が待機している。武装なども全て取っ払い、爆弾倉を開放する装置なども取っ払われている。勿論、爆撃照準儀も。その他、レーダーなども取っ払い、無線も受信しか出来ない軽量の物を積んだ。
「急げ急げ!!。グズグズしている暇はないぞ。」
甲板では、作業員らが慌てて作業をしている。試作されたばかりのロケット・ブースター。っと言うよりもジェット・ブースターだが。それを取り付ける。
「予備の燃料タンクも積んでおきました。ハワイまでは、ギリギリです。風向きによってはたどり着けない可能性もありますよ。」
「ハワイ周辺に潜水艦などを待機させたまえ。」
マッカーサーは甲板で作業をしている兵らを見ながら言う。
「ようマッカーサー。お前さんは元気そうで何よりだよ。王国を追い出されたのに王様。」
ハルゼーは会うなり、嫌味を言う。
「ハルゼー、お前こそ自分の城をみすみす敵に明け渡したそうじゃないか。え?城主さんよ。」
「言ってくれるじゃないか王様。」
「ふっ、城主さん。」
二人の間で火花が散る。
「は、ハルゼー提督。そ、その辺に。」
「マッカーサー大将も、その辺で。」
二人の副官は間に入って止める。
「そうだな。今日は仲良く脱出するんだ。しかし、皮肉だな。フィリピンから逃げる時も、こうしてB-17に乗ったんだな。」
「っへ。今度はオーストラリアから脱出か。だが、この脱出はある意味では歴史に残るぜ。4発機、世界で唯一発艦に成功ってな。」
B-17のエンジンが暖まった所で搭乗する。機長は、経験豊富なドゥーリトル准将が務める。
「それじゃあ、行きますよ。」
ドゥーリトルは各部をチェックし、推力を上げる。
「ロケットブースター点火!!」
一瞬で推進力が増大し、機体は勢いよく滑走する。
「速度・・170・・・180。今だ!!」
操縦桿を引く。甲板先で多少沈み込んだが、無事に大空へ羽ばたいた。
「よ~し、上がりました。」
B17にはハルゼーやマッカーサー、各参謀。それに優秀なパイロットが搭乗している。
「ワスプとも、お別れだな。」
その時、ワスプの左舷から水柱が何本も上がる。
―ワスプ―
「魚雷攻撃を受けました。」
「くそ。護衛艦が居ないからって、いい気になりやがって。」
単艦で空母が行動する事は、まずあり得ないが、殆ど艦艇をハワイに移動させたため、護衛できる艦が居なかったのだ。
「だが、どうせ本艦は既に失ってもいい艦。総員、退艦!!」
―ずいりゅう―
「逃がしましたね。」
B-17の空母からの発艦を潜望鏡と、それに繋いだビデオ録画機が捉えていた。
「ワスプは長くは持たんが、まさかB-17を発艦させるとは。史実でも、あったか?」
「いえ。私たちの知る限りではありません。」
「じゃあ、この映像はもの凄く貴重だぞ。」
「分かっておりますよ。」
ワスプを沈めたずいりゅうは急いで海域を離脱した。