終幕の始幕
―ホワイトハウス―
「諸君、私は非常に不愉快だ。」
ルーズベルトは新聞を見ながら言う。記事は『この男に合衆国を任せられるか?』や、『太平洋戦争を支持?』と言う見出しだった。
「アメリカは今や世界の笑いものだ。東洋のサルに、こうもしてやられたのだからな。」
「大統領、現在我々はオーストラリアへ如何にして救援物資を送るかを検討しております。日本軍がガダルカナルを手中に収め、そこから飛び立つ航空機によって輸送船や潜水艦は次々と被害にあっています。」
米海軍作戦部長のキング大将は言う。
「前線から、空母を要求する声があります。大統領、至急エセックス級の工期を早め、最低6隻を今年の6月までに揃えてください。また、インディペンデンスなどの小型空母も、大量建造をお願いします。」
キングにとって、海軍贔屓のルーズベルトを上手く丸め込ませ、空母を大量に増産する計画をたてた。
「また、客船のノルマンディー号を引き上げ、空母改装もお願いします。搭載機数は130機前後の空前絶後の航空母艦をお願いします。」
「引き上げて、改装をする事は出来るからな。やるだけやってみよう。」
取りあえず、海軍増強は決まった。
「陸軍の意見を言いますと、我々はオーストラリアの維持は難しくなりました。ニューギニアも既に敵勢力圏内。ニューギニアとオーストラリアは捨て、ハワイ防衛に主眼を置いた方が良いと思います。」
陸軍のマーシャル大将は言う。
「ハワイまで、戦線を下げるのか?」
「はい。そして、長期戦を行うしかありません。運の良い事に、日本は物量作戦が展開できません。なので、長期戦では生産力に勝る、我々が有利かと思われます。」
「ふむ、已むを得ないのか?」
「オーストラリアの維持には、我々の国力の大半を使う事になります。それよりも、イギリスは欧州にアメリカ軍を望んでおります。」
「イギリスなんて勝手な国、私の前で名を出すことをやめてもらいたい。」
「これは失礼。キングはイギリス嫌いでしたね。」
「自分らで植民地を広げておき、いざ戦争になれば我々に防衛を任せる。しかも、我々に依存している。連中は、植民地帝国と言う仮面を被ったこけおどしの存在だ。」
キングのイギリス嫌いも有名であり、大西洋方面の意思決定会議に出席すると、必ず荒れると言われた男である(実際に荒れた)。
「しかし、オーストラリアに居るマッカーサーはどうする?」
ルーズベルトはマーシャルに問う。
「そ、それは。」
「今現在、オーストラリアにはワスプが居ります。これに、B17を徹底改造して軽量化し、ブースターを取り付けて発艦させます。片翼を海に突き出せば、十分に可能です。」
キングが言った。
「確かに、B25で空母から爆撃機が発艦出来る事は正面したが、あくまでも双発機だ。4発機など、前代未聞ではないのかね?」
「その点については、アーノルド大将に説明してもらいます。」
「はい。私もキング大将から言われた時は驚きましたが、確かにそうすれば可能だと判断しました。それに、マッカーサーを乗せ、空母からロケットブースターに点火した状態で最高速度で滑走。そのまま発艦出来ると、結論しました。」
「しかし、誰が飛ばすのかね?」
「それは、第一人者でしょうね。中国へ飛び、そのまま南下した、ドゥーリトル准将が適任です。」
会議に参加してた者全員がオー!っと言う。
「確かに、彼なら出来るでしょう。」
マーシャルも納得する。
「では、海軍は空母の増産と言う事で。陸軍は南を捨て、ハワイにて長期戦の縮図を描く。これが、太平洋方面の結論で、良いのかね?」
「はい。」
全員が納得する。
「では、会議はこれでお開きだ。」
―ホワイトハウス 大統領執務室―
「レズリー准将。マンハッタン計画の首尾はどうかね?」
「現在、科学者総出で開発を進めております。ただ、未だに未知のエネルギーの為、開発は難航しそうです。」
「だが、これには国民の多くの血税を費やすのだ。成果が無ければ不味い。」
「分かっております、大統領。科学者も、それを理解して上で全力で励んでおります。オークリッジでは、ウラニウム235とプルトニウム239の精製を始めております。」
「分かった。期待しているぞ。」
―トラック諸島―
「南方方面は既に安泰。豪州へ向かう艦船を撃沈し、補給絶え絶えです。」
今現在、主力の殆どは改装中であるため、臨時旗艦として山城が連合艦隊旗艦を務めている。
「ニューギニアは救援陸軍のお陰で順調に進攻できているそうではないか。」
「恐れ入ります、宇垣参謀長。」
平成でも陸軍と名乗れる様になった為、昭和では混同を避けて救援〇軍と呼ばれるようになった。但し、一部では海自や陸自など、旧名で呼ぶ者も居る。
「内地では、自走浮きドックでしたっけ?。あれのお陰で改装工事に入れなかった艦も入れた。お陰で長門や陸奥も改装できる様になったのだから。」
平成からタイムゲートを通じて空母艦隊整備の為に増産しておいた自走浮きドックを入れた。これのお陰で、改装工事が行えるようになったのだ。
「空母艦隊も改装工事を受けている。諸君らの旗艦である空母と同じアングルドデッキを採用する事となった。」
「お陰で、南にはカタパルトを装備したばかりの小型空母しか配備できていない。」
連合艦隊は連合艦隊で大変だった。次々と改装に為にドック入りしている為、艦隊配置を次々に変えている。
「大型空母は、諸君らの持つ東郷のみだ。上手くやらねば、不味い事になる。」
「大丈夫です。アメリカも、艦隊整備をしなければ進攻できませんから。」
林原は自信満々に言う。
―自走浮きドック 4号艦―
「建造は順調だな。」
呉海軍ドックから引っ張り出した大和型戦艦4番艦『111号艦(仮名)』は、自走浮きドック内で戦艦として建造中だった。但し、主砲は46㎝55口径連装4基、127mm連射砲8基、高角砲は65口径10㎝高角砲、25mm4連装機銃80基、CIWS10基など、昭和と平成の技術が融合した超戦艦だった。
「影鎖大将、来たんですね。」
この111号艦艦長にある予定の有賀大佐であった。彼を引き抜いたのは他ならぬ影鎖であった。彼の戦績を鑑みて、最新鋭の111号艦艦長に相応しいと感じたからだ。
「6月までには間に合うか?」
「現在、技師や工員などを優先して回してもらっておりますので、6月の初めには進水できます。試験などは軍令部から必要ないとお達しが来ておりますが。」
「航行中にやれば良い。今は、一隻でも艦が欲しい。アメリカと、今度は本気で、真っ向からぶつかるのだから。」
「アメリカも、艦隊をハワイ周辺に配置していると言う事ですか?」
「そうだ。南には居る主力艦はオーストラリアに停泊しているワスプだけだ。他には駆逐艦や潜水艦なども居るがな。」
「戦艦と空母をハワイに集中させ、一気に攻勢に出るって事ですか?」
「攻勢に出るかどうかは分からんが、そういう事だ。」
「終わりの、始まりですね。」
有賀は東の、アメリカの方角を向いて言う。
「そうだ。本当の戦いはこれからだ。今までは、序曲に過ぎん。」
影鎖もまた、アメリカの方角を向いて言った。