インド解放セリ
―東郷―
「攻撃隊出撃ポイントまで、あと少しです。」
尾上が飛行甲板に並べられた航空機を見ながら言う。
「各空母からも、攻撃隊の出撃用意が整ったと発光信号を受けました。」
「陸軍をはじめとする進攻部隊の状況は?」
「はい、東部の占領は完了しました。しかし、そこからは進めておりません。イギリス軍の戦車隊が行く手を阻み、思う様な進撃が出来ないそうです。掩護の航空隊も、イギリス駐留空軍の抵抗で効果的な攻撃が出来ておりません。」
「だが、逆を言うとそちらに兵力を差し向け過ぎ、こちらの警戒が疎かと言うところか。」
アラビア海に入ってから、一度も敵航空機を探知していない。
「では、遣ろうではないか。」
「了解しました。」
尾上は直ちに攻撃隊を出撃させた。
―ボンベイ―
「聞きましたか?日本軍がインド東部を占領したって話。」
アメリカ石油会社派遣社員のカイル・ビクターは表向きには現地の油田調査でインドに派遣されているが、正体はアメリカの戦略諜報局(OSS)(現在のCIAの前進)調査員である。
「はい。しかし、どうしてセイロン島を空襲したのでしょうか?それに、インドを攻め込む価値が日本にはあったのでしょうか?」
もう一人の調査員がカイルに聞く。
「援蒋ルートの関係だろう。日本には連合国の中国支援の為の物資補給ルートを潰す必要があったから、インドに攻め込んだのだろう。そして、セイロン島空襲はイギリスのインド方面における主要海軍基地の機能を低下させ、占領させやすくするためだろう。」
「それは、分かります。しかし、リスクがあまりにも大きいのでは?」
「だが、成功した今現在、イギリス海軍はインド洋から完全に姿を消している。それに、イギリスは増援も遅れないのが現状だ。」
「どうしてです?」
「悪魔が動き始めた。今、イギリスはドイツによる再び爆撃を受け始めている。」
インドに攻め込まれたイギリス帝国の弱体化をヒトラーは見抜き、空軍に再びイギリス攻撃を命じたのである。しかも、ご丁寧に空軍基地を幾多も重点的に爆撃している。
「今や、イギリス帝国は消滅寸前だ。Uボートによってイギリスの海上輸送路はズタズタ。一矢報いてても、ドイツは次々にUボートを投入して戦果を挙げている。それに、インドはイギリスの兵力と資源の大部分を供給しているのだ。インドを失ったイギリスは間違いなくドイツに攻め込まれる。」
インドはイギリスにとって無くてはならない植民地であった。その為、増援を送りたい。しかし、ドイツの突然の攻撃で部隊編成を行えず、しかもUボートによる輸送船被害が大きくなってしまい、増援を諦めざるを得なくなった。
「インドも、独立しますね。このままじゃあ。」
「ああ。それに、もし日本がこのボンベイに日の丸を見せてみろ。その瞬間、インド国民は各地で反乱を起こし出すぞ。そうなれば、イギリスの、そして欧州植民地帝国の崩壊を・・・」
その時、突然の空襲警報。
「空襲警報!?」
慌てて2人はホテルから外を見た。すると、遠くで海軍工廠が炎上していた。
「海軍工廠が、爆撃されている。」
そして、
「零戦」
3機のゼロ戦が編隊を組んで調査員の泊まるホテル上空を通過して行った。
「宮部中佐より、例の行動を開始せよとの命令。」
編隊を率いた宮部中佐から、ベテラン零戦乗り3人にある命令が下されていた。
「それじゃあ、やりますか。ついて来いよ。」
3機がピタリと一直線になって飛行する。
「見えて来たぞ。キング・ジョージ5世とメアリー王妃のインド訪問を記念して建てられた、大英帝国インド支配の象徴、インド門。」
「行くぞ。」
機体を90°横転させ、インド門へ接近する。
「失敗したら命が無いからな。気を付けて行けよ。」
インド門の間を上手く、通過できた。
「やったぜ。」
「ああ。でも、少しビビった。」
ベテランでも、狭い空間を高速で突破するのは流石に神経を使う。しかし、何とか成功させることが出来た。
―チャットラパティー・シヴァージー空港―
「こりゃあ、チャーチルの血管が幾らか破断するな。」
カイルは車に乗って飛行場までたどり着いた。
「カイルさん、各地でインド人民が反乱を起こしています。先ほど、日本軍も進撃を始め、インド政府は国内安定を理由に降伏しました。」
「だから、日本とは戦争をしたく無かったんだよ。あの国は本当に恐ろしいからな。」
「今更言っても、遅いですよ。」
「そうだな。」
そう言って、乗って来たボーイング307に乗ってインドを脱出した。
この後、ボンベイにて降伏文書を調印。長らくイギリスの植民地だったインドは、ボース主導の下に独立し、自治の道を歩んでいった。
―ロンドン ダウニング街 首相官邸―
(まさか、最悪のタイミングでこんな敗報を伝える羽目になるとは。)
インド省からの報告を聞いた連絡員が、チャーチルの居る首相公室の前で立ち竦んでいた。
(ドイツの攻撃が再び始まり、空軍は壊滅状態。アフリカでは、枢軸軍にようやく一矢報いた所。こんな時に、最悪の敗報。いつも以上に私に癇癪が飛んでくるだろう。)
連絡員は、癇癪が飛んでくるのはほぼ毎回の為に慣れていたが、それでも、今回の癇癪はいつも以上に飛んでくると思って扉を開けられないでいた。
すると、扉が少し開き
「入れ。」
チャーチルの声が聞こえた。
「は、はい。失礼します。」
覚悟を決め、連絡員は中に入る。
「インド政庁の間抜け共が。私のティータイムのアッサムを取り上げおって。この事を国内に広がらぬように手を打ちたまえ。しかし、ワシントンに居るルーズベルトの所にだけは行き届くようにしろ。」
「は、はい。」
連絡員は入ってから怖くて顔が上げられなかったが、この時ようやく顔を上げることが出来た。そして、
(こ、これは!?)
首相の机の周りには、机の上にあった筈の電話やランプは壊れて床に落ちており、また書類も殆どがビリビリに破けて床に落ちている。机の上には、割れたティーポットとカップがあるだけだった。
FX、前回出した候補機を全て取りやめる事になってしまいました。そして、代替としてヨーロッパのタイフーンに決定しました。まあ、今の所提示されている中で一番待遇が良く、しかもアメリカと違って元々の性能版を提供してくれる可能性があるからです。