爆撃計画始動
―東北新幹線本線―
「それで、爆撃は可能なのだな。」
東北新幹線が2019年に運行を始めた『すいせいE7系』のグリーン車を貸し切って防衛大臣の北里を含む、自衛隊幹部が乗っている。
「はい。富嶽の1か月に渡る完熟訓練も終了し、整備と燃料を補給して何時でも飛び立てる状況です。」
なぜ、北里等が飛行機で移動しなかったかというと。中国の空母打撃群に理由があった。日本近海に展開していると言われている空母から突然の攻撃で専用機を撃墜される可能性があるからだ。
「まあ、作戦の失敗はありえないでしょう。何と言っても富嶽は100%のステルス性能を発揮しております。我が国のステルス戦闘機『心神』でもあれ程のステルス性は発揮できません。」
2014年に試作機が完成し、2016年に設計流用で戦闘機として生まれた心神は数が殆ど無いが作戦行動をとれる状況にあった。
「大連の防空は手薄との噂もあります。まあ、中國が本気で日本が攻めてくると考えていないのでしょう。」
自衛隊員らも、まさか自分らが中国を攻撃する事など予想もしていなかった。しかし、北里が中国を攻撃すると言った時には血気盛んな若者は乗り気となった。
「中国の油断は相変わらずだな。国民性から見ても。」
「はい。」
「それにしても、これは快適だな。」
西澤の娯楽政策により、列車内は韓国に習ってシネマカーが存在する。韓国は、全てでは無いが、料金に上乗せしてその日に上映されている映画を見ることが出来る特別車両が存在する。そして、全ての座席にはイタリアのフェラーリ社が採用した小型テレビを各席に設置を習って日本側も採用。この様な娯楽政策は、技術の問題から大勢の人が製作に関わる様になる。その為、これも裏の目的である失業者吸収が実現する事となった。
「はい。総理の手腕には感服いたします。」
他にも、映画製作のセットを特別に作るなどを行っている。法律に一部は触れているが、国内政策によって失業者は劇的に減る事となった。
―十勝秘密航空基地―
地図には記載されない秘密の航空基地。それが、十勝空自基地であった。数か月前には存在しなかった突貫基地。しかし、水戸が提供した資材によって、今では一大飛行場となっている。
「集まっているな。」
三沢基地からヘリコプターで到着した北里防衛大臣は基地に並ぶ富嶽と整列する搭乗員たちを見る。
「諸君らの任務は、大連に居る未だ稼働半ばの原子力空母2隻と港湾施設を完全に破壊する事である。そして、これが自衛隊創隊以来初の対外攻撃である。無論、死者が出るかもしれん。しかし、無駄死にではない。祖国を守るために戦い、死んだのだ。戦死者には靖国へ祀ってやる。」
その時、一人の空自隊員が手を挙げた。
「何だね?」
北里はその手を挙げた空自隊員を見ながら言う。
「では、もし戦死したら。我々は護国の英雄の許に行けるのですね?」
「そうだ。だが、生きて帰ってくれ。まだ、祀るのは早いからな。」
既に、沖縄では中国軍と交戦した陸自と空自の一部に死傷者がでている。その者たちは全員、靖国へ祀られた。
「では、出撃時刻が迫っている。搭乗したまえ。」
北里はそう合図をした。防衛大臣が直接指揮するのは創隊からここまでで初である。
「羽島二佐、聞こえているかね?」
『はい。』
富嶽隊飛行隊長の羽島二等空佐は無線機を介して答える。
「君の望んでいた長距離爆撃機。こんな形だが、確かに君に預けたぞ。」
羽島は自衛隊が日本本土に侵攻された時に備えて長距離爆撃機、少なくとも爆撃を専門に行う爆撃機が必要だと唱えていた。北里も、どうにかしてやりたかったが、憲法の縛りでどうしても無理であった。
『はい。こんな素晴らしい爆撃機に乗れて自分は感謝・感激です。』
「そうか。頼んだぞ。この作戦、成功しなくては原子力空母も中国海軍に加わり、脅威としてはかなりのレベルに達する。」
『お任せください。必ずや沈めて参ります。』
北里はそれを聞いた後、時計を見る。
「それじゃあ、出撃時刻だ。頼むぞ。」
『了解しました。』
無線が切られ、滑走路に待機していた機体が一斉にエンジンを始動する。流石は6基で45万馬力を出すだけある。もはや轟音と表現できない。
「これが、空に上がれば、静かになるのか。」
このエンジン音は滑走路に反響して発生している。飛び立てば、反響する物が無くなり、驚くべき静粛性を発揮する。
「加えて、100%のステルス性。正に、絶対に捉えられない護衛機要らずの爆撃機。影の要塞と呼ぶに相応しいな。」
北里はそんな事を思いながら、離陸していく富嶽を見る。
「現在、高度1万5000。」
富嶽は上昇し、通常の爆撃高度に入った。爆撃照準儀なども未来技術であり、高度3万からでも超精密爆撃が可能な成層圏精密爆撃機とも呼ばれている。エンジンは電磁力推進式。磁場によって空気を勢いよく押し出す推進方式で、これが高度3万での飛行を可能にした。
「素晴らしい。大型機とは思えない操縦性、速度、上昇力。全てにおいて世界中のどの爆撃機よりも勝っている。」
同規模として挙げられるのがB52。しかし、性能差は歴然であった。搭載力では最大78tと富嶽が圧倒。速度も最高時速マッハ1.5を記録。しかもステルス機。操縦桿は大型機ゆえの重さが全く感じられないほど軽い。
「しかも、無線封鎖中に備えての機上には発光信号灯。そして、高性能レーダー。電子関係も充実している。」
機内は完全に与圧され、非常に快適である。下手をすれば、民間機よりも快適である。テレビなども完備され、長距離飛行の暇つぶしにもなる。
「目標へ到達しました。」
眼下には小さく見える2隻の空母と港湾施設。
「了解、爆弾倉開放。」
羽島は直ぐに各機へ通達した。100機編隊だったのが25機の梯団に分かれ、目標爆撃へと移る。
「爆撃進路、固定。爆撃用意。」
コンピュータを操作している爆撃手が指示する。羽島は操縦桿を固定し、副操縦士を見る。
「レーダーに異常なし、敵機が上がってきません。」
副操縦士が羽島の言いたいことを悟って答える。
「だろうな。完璧なステルス機は、電子機器を破った。世界は再び大戦前の哨戒機での敵機発見の時代になるだろう。」
羽島はそう言い、原子力空母を眺める。
「短い、人生だったな。」
物には魂が宿ると言う考えに基づき、空母の魂に敬意を送る。
「爆弾投下。」
その時、爆撃手が言った。1tの対艦攻撃用高性能爆薬を搭載している爆弾が一機当たり78発投下する。
―大連―
「おい、何か聞こえないか?」
そう言って上を見た中国海軍の軍人らは騒然とする。
「小日本っだ!!」
上空を飛ぶ爆撃機に描かれた日の丸。空自のどの機よりも大きく描かれた日の丸は高度1万5000に居ながらも地上にはくっきりと見えた。そして、そこから投下される爆弾も。
「げ、原子力空母が。」
1tの対艦攻撃用高性能爆弾が原子力空母に直撃。雨の如く降り注いだ爆弾は原子力空母を完全に破壊し、沈没させた。稼働半ばだったのが幸いしてか、原子炉は稼働していなかった。お陰で、放射能汚染は無かった。次に、基地破壊用の250㎏高性能爆薬を搭載する爆弾が港湾設備に対して降り注いだ。
「に、逃げろ。」
大連港近くの街には逃げ惑う市民で溢れかえった。しかし、爆撃隊は正確に港湾設備を破壊。施設としての機能を完全に奪った。
「本日、日本軍機の攻撃により大連港を攻撃。同基地は完全に破壊されました。なお、この爆撃により、周辺の街では数千人にも上る死傷者が出ている模様です。」
帰りに傍受したラジオと、搭載テレビに映し出された映像を見て、爆撃隊員は
「俺達じゃないな。」
そう言った。
「だな。大半が同じ中国人に逃げる際に踏まれたりなんなりで死んだんだろう。」
中国の国民性は、上海万博などで明らかになっているだろう。中国の国民性である早い者勝ちで、逃げるのに焦って他の人を踏みつけて知らず知らずのうちに殺している事が多々ある。重慶爆撃でも爆撃の死者よりそちらの死者の方が多い。これを爆撃による死者と言い続けているが。
「とにかく、作戦は終了した。自国の損害を半分は正確に、半分は偽演している連中なんて放っておけ。」
羽島はそう無線で呼びかけ、十勝への飛行を急いだ。この頃、中国空母打撃群が、攻撃位置に到着し、攻撃隊の準備をしている事を日本側はまだ知らなかった。