ギルバート諸島 2
―ハワイ―
「ハルゼー提督、艦隊の出撃準備が出来ました。」
「分かったよ、カーニー君。それじゃあ、出撃しようか。日本の天皇の住処へ。」
不服だが、命令ならば実行する。そういう意味では、ハルゼーも血気盛んな優秀な海軍軍人であろう。
ホーネットにはB-25が16機、飛行甲板に並べられている。格納庫には50機の艦載機が存在する。
「今回は、敵の警戒厳重の中を行くんだ。生還の可能性は低い。でも、0じゃあねえんだ。」
「分かっております。ハルゼー提督。」
―ギルバート諸島―
「やはり、無線連絡が傍受できません。」
数時間前から、傍受できていた無線波が、ぴたりと止む。
「出撃していますね。間違いなく。」
尾上は林原に言う。
「だろうな。航海長、何時頃にこの海域に到着するかね?」
「そうですねえ。ざっと計算して、3日後。10月26日に到着すると思われます。」
「そうか。」
アメリカ艦隊は2つに分かれている。一つは囮であるギルバート諸島攻撃艦隊。もう一つは、本命である東京空襲艦隊。その中の一つが、江田原の読み通り、10月26日にギルバート諸島に到達した。
―アメリカ艦隊 旗艦 ワスプ―
「攻撃隊出撃せよ!!」
ギルバート諸島攻撃艦隊は指揮官にキンケイド少将であった。
「攻撃隊、全機発艦!!」
命令を受けた攻撃隊が次々と飛び立っていく。爆撃機のドーントレス、雷撃機で爆装中のアベンジャー、戦闘機のF4F。
「敵艦隊にも注意しろ。ドーントレス偵察隊を飛ばせ。」
アメリカはドーントレスに250㎏、もしくは500㎏の爆装をし、2機編隊で幾つかの集団を作って偵察を基本としている。そうすれば、発見確立を大幅に増やすことが出来る。しかし、その半面で爆撃機の多くを偵察機として出してしまう為、発見しても直ぐに攻撃部隊を送るのは困難だと言う点だった。
「格納庫内アベンジャーを雷装で待機させろ。ドーントレスは爆装だ。」
ワイルドキャットは護衛隊とは別に上空警戒も任務になる。その為、格納庫内に戦闘機は無い。
「了解しました。」
―東郷―
「レーダーに敵機反応。」
「機数は?」
「99機です。」
「およそ100か。空母の艦型は分かるか?」
「無理です。写真が無いと。」
「分かった。」
尾上は残念がったが、艦橋へマイクを繋げ
「艦長、敵機が99機接近中。」
っと、伝えた。
「やはり、来たか。」
艦橋では、艦長の林原と江田原が居る。
「迎撃を上げろ。日本海軍3空母にも、迎撃機の要請を。」
飛鷹や隼鷹、龍驤にも迎撃の要請を行い、作戦を開始する。
「第一航空艦隊には?」
「必要ないな。」
迎撃命令を受けた零戦43型が次々と発艦していく。
「皮肉だな。この艦にミサイルなどの最新鋭装備があるにも関わらず、迎撃にはレシプロ戦闘機を使用するとは。」
東郷にはミサイルVLSなどの通常空母には装備されない兵器が搭載されている。しかし、実戦で使用されたのはミッドウェー飛行場の破壊の時だけだった。理由を明かされていないが、影鎖が使用を控える様に言ったのがその原因だった。
「ええ。しかし、海将にも考えがあって言ったのでしょう。」
「分からんが、多分そうだろう。」
「艦長、航空管制室で航空隊の管制を一任しました。」
CICに居る副長の尾上から報告を受ける。空母には戦闘CICの他に自艦の航空機を管制する航空管制室がある。そこから、自分の艦の航空隊に全てに司令を行う場所である。
「迎撃隊、急降下開始。」
敵航空隊の真上に到達した迎撃隊は、機体を急降下させる。液冷エンジンが、十分に加速させてくれた機体が、より一層加速する。
「目標発見、攻撃開始。」
編隊を組んで急降下した迎撃隊は、爆撃機や雷撃機の撃ち上げてくる機銃弾を物ともせずに接近する。
「喰らえ!!」
主翼に搭載されている4門のマウザー20mm機関砲がドーントレスを捉え、撃墜した。
「おっと、暴れ猫が来たぞ。」
ワイルドキャット。普通は山猫と訳すが、彼らは直訳の暴れ猫と略した。
「構わん。全機撃墜しろ。」
戦闘機隊隊長の坂本中佐は僚機の無事を確認しつつ、全機迎撃の命令を下す。
「今までの零戦と、こっちは違うんだよ。」
急降下で逃走するワイルドキャットを見ながら、零戦パイロットは言う。
「それに、後部には7.7mm機銃に耐える装甲版があるそうだな。でも、こっちは全門は20mmなんじゃ!!」
グラマン鉄工所と仇名される頑丈さも、20mmの前では無力であった。
「こりゃいい。あの空母の資料室にあったマリアナの七面鳥の不名誉を、お前らが受けな。」
「俺たちは七面鳥なんかじゃない。立派な戦闘機乗りだ。」
成す術もなく、ワイルドキャットは撃墜されていき、ドーントレスやアベンジャーは酷い状況だった。次々と餌食になり、火を噴きながら墜落していく。
「隊長、残った敵機が撤退を試みますが。」
「構わん。集合を掛けろ。」
アメリカは67機の損失を出した。対し、日本側は12機と圧勝。
しかし、この時。ひしひしと日本本土に魔の手が忍び寄っている事を日本側は誰も気づいていなかった。