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世界最強の航空機動部隊  作者: 橘花
昭和 2
22/90

ギルバート諸島 1

―ギルバート諸島―


「空母部隊の配置が完了しました。」


作戦通り、空母部隊がギルバート諸島周辺に配置され、主力の空母部隊がナウル周辺に配置された。


「アメリカ海軍は動いておりません。ハワイに派遣された潜水艦は補給の為にトラックへ向かっております。」


東郷の飛行甲板で海を眺めている林原に尾上が報告する。


「副長、それではアメリカ軍の動きが掴めではないか。最悪は、奇襲も受けかない。」


「ルオットなどの飛行場に陸攻や戦闘機を配備しております。それに、我が艦は航行無しでも電磁力カタパルトで発艦も可能です。」


空母は現在でも発艦には全力航行が必要となる。しかし、東郷は電磁力カタパルトの装備で航行無しでも発艦が可能であった(実際は不可能)。


「パイロットは十分に休養を取らせておけ。」


「了解しました。」




―ハワイ 太平洋艦隊司令部 作戦室―


「作戦を説明する。」


作戦部長のキングが映写機に投影されているギルバート諸島の地図を見ながら言う。


「本作戦でここへの攻撃は囮であることを最初に言っておく。目標は、日本本土。」


日本本土はドゥーリトル中佐指揮の部隊が世界初の空母から発艦、帝都を含む数か所を爆撃後に中国大陸に飛び去った(一部はソ連)通り魔爆撃でアメリカ軍の士気高揚を果たした。それをガダルカナルとミッドウェー敗北で再び厭戦気分になっている国民を含め、活発化させようとルーズベルト直々に考案された作戦であった。


「本土爆撃作戦の作戦名は『エンペラー・ブレイク』。日本の天皇(エンペラー)の住処である東京目掛けて爆撃する。これで、日本軍部を。そして、天皇(エンペラー)の影響力を崩壊させるのだ。」


作戦指揮には、日本本土爆撃を指揮したドゥーリトル准将が直接搭乗して指揮する。艦隊指揮官には同じく東京空襲を指揮したハルゼー中将が当たる事となった。


「貴官らに与えられる空母は一隻だ。ホーネットがようやく修理を終え、投入できることとなった。エンタープライズは応急修理され、ワスプと共にギルバート諸島攻撃に参加する事となった。」


エンタープライズはガダルカナル作戦で空襲を受け、中破していた。しかし、応急修理で戦闘可能なまでに修復することが出来、投入されることなった。なお、ヨークタウンの教訓から、応急修理は泊地にて完工された。


「攻撃のタイミングや経路などは貴官らに一任する。我々が言いたいことはただ一つ。作戦を必ず完遂せよ。ただ、これだけだ。」


「了解しました。キング作戦部長。」


ニミッツは敬礼をし、キングは作戦室から出て行った。



―太平洋艦隊 長官室―


「長官、本気で東京を攻撃するのか?」


ニミッツの下にハルゼーがやって来た。


「俺は南太平洋で奴らの新兵器を見た。何処までも追いかけてくるロケット、遥か遠方の敵を捕らえる電波兵器。こんな警戒厳重の中をどうやって日本本土に近づけばいいんですか?前回だって、予定されていた所まで行けなかったのに。」


前回でも、日本近海へ到達する前に日本の巡視船が発見し、報告している。残念なことに、この報告を日本軍は生かし切れなかったが。


「それは分かっているつもりだハルゼー中将。君が弱気なのも珍しい。私も、正直今回の作戦は疑問を感じる。大統領の支持を獲得するために、我々を死地に追いやろうとしているのではないかと感じる。」


「だったら、なぜ抗議しない!?サラトガは沈み、ここで空母を失えば、もはや反撃する戦力は皆無に等しくなるぞ。」


「分かっていると言った筈だぞ、ハルゼー中将。損害の責任は私が取る。君らは作戦の完遂だけを考えたまえ。今日、ホイラー飛行場にドゥーリトル准将指揮の爆撃隊が到着する。それが積み込まれ次第、出撃したまえ。」


「また、B-25ですか?」


「そうだ。前回と同様に軽量化されている。」


「前回は初めてだから成功したようなもの。今回は警戒厳重の中を行って帰ってくる。最高のシチュエーションだ。遺族らが聞いたら泣いて喜ぶよ。」


「皮肉と受け取っておくよ。」


海軍帽を被り、ハルゼーは長官室を後にした。


「ハルゼー、私だって今回の作戦に反対だと言う事を、忘れるなよ。」


ニミッツは、窓の外に見えるホーネットなどの空母群を見ながら言う。



―軍令部 作戦室―


「ギルバート諸島へ艦隊の配備は終了しました。」


「艦隊も補給を終え、何時でも攻撃が可能です。」


机の上に現地の海図と艦艇を模した模型を置く。飛行場などの位置関係を再確認し、現地へ送受信可能の暗号無線機が設置された。


「新型の艦上戦闘機の力を見せてもらおうではないか。」


零戦43型は零戦22型をモデルに液冷エンジンに変えられ、20ミリ機関砲を主翼に4門装備した艦上戦闘機であった。他にも機体の至る所を改造されている。エンジンを液冷にしたのは、後に登場する烈風改の為に今から液冷エンジンの運用ノウハウを掴むための措置だった。


「あの艦戦は、これまでの零戦と違い、速度と航続距離、攻撃力などが格段に向上されております。急降下速度も調整を受け、780㎞まで向上しました。その他、機関砲はこれまでの99式と違い、マウザーを国産化しました。」


ドイツの20mmマウザー砲は日本の99式と違い初速や発射速度なども高い為、戦闘能力の大幅な改善が見られた。


「防弾装甲も装備し、座席後部に12,7mm機銃から身を守る装甲版を配置し、燃料タンクには防弾性のゴムと自動消火装置を装備していおります。無線機も自衛隊から提供された無線機を国内技術で出来る限りコピーし、装備しております。」


無線はそのお陰で雑音が一切なしの完全なクリーン状態で送受信が可能であった。無線機の使用可能は、それだけで戦闘力が数段上がるとも言われており、これの正常化が日本軍にとって大きな助けとなった。そして、米軍機の標準装備機銃の口径は12.7mm。だから、撃墜されてもパイロットの命だけは最低限守ることは出来る。



―呉―


「これが、大和なのか?」


影鎖が改装の進む大和の姿を視察に来ていた。


「戦艦の面影が無いな。」


上部構造は全て取り除かれ、船体の延長などの工事を昼夜休まずに続けられている。平成からも溶接技術などを持つ職人を大量雇用して現地入り。改装を手伝っている。


「あ、影鎖さん。」


大和改装委員長の松田千秋大佐は影鎖の元に来る。


「やあ、松田大佐。戦艦、いや空母『大和』の改装は順調ですか?」


「はい。来年の春ごろには就役できそうです。」


「春か。それまでは我々も進撃を控え、守りに徹している。一刻も早く、この戦力が必要なのだ。」


影鎖は空母大和を見ながら言う。他にも武蔵、信濃、長門と陸奥がそれぞれのドックで改装工事を受けていた。全て、空母化するために。


全て、一定の装甲化を行い搭載機は大和級は160機、長門級は100機としている。他にも、重巡の一部が水上機搭載能力を高めた航空巡洋艦に改装を進めている。そして、水上機母艦はカタパルト装備の空母化。軽空母で、一戦機の運用が出来ない空母はカタパルトを装備し始めている。


「日本海軍が、かつて計画していた八八艦隊計画。これが八八と言う訳ではないが、表現するなら八八機動部隊として誕生しようとしているのか。」


「影鎖さんは案外、マニアックな事も知っていますね。」


八八艦隊計画は、日本海軍を語るうえで絶対に必要となる知識だろう。軍縮条約前に、日本海軍が進めていた戦艦8隻、巡洋戦艦8隻の世界に類を見ない超艦隊創設計画。アメリカではダニエル・プランとして、別計画が進行していたが。


「空母を中心とする本格的な機動部隊。これの創設の為に第一航空艦隊は丁度良い実験艦隊です。あれで、我々が空母集中運用方式の基礎を築きあげ、それを下にこれから改装されていく空母と、第一航空艦隊を合わせた新八八機動部隊。これが、日本海軍の空母計画最終段階です。」


松田の事を、影鎖は砲術畑だと思っていた。しかし、実際は間違っていると感じた。空母の力を真珠湾攻撃で逸早く理解を示し、大和などの空母化を裏から支援し続けた。豊田などの海軍中心人物を説得し、大和などの空母化の許可を取り付けたのも彼だった。


「影鎖さん、貴方も私の講義に参加しませんか?っと、言っても。貴方方の時代では通用しないと言う事は分かっておりますが。」


松田は、改装委員長で呉に居る間、自らの考案した爆撃回避操艦術の講義を行っていた。特に第四航空戦隊司令時代には爆弾の全弾回避と言う神業を見せ、アメリカ軍を驚かせた。


「確かに、我々の時代では通用しませんな。それにしても、貴方とお話しして、歴史が違うと言う事を実感しました。」


影鎖は最初は松田の事をあまり好きではなかった。彼の尊敬する山本五十六を批判をしたのがその理由であった。しかし、実際に会ってみると、戦艦大和を始め、連合艦隊の象徴を全て空母化すると提案。その許可の取得に奔走した。彼は、これが影鎖たちの出現と、その後の未来を知って自分の考えの間違いに気付いたと語っていた。


そして、彼を驚かせたのが、自らも不沈戦艦の自負していた大和級が航空攻撃で沈められると言う現実であった。大和や武蔵に対する空襲の記録映像を見て、『これでは、幾ら自分でも全弾回避は不可能』と語った。それほどまでに、日本とアメリカの国力の違いを思い知ったのだ。


「現在、アメリカと日本の国力差はおよそ20倍。航空機は50倍近くの生産力の差があります。一機落とす間に20機、30機と次々に増えていきます。それに、民間からちょっとした訓練で軍事用に転用できるパイロットは日本の10倍。国力差を、改めて理解しました。」


松田は横須賀に停泊している護衛艦艦内で見た資料を思い出しながら語る。アメリカの反則的ともいえる圧倒的な量産能力には彼も絶賛するしかなかった。


「戦争は、新しい時代を迎えようとしているのでしょう。新たな新戦力、航空機と、それをいかに量産し運用できるか。そして、量産できない国、運用できない国に待っているのは滅亡だけ。」


「ある意味では、『世界最終戦論』が一部ではあるが現実になり得て来ているのですよ。」


世界最終戦論。それは、元支那派遣総参謀長の陸軍中将である石原莞爾が唱えた世界統一前に起こる最終戦争を書いた物である。驚くべきことに内容は違うが、ある意味では現在の世に当てはまる理論である。


「そうですね。」


松田は改装工事中の大和を見ながら言う。影鎖も時代の移り変わりを感じている。戦艦はもはや不要となる。世界の海を空母が支配する時代が来る。それを肌で感じて来ている。


(だから、我々は空母を造ったのではないか?時代に取り残された分を埋めようと、世界一の空母を。)


影鎖自身も、日本国産空母建造の推進者の一人である。っと言うか、彼が一番最初に提唱した人物であった。日米合同演習でジョージワシントンの性能に見惚れてしまい、海自の重要役職に就きながら必死で空母建造の為の準備を進めていた。先代防衛大臣も、彼に説得を受け、アメリカと交渉。退役が決定しているエンタープライズの無償提供が成された。


(ま、今となってはアメリカも日本から手を引いたし。アジアを独立させるチャンスを得た。このチャンスを生かせれば、日本は戦後の軍制限を受けず、行動できるのだから。)


影鎖はアメリカの下請け当然となった戦後日本からの脱退も考えていた。空母建造の許可が取れなかったとき、本気で反乱も考えたほどだった。


(この戦争の行方がどうなるか、それが戦後に繋がる。負けても、国体護持だけはしたいよ。)

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