意外な悪夢と対策
―自衛隊司令部―
「さて、軍事戦略も決まって良い所まで来た。しかし、問題が2つ発生している。」
北里は全員の前で言う。
「一つは、総理からだが。中国空母が日本近海に接近していると言う事だ。そして、もう一つが燃料。」
現在、日本の備蓄燃料はおよそ9000万KLがある。その半分が今、自衛隊に使用できるようになっている。
「昭和への燃料支援と平成での燃料消費量を計算したところ、あと50日も持たないそうだ。」
西澤は、日本での石油開発が可能ではないかと思い、北海道などの石油開拓をしているが、現在でも発見されていない。
「防衛相。50日で、何処まで戦えるかね?」
「総理、50日とは民間の使用量も合わせての計算です。自衛隊が全ての備蓄燃料を使ったら、30日と持たないでしょう。そうすれば、国内の産業は停滞し、生産なんて出来ません。」
「30日か。そんな短期間で中国を落とすなど不可能だ。」
西澤は残念がる。折角、軍事戦略を決め、実行に移そうとしたその時に限って燃料が底を尽きかけているのだから。
「せめて、燃料消費量を減らせればいいのだが。」
「エネルギー相はどうお考えで?」
日本の新たな省『エネルギー省』が2016年に創られた。現在の大臣は永見栄司が就いている。
「そうですね。総理の進めるエタノール燃料車を推進しましょう。エンジン換装で動ける様、各社に呼びかけていたのをお忘れですか?それに、予算を使って藻類プラントを全国へ造っておきました。」
西澤は総理就任後、ブラジルを幾度も訪問し、自動車政策を見て回った。ブラジルは世界で有数のエタノール燃料車が走っている国で知られる。エタノールの原料であるサトウキビがブラジルは世界一の生産数を誇るからだ。藻類とはワカメやコンブ、海苔などの物である。これは、大豆やトウモロコシなどのバイオ燃料よりも約700倍効率が良く、しかも収穫時期は関係ない。無資源国の日本とって、これ以上ない程有難みのある次世代燃料である。
「メタンの開発もある程度まで終わり、これも燃料としての使用価値を見出しました。無資源国だからって、侮ってはいけないですよ。無資源国だからこそ、知恵を使ってエネルギー問題を解決しようとするのですから。」
石油の取れる大国は自国の石油を良いように使い続ける。泣かされるのは、日本の様に石油の取れない国。だから、石油の取れない国は石油に代わる新エネルギー開発に必死になっている。
「それに、東大の研究所で雑草が燃料に代わる実験に成功しております。これらを使えば、燃料がしばらくは持ちます。」
エネルギー相は無資源国故の不利を受けないよう、必死にエネルギー開拓を実地していた。その努力が実ったのだった。
「それで、それらを累計しての期限は?」
北里は永見の所を見て言う。
「そうですね、藻類は成長が早いので自衛隊の動く速さによりますが、現在では400日程度。」
「4、400日。」
「あくまでも、これは自衛隊のみのものです。民間等を入れると、その半分ぐらいですかね。」
永見は計算し直してデータを入力する。
「とりあえず、燃料問題はそれで解決だ。しかし、問題は中国空母。偵察衛星『神風』の映像を解析したところ、小笠原近海目指して航行中の様だ。」
西澤は衛星画像をスクリーンに映す。
「現在、飛鳥を含む空母部隊が横須賀を出港。迎撃態勢を整えております。しかし、問題は既に中国空母が発艦可能状態にある事です。艦載機は飛行甲板のカタパルト上で待機しており、いつ発艦してもおかしくない状況です。」
北里が補足説明する。
「それで、防衛相。攻撃目標は何処だと思うかね?」
すると、北里は二つの写真をスクリーンに映す。
「まず、小笠原近海を目指しているのなら東京を私なら狙います。もう一か所は。」
そう言って二枚目の写真をスクリーンに映す。
「浜岡原発。ここは、国内でも最大級の原子力発電所です。そして、ここが破壊されれば、ここより東部には死の雨が降り始め、爆撃で破壊できなかった東京を含めた関東までもが甚大の被害を受けます。」
「しかし、それならここだけを破壊すればよいのでは?」
「いえ。もし、ここが破壊されても、原子炉が未然に封鎖されれば意味がありません。そうした時の政治的意味を含め、東京を攻撃するんでしょう。」
「では、至急浜岡原発の運転停止を。」
「いえ。それも出来ません。浜岡を止めれば、中部地方の電力を賄うのは難しくなります。中部電力が唯一所有する原発ですので、変えも利きません。」
次に、浜松基地が映される。
「浜松空自基地には、F-15を主力とする練習部隊が居ります。実戦形式の訓練を何度も熟した優秀な練習部隊です。それに、浜岡周辺には高射部隊と03式中距離地対空ミサイルを配備しております。浜岡は安全と考え。」
「問題は東京だと?」
西澤は厳しい目つきで言う。
「はい。厚木や横須賀に同じくF-15を配備した実戦部隊が配備されておるのですが。数が足りません。スクランブル出来て両基地合計16機。中国空母の二隻合計は90機前後と言う資料がありますので。これを考えると数はやはり。」
「直ぐには、用意できんか?」
「残念ながら。」
「東京は、最悪は攻撃を受けると?。」
「はい。空母部隊が先に仕留められれば問題はありません。」
「では、急がせたまえ。東京に一発でも攻撃を受けてみろ。私を含め、内閣全員の首がとんでもおかしくないのだ。」
「分かっております。総理。全力で、迎撃させて御ただきます。」
―水戸の世界 皇居―
「緋巫女陛下、平成の日本は中国と互角に遣り合っております。」
皇居、謁見の間に和服版スーツ姿で現れた水戸は緋巫女と呼ばれた水戸の世界の天皇に一礼する。
「そうですか。私も、援助は惜しみません。別次元とは言え同じ日の本。一心同体なのです。」
「はい。心得ております。陛下。」
「真清軍需相。あなたも、技術提供を惜しみなくするように。」
(水戸=)真清は立ち上がり
「勿論です。この援助許可は全て陛下の御心によって行っております。次は、88mm歩兵携帯砲とそれを持つのに必要な手袋を始め、幾つかの兵器を提供しようと考えております。」
「あの、歩兵携帯砲を?」
「はい。あれなら、戦車は無理でも装甲車は十分破壊できると思われます。歩兵は一溜まりもありません。」
「確かにそうですが、悪戯な兵の犠牲は、たとえ敵国でもあまり認可できないのですが。」
「陛下、人間が愚かだと言ったのは陛下の筈です。人間は、戦争が駄目だと分かっているにも関わらず、戦争をする。戦争を無くすには、人間が絶滅する必要があると。」
「確かに言いました。しかし、民は国に居ねばならぬ者。その無暗な犠牲はあまり容認できません。」
緋巫女は立ち上がり、真清の許へ近づいて来る。
「いいですか?、真清。戦争とは、本来はスポーツで遣らねばならぬもの。スポーツに犠牲はありますか?兵器の提供はあなた一任します。しかし、その兵器の提供による多くの犠牲は、貴方が一生償っていきなさい。」
「元より、覚悟の上です。陛下には、ご迷惑をお掛けしません。明日は、御前会議。確りと休養をとって、明日に備えてください。」
「はい。」
緋巫女は背を向け、奥の天皇公室へと入って行った。