戦争準備
―自衛隊司令部―
「それで、中国軍の動きは?」
西澤は、自衛隊司令部にて防衛大臣の北里に中国の動向を聞いた。
「はい。中国は既に上陸作戦の準備に入った模様です。」
「そうか。それで、上陸予想地点は?」
「予想ですと、恐らくは沖縄辺りに上陸するでしょう。我が軍は、用済みの米軍基地に航空兵力を置き、陸自の戦車もある程度配備しました。」
「そうか。」
「それと、気になることが一つ。中国空母打撃群です。中国は、空母『瓦良格』と『李牧』があります。幸い、艦載機の性能と艦の性能では我が海自の『飛鳥』と『奈良』の方が勝っています。」
「しかし、中国政府は他にも6~7万t原子力空母を持っているのではないかね?」
「ご安心を。それは、予算の問題上からまだ戦闘が出来る体制ではありません。だから、富嶽を使って停泊しているところを攻撃すれば十分に破壊できます。」
作戦は完璧だった。既に、空母部隊が佐世保方面に移動できており、陸自の高射砲部隊なども北海道の十勝富嶽航空基地を守る部隊を除いてほぼ全てが中国地方や九州地方に移動しつつあった。
「問題は空母を見失わない事だ。」
西澤も、日本の地理上の不利を実感していた。
「はい。我が国は四方を海で囲まれており、空母なら何処へでも攻撃する事が可能です。突然の奇襲も考えられる事です。なので、海上警戒も厳重に執り行うように伝えてあります。」
日本は四方を海に囲まれており、実はとても攻めやすい国でもあった。勿論、上陸する事は困難ではあるが、空母からの航空機攻撃では何処からでも何処へでも攻撃でき、警戒手薄な東北を攻める事も出来る。
「各空自基地には戦闘機を中心とする部隊を配備し、東北では輸送機を、北海道では警戒機を主に配備しております。」
「分かった。それで、具体的な戦力比はどうなのかね?」
「そうですね。中国海軍の駆逐艦などは正確な情報が分からず、少なくともこちらと同レベルの戦闘力を有していると考えるのが妥当でしょう。空母は、先ほど言った通りに性能面ではこちらが秀でており、負ける事は考えられません。戦車は、中国最新式の14式戦車が何処までの性能なのかは不明ですが、10式でも十分に対抗出来るものです。爆撃機は、我が空自に掛かれば朝飯前ですが、戦闘機は侮れません。Su27は中国地方の一部まで航続距離を収めており、格闘戦になれば辛いかもしれません。幸い、練度ではこちらが幾らかの分があります。Su30は正確な戦闘能力が分からない為、何とも言えません。」
「そうか。まあ、空自には頑張ってもらうほかあるまい。」
「士気は高いと保証します。アメリカから少数ですが提供されたF22と無人機は不可能ですが、F19をある程度まで性能を再現した戦闘機が4機あり、今現在でも生産中です。」
「ふむ。日米安保を破棄される前に提供されたのが功を奏したな。」
西澤は取りあえずは戦力的には勝利できることが分かった。後は、現場の指揮官しだい。優秀な人材の大半は太平洋戦争に駆り立ててしまい、少数のエリート指揮官で何処まで巻き返せるかが見物でもあった。
「我々の打ち上げた偵察衛星『神風』が、何処までの情報をもたらしてくれるのかにも掛かっている。北里防衛大臣、指揮を、取り違えんようにな。」
「は。分かっております。」
東郷建造計画の裏で始動していた日本偵察衛星打ち上げ計画。新しい観測衛星としての名目で打ち上げられており、実際に今までも太陽の観測を行っていたが、その裏では軍用としての偵察衛星としても機能できるようになっていた。
『日本国民の皆さん。昨日、中華人民共和国は我が国へ宣戦布告しました。』
このニュースは国内に衝撃を齎した。親中派でもある左翼は必死にあり得ないと街頭宣伝を繰り返し、右翼は今こそ国家として立ち上がるべきだと左翼に対抗して街頭宣伝を行った。これを受け、東京は戒厳令を発令し、軍の移動が何よりも優先化された。
『我が国は、この不当の宣戦布告に対して国家的な反撃。即ち、自衛権を行使します。そして、場合によっては憲法を改正し、中国本土への上陸攻撃も行う覚悟であります。』
発電所などの重要施設には自衛隊が警備を行い、鉄道なども路線が減少し、自衛隊の軍用列車としての運航が増えた。海上も観光などでの航海を禁止され、漁業も領海までの漁業範囲(つまり、経済水域での漁業禁止)とされた。
『憲法改正については国民投票は行いません。国会での審議のみで、憲法を改正いたします。』
全ての権力が戦時特例として国会に集まり、全ての指揮権と併合して戦時のみの絶対国会が成立した。これは、戦後の異例として、後世歴史に記されるだろう。
―ホワイトハウス―
「日本は俄然やる気のようですね。」
アメリカ国防長官『ジョン・ハワード』が大統領執務室に居る大統領に言う。
「日本人は本当に理解できないよ。突然、強大な軍事力を保有しだし、あろうことか大国である中国に反撃すると言ったのだから。」
「日本を見捨てた、貴方が言えますか?」
「日本とは、そろそろ縁を切るべきだと考えていたからね。お荷物でしかないあの国、もう毒を抜ききり、全く抵抗できない犬に成り下がったあの国に我が国が付いている必要が無くなったのだよ」
米大統領『ケンリ―・フォード』が国防長官に言う。
「日本は勝てる思っていますか?」
「思わないね。日本の兵力は脆弱すぎる。それに、愛国心の欠片もない国民が、今の中国との戦争に賛成しきるとは思えないよ。」
「確かに。日本人が、世界で一番愛国心の無い民族ですからね。」
「かつての大日本帝国のような、御国の為なら死ぬと言う様な自己犠牲精神の持つ愛国者は居ないのだ。」
ケンリー大統領は日本の神風特別攻撃隊をアメリカの教えから反し、愛国者の鏡と言っている。国の為に死んでいった、たとえ敵国の兵士いえど、狂っているなどの様な暴言を吐く気にはなれなかったのだ。
「国防長官、この戦争はどちらにも介入しない。終わった後、勝った国から全ての利権を横取りするのだ。いいね?」
「はい。分かっております。大統領。」
国防長官は部屋から出て行った。
(東洋の黄色猿が、せいぜい我々の手の内で踊っていろ。貴様らの勝者への利権は、丸ごと全て我が合衆国が頂くのだから。)
野心を剥き出しにするアメリカ大統領の動き。世界は、アメリカの手の内で踊るだけなのか?