航空戦 2
―ソロモン海上空―
「敵艦隊は見当たりませんね。」
偵察の為に飛び立っていた99式艦爆はソロモン海を隈なく捜索するが、未だに発見には至らない。
「別の偵察機からも発見の報告が入りません。」
「相手の無線は傍受できないか?」
「戦闘海域入りしているんですよ。我々と違って、向こうは無線での交信をしているとは思えません。」
日本海軍は傍受不可能な短波無線機で交信しており、アメリカ艦隊は日本の無線を傍受できないでいる。
「分かった。索敵を続行するぞ。」
そこへ、意味不明な電文が入った。
「え、英語の電文です。翻訳機にかけます。」
「分かった。」
「え、ええと。現在位置、ガダルカナル島南西960㎞」
「そこに、敵艦隊が?」
「はい。間違いありません。」
それを聞くと、機長は操縦桿を倒して目標へと飛行を開始する
―ソロモン海海底―
「敵の無線を傍受。一番近くに居るのは我々です。」
同じく無線を傍受していたそうりゅうは
「分かった。敵艦隊を攻撃しに行くぞ。」
と、艦長が指示をした。
「了解。取り舵一杯、目標へ全力航行。」
―エンタープライズ―
「一体どこのどいつだ!?先ほどの無線波を出した艦は。その艦の艦長を本艦へ呼べ!!」
艦隊指揮のハルゼーは猛烈に怒りまくっていた。
「て、提督。お気持ちはわかりますが、今は冷静にお願いします。」
「カーニー君。俺は至って落ち着いていた。その落ち着いている俺をこんなにも怒らせる艦の艦長を、今すぐに、本艦へ呼べ!!」
「し、しかし。現在は戦闘中でして。そんな中で呼べるとも。」
「カーニー君。その戦闘中の最中に、あってはならないものが起きたのだ。敵に傍受される、無線波を出したのだ。今頃、本艦隊へ攻撃隊が飛び立っているかもしれん。それをした艦の艦長を、即刻軍法会議に掛けるのだ。」
「見つけたぜ、敵艦隊。」
上空に到達した99式艦爆は
「こちら、索敵3号機。敵艦隊発見、ガダルカナル島南西960㎞地点に空母2隻、戦艦2隻の敵艦隊を発見。」
その報告をし、99式艦爆を一気に急降下させる。
「て、提督。上空に敵機が一機、突っ込んできます!!」
「何!?」
ハルゼーの目に99式艦がサラトガに向かって急降下する光景だった。
「駄目です。あれでは、命中してしまいます。」
「フレッチャーは何をやっている!?上空警戒を疎かにしおって!!」
サラトガにて指揮をとるフレッチャー少将は完全に油断していた。上空警戒機が補給の為に着艦する直進航行時に攻撃されたのだ。
「距離、速度。共に異常なし。投下!!」
機体の真下にある250㎏の爆弾がサラトガに向けて投下された。それは、油断していたサラトガにとって最悪の奇襲だった。上空警戒の為に発艦しようとしていた航空機群に爆弾が命中。甲板は火の海になった。
―サラトガ―
「被害を報告せよ。」
火災の発生しているサラトガの飛行甲板を見て、フレッチャーは尋ねる。
「は、艦載戦闘機が多数破壊され、飛行甲板は火災発生。消火・戦闘には支障ありません。」
「そうか。」
直ぐに甲板作業員がホースなどで消火作業を行っており、火の勢いはもう弱まりかけている。
「しかし、戦闘機を失ったのは痛いな。」
「旧式のF2が4機あるだけでして、戦力にはならないかと。」
「数合わせには丁度良い。それも、動員して上空警戒に当たらせろ。今のは偵察機だ。攻撃隊が、もうすぐ来るだろう。」
フレッチャーの読みは当たっていた。
―東郷―
「攻撃隊、発進!!」
東郷から128機の攻撃隊がアメリカ機動部隊目指して飛び立った。
「翔鶴、瑞鶴からも攻撃隊を要請しましょうか?」
「いや、その必要は無い。」
「え?」
「今、連絡が入った。そうりゅうが、敵艦隊を再度、奇襲してくれるそうだ。」
―そうりゅう―
「前部、魚雷発射管開け!!」
「1番から6番。全発射管開きます。」
そうりゅうの装備する53.3㎝魚雷発射管全6門が開き、最新鋭魚雷12式長魚雷が装填された。
「攻撃用意よし。発射!!」
6発の魚雷が敵艦隊目指して発射された。雷速78ノット。横っ腹を見せている戦艦が回避できるはずは無い。
―サウスダコタ―
「さ、左舷より魚雷接近!!早すぎて、回避不可能です。」
「ら、雷速は70ノットを越えています。回避不能!!」
「馬鹿な!!そんな雷速魚雷が、一体どこの国が保有していると言うんだ!?」
その瞬間、高性能炸薬300㎏搭載の12式長魚雷がサウスダコタの左舷に4本命中。爆発が起こり、船体は傾き始めた。
「サウスダコタ、沈没。」
潜望鏡で見ていた副長は沈んでいくサウスダコタを見て撃沈を確信する。
「副長、私にも見せろ。」
と、艦長が潜望鏡を変わって、覗く。
「素晴らしいな。これが、12式長魚雷の威力。」
目の前の戦艦が全く抵抗できずに沈んでいく様を見て、艦長は最新装備の威力に驚く。
「煙を視認。敵艦隊はあの位置です。」
サウスダコタ沈没の煙が攻撃隊をうまい具合に導く。
「艦爆第二中隊は戦艦を。艦攻第二中隊は空母。残りは上空で待機。」
攻撃隊を率いる宮部中佐は編隊に指揮を出し、部隊の誘導を始める。
「艦攻隊、空母に突入します。」
見ると、手負いのサラトガに艦攻が殺到する。
―サラトガ―
「敵雷撃機、左舷より三機接近!!」
「面舵一杯!!」
舵を右にきり、魚雷投下に備える。
「敵、右舷からも接近!!」
見ると、右舷からも3機が接近してくる。
「敵、魚雷投下!!」
「舵戻せ!!、機関、最大船速!!」
36ノットの最大速力で魚雷を回避しようとする。しかし、この最大船速が仇となってしまった。
「後部に魚雷命中!!舵損傷、操艦不能!!」
運悪く艦の後部に当たってしまった。つまり、戦域を永久に周回する的と化した。
「敵、右舷前方より接近!!」
97式艦攻が再び3機で突入を仕掛ける。
「魚雷投下しました。」
「総員、衝撃に備え!!」
魚雷は3本とも右舷に命中。遂に、船体が傾き始める。
「あの空母はもう持たんな。」
傾き始めたサラトガを見て宮部は言う。
「よーし、第一艦攻中隊は損傷を受けた空母に止めを刺すぞ。」
今まで、上空に待機していた第一艦攻中隊が低空に降り、攻撃を開始する。
「敵は舵を遣られている。総員、百発百中を目指せ!!」
既に、宮部は魚雷攻撃を回避しようとしないサラトガを見て、舵を遣られたと判断できた。だから、安心して低空に突入できる。
「投下!!」
放たれた3本の魚雷が
「命中。沈み始めました。」
サラトガに止めを刺した。
―エンタープライズ―
「サラトガ、沈没。フレッチャー少将は退艦を拒否。船と共に沈みました。」
「こっちもそうなりかねん。全力で回避運動をするんだ!!。」
ハルゼーの指揮するエンタープライズは巧みな操艦で魚雷を回避し続け、命中弾は左舷に一発だけであった。
「ハワイから、早急に撤退せよ。上陸部隊はこちらで何とかするだそうです。」
「ニミッツめ、臆病風にでも吹かれたか。」
「しかし、このままでは本艦も失いかねません。ここは、ニミッツ提督の言うとおり、撤退すべきかと。」
「上陸した戦車と、海兵隊1万8千人を見殺しにして、撤退しろだと!?」
「今回は、敵の戦力を甘く見すぎました。今でも遅くありません。早急に撤退命令を。」
「お、おのれ。日本軍、この仕返しは必ずするぞ。」
ハルゼーは全艦撤退命令を下し、生き残った艦艇の中で、乗員救助を行う艦を残して撤退した。
―東郷―
「敵は撤退しました。こちらは艦攻8機、艦爆12機が遣られましたが、敵は空母と戦艦を1隻ずつ失い、巡洋艦と駆逐艦が5隻失いました。」
「そうか。彼らの初陣にしては中々の戦果だな。」
帰ってきた攻撃隊は次々に着艦し、再び戻って来れた嬉しさを味わっている。
「上陸した海兵隊と、陸自・陸軍が合同で攻撃しているようです。こちらはどうしますか?」
「我々の仕事は終わった。暫くは北方に離れて、大人しくしているさ。」