表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/17

第四話 ヒロ2歳

 そして同時に、視界の端でスキルの変化を確認していた。

  【身体強化 Lv.1→Lv.2】

 (上がった)

 英雄は静かに確認した。

 たった一歩立ち上がっただけで、スキルレベルが上がった。


 赤子の体でのこの動作が、どれほどの経験値として扱われているかはわからない。

 ただ、成長スキルの補正が乗っているのは確かだった。


 (通常の赤子なら、もっと時間がかかるのか? それとも立つことそのものが、この体にとって大きな経験値なのか……)


 英雄はぼんやりと考えた。

 まだデータが少なすぎて、判断できない。

 ただ、スキルが動いているのはわかった。

 それで十分だった。


 一歳半になった頃、英雄は言葉を覚え始めた。

 正確には、言葉自体は聞けば大体の意味はわかっていた。


 ハーレシアの言語は、英雄の頭の中に転生時から薄く刷り込まれていたようで、耳から入ってくる言葉の意味は早い段階で理解できていた。

 問題は、それを口から出すことだった。


 「ヒロ、これは何?」

 エリナが赤いリンゴのような果物を見せながら、にこにこと笑っている。


 「……あ……る……」

 「そう! アルマよ! 上手ね!」

 エリナが破顔した。


 英雄は内心で、(言えた……しかし舌が思うように動かないな)と思いながら、もう一度挑戦した。

 「あ……るま」

 「アルマ! ヒロが言えた! ガリウス様、聞きましたか!?」


 部屋の入口から顔を出していたガリウスが、感極まったような顔で頷いた。

 「聞いた。……うちの子は天才かもしれないな」

 英雄は(天才じゃなくて前世持ちなだけです)と内心でツッコみながら、アルマと呼ばれた果物を見つめた。

 リンゴに似ているが、色は濃い赤で、形が少し横長だ。


 後で食べさせてもらうのだろうか、と思いながら、英雄は窓の外に目を向けた。


 二歳の誕生日を迎えたとき、英雄はいくつかのことを確認していた。

 まず、スキルのレベルだった。

  【身体強化 Lv.4】

  【成長 Lv.2】

  成長スキル 現在倍率:5.0倍

 (成長スキルのレベルが上がった)


 英雄は静かに確認した。

 倍率が3.2倍から5.0倍に上がっている。

 体を動かし続けた。

 立って、歩いて、転んで、また立った。

 日々の動作を、意識的に繰り返した。

 その積み重ねが、二つのスキルを着実に上げてきた。

 次に確認したのは、自分の体の状態だった。

 二歳の子供の体だ。


 見た目はどう考えても普通の幼児である。

 しかし英雄は、前世の記憶と照らし合わせて、微妙な差異を感じていた。

 転んでも痛みが少ない。


 同じ月齢の子供と比べて、という基準がないので断言はできないが、体のタフさが普通ではない気がした。

 体力も、妙に続く。

 歩き回っても疲れにくいし、転んで泣いてもすぐに立ち直る。


 (身体強化の効果が、じわじわと出てきているのかもしれない)

 英雄はそう判断した。

 スキルレベルはまだ低い。

 でも、土台は着実に積み上がっている。


 二歳の誕生日の夜。

 広い食堂に、ローレン家の家族が集まっていた。

 テーブルには料理が並んでいた。

 肉の煮込み、野菜のスープ、柔らかく焼かれたパン、それからアルマの果実を使ったお菓子。


 英雄の席の前には、普通より少し小さくカットされた料理が並んでいる。

 「ヒロ、今日は誕生日よ。二歳ね」

 エリナがにこにこしながら言った。

 「……に、さい」


 英雄は舌足らずな声でそう言った。

 まだ完全には言葉が出ないが、短い単語なら大体は言えるようになっていた。


 「そうよ、二歳! もうそんなに大きくなったのね」

 エリナが目を細めた。

 ガリウスが豪快に笑いながら、椅子から立ち上がった。

 「ヒロ、今夜は家族全員で祝うぞ。何でも好きなものを食え」

 使用人たちも端の方で笑顔で見守っている。

 英雄はその光景を、静かに目に焼きつけた。


 温かい食事。

 笑っている家族。

 使用人たちの穏やかな表情。

 前世では、帰る家があって飯を食える環境はあったが、こういう賑やかさはなかった。

 (……悪くないな)


 英雄は素直にそう思った。

 ここが自分の新しい家だ。

 この人たちが、自分の新しい家族だ。

 もちろん、目的はある。


 スキルを上げて、強くなって、いつかヒーローになる。

 その気持ちは変わらない。

 でも、それと同時に。

 この家族を守りたいという気持ちも、自然と英雄の中に生まれていた。

 (強くなろう。ちゃんと、この人たちも守れるくらいに)

 英雄はスープを一口飲んだ。

 温かくて、優しい味がした。


 窓の外に見える夜空には、前の世界とは違う配置の星が瞬いていた。

 ハーレシアの星空だ。


 英雄は箸ではなくスプーンを不格好に握りながら、その星空を少しだけ見上げた。

 (二歳か。まだ先は長い)

 でも、始まってはいる。

 スキルは上がっている。

 成長は続いている。

 焦ることはない。


 ただ、一日一日を積み重ねていけばいい。

 「ヒロ、こっちも食べなさい」

 エリナが肉の煮込みを英雄の皿に取り分けた。

 英雄はスプーンを向け直して、素直に口に運んだ。

 柔らかく煮込まれた肉が、口の中でほろりとほどけた。

 (……うまい)


 英雄は内心でそう思いながら、黙々と食べ続けた。

 ヒーローへの道は、まだまだ長い。

 でも今夜は、誕生日だ。

 ちゃんと食べて、ちゃんと眠ろう。

 それもまた、強くなるための一歩だ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ