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第十六話 ソロダンジョン

 学園のダンジョン実習から帰った翌日、ヒロはグレンに申請書を提出した。


 「第一訓練ダンジョンへの、個人入場許可申請です」

 グレンが申請書を見て、少し眉を上げた。

 「個人で入るつもりか」

 「はい」

 「実習以外でダンジョンに入るには、教師の許可が必要だ。理由を聞いていいか」

 「鍛錬のためです。実習のペースでは物足りないので」


 グレンはしばらくヒロの顔を見てから、申請書の承認欄に署名した。

 「許可する。ただし第一層に限定だ。単独での深層入場は認めない」

 「わかりました」

 「死ぬなよ」

 「死ぬつもりはないので」

 グレンは苦笑して、申請書を返した。


 それからヒロは、放課後のたびにダンジョンに入った。

 第一層の構造は、実習で何度か入るうちに頭に入っていた。

 通路の分岐、広間の位置、魔物の出現パターン。

 最初は一時間程度で帰っていたが、徐々に滞在時間を延ばした。

 ゴブリンは最初の頃は慎重に対処していたが、一週間が経つ頃には一体あたり数秒で片付けられるようになっていた。


 スライムは核の位置を見極めて一撃で砕く。

 フォレストウルフは踏み込みのタイミングを体で覚えた。

 毎回、ダンジョンを出た後にスキルを確認した。

  【身体強化 Lv.29】

  【成長 Lv.9】

  成長スキル 現在倍率:19.0倍

 着実に上がっている。

 鍛錬の密度が上がれば、成長の速度も上がる。


 ダンジョンで実際に戦うことは、道場での素振りとは違う重みがあった。

 相手が本当に向かってくる。

 外せば痛い。

 判断を誤れば危険だ。


 その緊張感の中での動作が、体に刻み込まれる速さは、安全な練習とは比べ物にならなかった。

 二週間が経つ頃、グレンに第二層への入場申請を出した。

 グレンは少し迷ってから、条件付きで許可した。

 「第二層は魔物の強度が上がる。何かあれば即座に撤退すること」


 「はい」

 「本当に死ぬなよ」

 「死にません」


 第二層は、第一層より広く、複雑な構造をしていた。

 通路の幅が狭い区間があり、複数の魔物に囲まれると動きが制限される。

 照明魔法石の間隔も広く、暗い箇所が多かった。


 出現する魔物も変わった。

 ホブゴブリン、オーク、アーマービートル。

 どれも第一層の魔物より一回り大きく、攻撃力も耐久力も上だった。


 ヒロは最初の一週間、慎重に動いた。

 無理に深く進まず、入口付近で出現する魔物と何度も戦って、動きと弱点を把握した。

 オークは体が大きいが、膝の関節が弱い。


 崩せば体勢を立て直すのに時間がかかる。

 アーマービートルは外殻が硬いが、腹部と関節の接合部は柔らかい。

 本で読んだ情報と、実際の動きを照らし合わせながら、ヒロは戦い方を更新していった。


 第二層の最奥部に進んだのは、申請から三週間が経った頃だった。

 通路の突き当たりに、重い扉があった。

 ここがボス部屋だということは、第二層の構造図を事前に図書館で調べて把握していた。

 ヒロは扉の前で一度立ち止まり、装備を確認した。


 学園支給の短剣一本。

 革製の軽装鎧。

 それだけだ。

 魔法は使えない。

 回復のポーションを二本、腰のベルトに差している。

 (行くか)

 ヒロは扉を押した。


 ボス部屋は、広い石造りの空間だった。

 天井が高く、壁には魔法石の灯りが等間隔に並んでいる。

 部屋の中央に、それはいた。

 ゴーレム。

 岩と土で構成された、人型の魔物。

 高さは三メートルほどで、ヒロの体の三倍近い横幅がある。


 ずっしりとした質感が、ただ立っているだけで伝わってきた。

 ヒロが扉を開けた瞬間、ゴーレムの目が赤く光った。


 動く。

 石でできた巨体が、予想より速く動いた。

 ヒロは横に跳んだ。

 ゴーレムの拳が、ヒロがいた場所の床を叩いた。

 石畳がひび割れた。

 (重い……当たったら終わりだ)


 ヒロは距離を取りながら、ゴーレムの動きを観察した。

 本に書いてあったことを思い出す。

 ゴーレムは打撃に対して極めて高い耐性を持つ。


 岩と土で構成された体は、通常の物理攻撃では傷をつけることすら難しい。

 弱点は三つ。

 体内の魔力核。

 関節部の接合箇所。

 そして、動作の起点となる足首だ。

 魔力核は体内にあり、直接攻撃するには魔法が必要だ。

 (使えない)


 関節部は……どこだ。

 ゴーレムが再び腕を振り上げた。

 ヒロはまた横に跳んで、腕の軌跡を見た。

 肘の内側。

 岩同士が噛み合う接合部に、わずかな隙間がある。

 土の色と岩の色が混ざった、やや柔らかそうな箇所。

 (あそこか)


 ゴーレムが追いかけてくる。

 足音が、重い。

 石畳が揺れるような振動がある。

 ヒロは逃げながら、タイミングを計った。

 ゴーレムが腕を振り下ろす瞬間、大きく踏み込んで懐に入る。

 そのとき、肘の接合部に短剣を差し込む。

 理屈はわかった。

 問題は、実行できるかどうかだ。

 ゴーレムが三度目の攻撃を繰り出した。

 今度は横ではなく、前に踏み込んだ。

 ゴーレムの腕が降ってくる直前、体を低く沈めて潜り込んだ。


 右腕の接合部が、目の前に来た。

 短剣を差し込んだ。

 刃が、岩の隙間に入った。

 そのまま体重を乗せて、引く。


 ゴーレムの右腕が、ぎしりと異音を立てた。

 しかし完全には壊れなかった。

 (硬い……もっと力が必要だ)

 ゴーレムが左腕を振った。

 避けきれず、ヒロは横に吹き飛んだ。

 壁に激突した。

 「ッ……」


 息が詰まった。

 鎧が衝撃を吸収していたが、それでも体の芯に重い痛みが走った。

 (ポーションを使うか……まだだ)

 ヒロは立ち上がった。

 体が痛い。

 でも動ける。


 ゴーレムがこちらに向かってくる。

 (右腕の接合部は、一度短剣を入れたことで少し緩んでいるはずだ)

 ヒロは短剣を握り直した。

 今度は左から回り込む。


 ゴーレムが右腕を振ろうとした瞬間、動作の起点がわずかに鈍った。

 接合部が緩んでいる証拠だ。

 ヒロはそこに全力で踏み込んだ。

 短剣を再び差し込んで、今度は刃を立てながら上に引き上げた。

 ゴーレムの右腕の接合部が、ずるりと剥がれた。


 右腕が、落ちた。

 ゴーレムが怒ったように体を揺らした。

 片腕になったゴーレムは攻撃パターンが変わった。


 左腕一本での攻撃に絞られる。

 (楽になった)

 ヒロは右側への回り込みが安全になったことを確認して、動き方を変えた。

 左腕の動きを読みながら、右側から接近する。 


 今度は足首の接合部を狙った。

 足首はより体重がかかっている分、接合が密だ。

 何度か攻撃して、傷を入れることに成功した。

 ゴーレムの動きが、さらに鈍くなった。

 それからは、地道な削り合いだった。

 ヒロはポーションを一本使いながら、少しずつゴーレムの体を壊していった。


 接合部を一つずつ壊す。

 逃げながら、また戻る。

 その繰り返しを、十五分ほど続けた。

 最後にゴーレムが膝をついた。

 動きが完全に止まった。


 中央部の胸部に、薄く光る核が見えた。

 ヒロは短剣を握り直して、最後の一撃を叩き込んだ。


 核が砕ける音がした。

 ゴーレムの体が、ばらばらと岩と土に崩れていった。

 石畳の上に、大量の岩と土が散らばった。

 部屋が、静かになった。

 ヒロは膝に手をついて、呼吸を整えた。

 体中が痛かった。

 特に吹き飛ばされた背中が重く痛む。

 それでも、立っていた。

 「……倒した」 


 声に出してみると、ようやく実感が来た。

 下級ゴーレムとはいえ、魔法なしで、単独で倒した。

 ヒロはスキルを確認した。

  【身体強化 Lv.31】

  【成長 Lv.10】

  成長スキル 現在倍率:21.5倍


 節目の数字が並んでいた。

 成長スキルがLv.10に達した。

 倍率が大幅に跳ね上がっている。

 (これから、さらに速くなる)


 ヒロは立ち上がって、ボス部屋の出口に向かった。

 二本目のポーションを飲みながら、ゆっくりと歩いた。

 疲れていたが、体の奥に熱いものが燻っていた。

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