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凍りついた吐息

作者: TOMMY
掲載日:2025/11/15

白い吐息は、みるみる凍りついた。

そのまま喉の空気は氷に変わり、私は窒息した。


──ぶはっ!はぁ……はぁ。

喉を押さえたまましばらく固まる。

夢の残滓が、現実の空気と混ざっているようだった。

……喉の奥に、少しだけ、氷の味がした。


薄暗い早朝。

部屋の窓から、凍てついた空気が流れ込んでいる。

私は起き上がり、カーテンをゆっくりと開けた。

すると窓は、厚い霜によってパキパキと悲鳴をあげていた。

おそるおそる、それを開ける。


冷たい空気が頬を撫でる。

特に異変は見当たらない。

外はどんよりとした曇り空だ。

しかし、雲の狭間から陽の光が不気味に光っていて、息を吐くたび、自分の体温が世界に奪われていくようで、胸がざわつく。

目の端が、曇天の奥で何かの動きを捉えた気がした。


背筋が「窓を閉めろ」と身体を動かす。

すると部屋を這うようにベッドの脚が、かすかにきしんだ。

だがその音は途中で”凍った”。

耳に届く前に、音が空気に吸い取られるようだった。

部屋に音が、ない。

耳鳴りだけがひどく冴えていく。


私は恐怖にかられ、部屋を飛び出した。

はぁ、はぁ。

喉から飛び出した白い息が、宙をただよう。

ただよって……ただよい続けている。

私はゆっくりとその白に手を伸ばす。

その白い息は地面に落ち、そして割れた。


頭の中が真っ白になった。

深刻な病気の妄想が頭の中をかけめぐる。

身体が酷く冷たい。


──「冷え性ですね」

かかりつけの医者は簡単に言う。

「えっ!?息が、凍ったんですよ?」

「ええ、最近多いんですよ。重度の冷え性とでもいいましょうか。体温が高くなったとき、熱い息を吐いて体温調整するのと同じです」


私は頭をおさえた。医者は構わず続ける。

「つまり、身体が冷えたとき、吐息を凍らせることで体温調整をしているってことです。身体って、環境に正直ですから。まあ、地球もそろそろ冷えを欲していたんでしょうね。そうそう、昨日なんて、ため息が割れて鼓膜に刺さった人が来ましてね──」


私はしばし沈黙した。

しかし、深刻な病気ではないことに安堵して、無理やり自分を納得させることにした。

あの夢に見た凍死の感触が、まだ喉に残っている。

外には、道に散らばった“会話の破片”がキラキラと光ってみえた。


──それから数日が過ぎた。

外に出ると、道端の“会話の破片”はさらに増えていた。

初めて見た日よりも粒が細かい。

新しい雪のようだ。

私はそっと踏みしめてみる。

小さく、きゅ……と鳴った。

その音は、靴の裏に張り付いたまま、空気に溶けなかった。


家々の前では、人々がほうきで会話の破片を掃いていた。

朝のルーティンらしい。

「おはようございます」と声をかける人はもういない。

代わりに、軽く会釈をすると、吐息がこぼれ落ちて割れる。

それが挨拶の代わりになっていた。


私は胸の奥に違和感を覚え、そっと息を吸った。

その吸い込んだ空気が、喉の内側でかすかに凍る。

冷たさが、ゆっくりと体の中心へ沈んでくる。

まるで身体のほうが、冷えを欲しているかのように。


──地球が冷えを求めるなら、人間もまたそうなるのだろうか。

医者の言葉が、頭の奥でひびく。

でも、その現実に、思考は凍りつく。


私は歩きながら、そっと自分の白い息に触れてみた。

指先の上で小さく震えたそれは、やがて静かにひび割れ、道の上の無数の破片のひとつになった。


人々は、感染症や夏の猛暑に続いて、“息が凍る季節”の訪れを、当たり前のように受け入れていった。

まるで昔からある5つ目の季節であるかのように。

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