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7.初めての親切

その後も状況は変わらない。

いや、むしろ悪化していく。


食事はスープすらない日が増えていく。使用人たちとの会話もない。

夫アランと話をするため、執務室に何度も足を運んだが、その度に、

「今は仕事中ですので無理です」

と執事や側近に追い返される。

それなら手紙を届けて欲しいと託したが、届いたかどうかも怪しい。

仕方がないので、廊下で待ち伏せもした。

しかし私の姿も声も聞こえないようで、完全無視された。

それを見て、使用人たちがクスクス笑う。


「ったく…人の話はちゃんと聞けって習わなかった?! 噂のマリアベル嬢は、私じゃないのに、もうっ! 思い込みも大概にしなさいよ!」

思わず悪態をつく。

もうこれ以上は時間の無駄だ。そう悟った。


「OK。そっちがその気なら、こっちも一切頼らず、やってやろうじゃない!」


ベルは一見するとおとなしそうに見えるので、相手にナメられることも多い。

しかし実際は、負けん気が強いのだ。されるがまま縮こまった生活する気はない。


よし!腹が減っては、戦はできぬ!

早速ベルは、夜中に屋敷の裏山に行き、こっそり果物を調達することにした。

井戸を利用した際、リンゴの木があることは確認済みだ。

幸い、実がたわわになっていた。

「うん、美味しそう。神はまだ私を見捨てていなかったようね」


せっせと収穫していると、ガサっと音がした。

「こんな時間に一体、何をしておられるんです?」

年配の男性に、恐る恐る声をかけられた。

「えっと…ごめんなさい。おなかがすいているので、果物を勝手にもらいました」

素直に白状した。


声をかけてきたのは、公爵家に三代前から仕えているという庭師のサムだった。

彼は私の姿を見て、目を見張った。

「確かあなた様は、帝国から嫁いでこられた方ではありませんか!」

「ええ、まあ」

「そのような方が何故?」

私は、これまでの事情をざっくりとサムに話した。

心のどこかで、人恋しく、誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。


サムは信じられないと何度も首を振りつつ、最後まで話を聞いてくれた。


「事情はわかりました。私からもアラン坊ちゃまに言いましょう。昔からいる煩いじじいだと思われておりますから、咎められることもありますまい。ああそうだ、少しお待ちを」

サムは大急ぎで自分の部屋に戻り、パンと干し肉が入った袋を手に戻ってきた。

「少しですがどうぞ。早く状況が改善されることを願っております」


私はありがたくそれを受け取った。この屋敷に来て初めて受けた親切だった。

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