5.孤立無援
「さて、どこから手を付けたものか…」
物置部屋に放り込まれたベルは、雑然とした室内を見渡した。
物置というより、壊れ物や不用品が埃をかぶった状態で置かれている。
「私もここでは不用品扱いってことね。うん、皮肉がきいてる」
フフッと笑うも、いやいや、感心している場合じゃないかと気を取り直す。
これからの段取りを考えなければ…。
まずは掃除をしつつ、使える物と使えない物を分ける。
同時に、品名と状態を目録のように記す必要があるだろう。
後から、盗んだとか壊したとか言われたらたまらない。
「これ、今日一日で終わるかなぁ」
そんな不安がよぎる。
でも寝床確保のためにも、やるしかないのだ。
ベルは早速、部屋を出てメイドを探した。
「少しいいかしら? 掃除道具を貸してほしいんだけど」
声をかけるも無視される。
露骨すぎて、思わず苦笑する。
どうにか侍女頭のドーラを見つけて頼むと、メイドが持つ掃除道具一式を無言で押し付けてきた。
「それで? どこで水を汲むの?」
「裏庭に井戸がありますので、ご自身でどうぞ」
そう冷たく言い捨てて立ち去った。
一事が万事そんな感じだ。
帝国から持参した荷物は、玄関の片隅に放置されたまま。
「時間が空いている時でいいから、部屋に運ぶのを手伝ってもらえない?」
そう声をかけるも、
「もうワガママですか? 話に聞いた通りですね。私たちは忙しいので無理です」
と断られた。
確かに、彼らにとっては余分な仕事かもしれないけど、手が空かないぐらい忙しいのかしらねぇ。
結局、自分で何往復かして運び入れた。
その姿を見た使用人たちは、嘲笑するだけで何もしない。
食事はどうすればいいか聞けば、「メイドが部屋に持っていきます」と答えたきり、持ってくる気配すらない。
仕方がないので厨房に取りに行けば、「はしたない」だの「口卑しい」だのと言われた。
でもね、どう言われようと、食事は欲しい。
私が出て行かないと分かった料理人は、「今日はこれしかありません」と具なしのスープをドンと置いた。
部屋に風呂なんか当然ないので、井戸で汲んだ水で体を拭き、髪も洗った。
帝国では職員寮で生活していたから、ある程度のことは自分でできる。
掃除や荷物運びだって、仕事で何度も経験しているし、残業で疲れて風呂に入らず寝落ちしたことだって何度もある。
でも料理はあまりできないし、物置部屋で見つけた壊れたベッドを修理することもできない。
「覚悟を持ってこの国に来たつもりだけど、私もまだまだね」
横になったベルは、アランとの結婚を決意した日のことを思い出していた。