3.顔合わせ
客室には、質の良い上品なドレスを着た、おとなしそうな女性が座っていた。
こちらが入室すると、スッと立ち上がり、きれいなカテーシーをする。
「へぇ~、随分と化けたもんだな」
つい皮肉な言葉が出た。
その言葉が聞こえていなかったのか、彼女は特に動じることなく挨拶をした。
「お初にお目にかかります。ローゼン侯爵家の長女でマリアベルと申します。
至らぬ点も多々あろうかと存じますが、どうぞよろしくお願いいたします」
そう言うと顔を上げ、少し微笑んだ。
ごく普通の挨拶だが、先入観を持つアランは違う受け止め方をした。
(初めて会った男に微笑むなど…さっそく媚を売りつつ、こちらを値踏みしているのか。女は化粧で変わるという。おとなしそうなフリをして油断させたつもりだろうが、そうはいかないからな!)
アランは、ムカムカする気持ちを隠さなかった。
「先に言っておく。カイル殿下の紹介だから我が家に嫁いでくることを許したが、私個人としては貴女を受け入れる気は全くない!」
「はい?」
アランの言葉に、彼女は困惑した表情をみせた。
「それは何故なのか、理由をお聞かせ願えますか」
「貴女のような自由奔放な女性は、我が家の家風には合わないと言うことだ。式は挙げない。夫婦として行うこともすべてしない。あくまでも書類上の婚姻であり、1年後には離婚する。それまでは屋敷内をウロウロせず、できる限り部屋で過ごしてくれ。顔も見たくない。ああ、それと、男を連れ込むのも、散財するのも禁止だ。話は以上だ」
アランは言うことだけ言って立ち去ろうとしたが、彼女の声が追いかけてくる。
「あのっ!少しお待ちください。自由奔放な女性とは誰のことでしょうか。もしやローデン侯爵家の」
「黙れ。言い訳は結構。貴女に関する話は、こちらですべて調べ上げている。今さら嘘を吐かなくてもいい」
「嘘ではございません。おそらくブライス卿は勘違いをされているかと」
マリアベルはピンときたのだ。
アランが調べたという話は、マリア嬢ことマリアベル・ローデンのことだと。
(ここできちんと誤解を解いておかなければ…)
そう思った。
でも振り返ったアランの顔を見て、言葉を飲み込んでしまった。
彼が嫌悪の表情で、こちらを睨みつけていたからだ。
「勘違いか…他国なら自分の素行がばれないとでも思ったか。随分と舐められたもんだな。まあいい。先ほど言ったことは決定事項だ。書類にサインしたら、もう用はない。ドーラ、彼女を適当な部屋に放り込んでおけ」
そう言い捨てると、アランは部屋を出て行った。