28.今さらだけど、プロポーズ
「見せたい景色がある」と言われ、馬車でそのまま小高い丘に向かった。
そこは辺り一面に様々な花が咲き誇る、とても美しい場所だった。
「初めて来たけど、素敵な場所ね」
「あぁ、この街で僕が一番好きな場所なんだ。だからここで言いたかった」
アランはベルに跪き、そっと手を取った。
「ベル、最初は君を酷く傷つけた。あの時は本当にすまなかった。そんなバカな僕に、君は何度もチャンスをくれた。会話を重ね、共に過ごして、僕は恋に落ちたんだ。ベル、今さらだけどちゃんと言わせて欲しい。一生大切にします。僕と結婚して下さい」
アランからのプロポーズだった。
「ふふふ、もう結婚しているけどね。でもきちんと言葉にしてくれてありがとう。ねぇ、もう分かっていると思うけど、私は地味だし、負けん気が強いし、可愛げがない女よ。それでもいいの?」
「それを言ったら僕だって、単純で考えなしのダメ男だよ。それにベルは、とても可愛いし、魅力的な女性だ。もう君を手放せないぐらい、愛してしまったんだ。ベルじゃなきゃダメだし、ベルのためなら何でも頑張るよ」
「うん。ありがとう。私も、アラン以外は嫌だわ。どうぞよろしくお願いします」
私がそう言うと、アランは私を優しく抱きしめキスをした。
アランは私を抱きしめたまま、天を仰ぐ。
「はぁ〜幸せ過ぎて、どうしたらいいか分からないよ。結婚式はいつにしようか。新居への引っ越しもあるから、日程調整が必要だな」
「新居? 引っ越しするの?」
「うん、ベルのために新しい家、買ったんだよね。今の屋敷は売るよ」
「は?」
思考が止まる。
お祖父様の代から続くあの立派な公爵家を売る?
私が治療院から屋敷に引っ越す話じゃなくて、公爵家全員で新居に引っ越すの⁈
アランは嬉しそうに報告する。
「ほら、今の屋敷だと、物置部屋を見てベルが辛くなるかもしれないだろう? ちょうど王家管理の屋敷が売りに出されたから買ったんだ」
「ちょっと待って。私のためだけに今の家を出て、新しい家を移るの? 嘘でしょう⁈ 一体いくらかかったのよ?」
「大丈夫。今の家の査定金額とほぼ同じぐらいの値段で買えるから、安心して」
アランはさらに爆弾を投下する。
「使用人もね、しっかりと面談して選定し直したんだ。我々のために尽くせる人材だけを残した。父に仕える凄腕のベテラン執事にも来てもらうから、何の心配もないよ。もし気に入らない者がいたら、遠慮なく言って。ベルの護衛も選抜中で、最終的にはベルが面談して決めて欲しい。とにかく、君の憂いは全て取り除くから安心してね」
「…ソウデスカ」
何だか疲れた。
こうと決めたらズンズン突き進む、それがアランだ。
私は、彼の真っ直ぐさを舐めていたかもしれない。
本当に、私なんかで大丈夫なのだろうか…。
「とにかくベルのために、できる限りのことをしたかったんだ。今度、新しい家に行って、壁紙やカーテンの色を一緒に決めようよ。あ、庭に植える花も決めないと。どんなのがいいかな」
子どものようにワクワクしているアランを見て、思わず笑う。
趣味は合うから、喧嘩せずに決められるかもね。
これから先を想像して、胸が温かくなった。
「じゃあ、今から新しい家に行きましょう」
私の言葉に、アランは目を丸くする。
「え? 今から?」
「ええ。まずは家を見て、何を買うか決めて予算を組まなきゃ。もったいないから、元の家で使えるものは使うわよ。あ、そうだ。カイル殿下にもいくつか買わせましょう。私たちの最初の行き違いは、カイル殿下にも非があると思うのよ。だからお詫びがあってもいいわよね。大丈夫、殿下の弱みは握っているから、文句は言わせないわ」
「ベル、弱みって何? カイルは何したの?!」
焦るアランの手を私は引っ張った。
「さあ、行きましょう。善は急げよ」
こうして私たちは新たな一歩を踏み出した。




