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21.治療院での日々と浮気疑惑

ララ先生の治療院に移って2ヶ月。

私は「公爵家の嫁」であることを伏せて、「帝国から修行しに来たベル」として働いている。


まぁ、嘘ではない。

公爵家では、理不尽な思いをいっぱいしたし、色々と鍛えられたのは事実だ。

これを「修行」と言ってしまえば、そう言えなくもない。微妙だけど…。


ちなみに治療院での生活も「修行」の連続だ。

広大な薬草園の水やりと、治療院の受け付け・帳簿管理は、ベルが一手に引き受けている。

それに加え、急患の対応、酔っ払いの相手、喧嘩の仲裁、5~6人まとめて子守り、クレーム対応、往診の付き添い等々。

毎日が目の回る忙しさで、過去のことをわざわざ思い出して悩む暇なんてない。

そんなことよりも、目の前の治療院人手不足問題を解消するために、あれこれ悩む方が楽しいのだ。

やはり自分は、仕事をしている方が性に合っているんだなと実感する。


働けばお腹も減るが、ここではご飯をいっぱい食べられるので、体力も戻ってきた。私史上1番細いウエストは手放したが、冷静さを取り戻すことができたのは良かった。


今から思えば、公爵家にいる間は、随分と意地を張っていた気がする。

負けてたまるか!と自分を鼓舞し、泣きたい時も我慢していた。


(私ってほんと、可愛げのない女よね)


自分でもそう思うのだから、アランも愛想を尽かすかもしれない。

そうなっても仕方がないと思っている。

離婚が成立したら、どこかに就職して働けばいいだけだ。



そんなある日のこと。

ベルはお使いを頼まれて、商店が立ち並ぶ通りに来ていた。

少し離れた通りの向こうから、女性の賑やかな声が聞こえてくる。

ふと目をやるとそこには、宝飾店から出てきたアランと赤毛の令嬢の姿があった。


「誰かしら?」

何となく気になっていると、2人はすぐ近くのカフェに入っていった。


う~ん。アランには姉妹はいない。

年ごろの親戚は何人かいるが、赤毛はいない。

ならば友人か知人の可能性があるか。

そんな風に思っていると、商店にいる人々の会話が耳に入った。


「おい、今のは公爵様と元婚約者様だよな。何で2人一緒にいるんだ?」

「さぁ。っていうか、あの2人はもう無関係だろう? 何年も前にご令嬢に好きな人ができたから婚約解消して、どっかの男爵家に嫁いだはずだぞ」


その言葉に、商店のおかみさんが口をはさむ。

「その男爵様とは、少し前に離婚したらしいよ」

「そうなの⁈ じゃあ公爵様とヨリを戻したのかなぁ?」

「いやいや、公爵様は最近、誰かと結婚したんだろう?」


それを聞いたおかみさんは、少し声を潜める。

「それがよく分からないんだよ。普通なら大々的に結婚発表して、奥様のお披露目をするはずだろう? でもいまだに発表がない。ということは、結婚は嘘かもしれないんだよ」

「もしかしたら、その結婚相手が元婚約者だったりして。一度逃げられているから、今回は慎重に事を進めているのかもな」

「確かに。一度別れた相手なのに、あの2人、仲良さそうに見えるもんなぁ」


カフェの方をみると、2人はテラス席に並んで座り、お茶を飲みながら仲良く会話している。


その姿を見て、おかみさんがうんうんと頷く。

「なるほどねぇ。『元婚約者を忘れられなかった公爵様。彼女が離婚したのを知り、これはチャンスとばかりに、再度結婚を申し込んだ』って感じかい?」

おかみさんの言葉に、人々がププッと噴き出す。

「おかみさん、いい年して、どんな小説読んでいるんだよ!」

「別にいいじゃないか。年をとっても、ロマンス小説はドキドキするもんなんだよっ!」


それからみんなの話題は、おかみさんが読んだ小説の話に移ったので、ベルはそっと彼らから距離を取った。


なるほど…。

大まかな事情は分かった。

自分と結婚している以上、2人がヨリ戻す云々の真偽はともかくとして。

アランが元婚約者と宝飾店に行ってお茶をした。これは紛れもない事実だ。


(私は、それを見てどう思った?)


ベルは胸に手を当てる。

嫉妬? 失望? 諦め?

いや、違うなぁ。何だろう。


アランに対する自分の感情がまだよく分からない。

ただ、あまりいい気がしていないことだけは確かだった。

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