2.アランの憂鬱
帝国の知り合いはごく限られているし、わざわざ帝国に人をやって情報を集めるには、時間が足りない。
そこでトーマスは、自国エルテアで手っ取り早く情報を集めることにした。
早速、帝国を行き来する商人や、最近まで帝国に留学していた公子や令嬢たちに当たったところ、「帝国の侯爵令嬢マリアベル」の情報はすぐに集まった。
ただ、その内容はどれも耳を疑うものばかりだった。
常に複数の男性を侍らせているふしだらな女性
パーティーに明け暮れ、恋愛にしか興味がない
貢がれたドレスや宝飾品を身にまとう派手な女性
自由気ままで、多くのに人々を振り回している
等々…
「自分が最も嫌う人間じゃないか!」
アランは思わず、調査書を握りつぶした。
質実剛健を重んじるブライス公爵家とは全く合わない。
彼自身、真面目な性格で、自分が信じた道をまっすぐ突き進むタイプだ。
爵位を継いだ今が一番大切な時だからこそ、恋だの愛だの浮ついた女性ではなく、しっかりとした頭のいい女性と家庭を持ちたい。互いに慈しみ、何かとしがらみの多いこの公爵家を一緒に支えていきたい。
そう願っていた。それなのに…
「よりにもよって、何でこんな女性を紹介するんだよ?!」
カイル殿下の意図を確かめるため、すぐさま手紙を送った。
しかし彼は今、東方の戦争に駆り出されており、返事はないまま。
今さら「マリアベル嬢とは結婚しない」とも言えない。
両国間で話がまとまっており、カイル殿下の仲介を無下にできないからだ。
(手紙のやり取りだけだったから、すっかり騙された…)
苦々しい思いだけが、アランの心にどんどんと溜まっていく。
そして今日を迎えた。
「気が重い…」
ぼそりと呟くと、トーマスが慰めるように声をかける。
「1年たてば離婚できます。とりあえず婚姻を結べば、カイル殿下にも顔向けできますから、少しの辛抱ですよ」
「そうだな。できるだけ彼女と関わらず過ごせば、実害も避けられるだろう」
アランは覚悟を決めた。