17.ララ先生の過去
アランがエリアーナ王女と謁見した時の話を、ララは面白おかしく伝えてくれた。
「はぁ~、そうきましたか」
思わず苦笑する。
エリアーナ王女とむちゃくちゃ目が合っていたが…まあ、王族らしいすり抜け方だと思う。
直球勝負しかできなさそうなアランでは、きっと太刀打ちできないだろう。
(そういう時に、私が役立つはずだったんだけどな)
結局、こちらの国に来てから、何もできなかったし、何もさせてもらえなかった。
じゃあ、これから先はどうだろうか。
彼の反省の気持ちは伝わっているし、情報が正されたのも良かった。
でも、このまま何事もなかったかのように、彼と生活を続けていけるかって言われると…自分の気持ちがまだよく分からない。
考え込むベルを、ララは温かい目で見つめた。
「少し昔話でもしようかね」
ララはお茶を飲みながら、ゆっくりと語りだした。
「私が若い頃は、この国でも男尊女卑がひどくてね。
女が勉強することも、ましてや医者になることも許されなかった。
それでも私は医者になることを諦めきれなかった。
だから勉強して、医者を目指す専門学校に入学した。
男子49人に対して女子は1人。そう、私だけだった。
想像つくだろう?
そりゃあもう毎日、誹謗中傷、言いがかり、嫌がらせ、その他いろいろ。
どうにか学校を卒業して、この国で助手になったけど、今度は同僚や先輩から、酷い扱いを受けたわ。
『体を使って卒業したんだろう』とか『金をいくら払って助手になったんだ』とか言われてね。
どれだけ違うと否定しても、誰も聞いてくれやしない。
そうなったらもう、実力で相手を黙らせるしかないじゃないか。
私は必死に勉強して、評価を上げて、みんなに文句を言わせないようにした。
それで漸く医者になれたんだけど、今度は患者が来ない。
『女の医者なんか信用できるか』って訳。
力を発揮したくても、患者が来なければどうしようもない。
仕方がないから、薬の調合や薬草摘みで生計を立てていたんだ。
ある時、アランの爺さんが原因不明の熱で倒れてしまってね。
男の医者が何人も治療に当たったけど、原因を突き止めて治せたのは私だった。
それがきっかけで、私は公爵家公認の医師になれた。
そしたらまあ、見事なまでの掌返しよ。
散々バカにしていた連中が『あなたは名医だ』『私はずっと前から、あなたの実力を信じていた』って言いだした時には、腹を抱えて笑っちまったね」
ララはまるで笑い話のように語るが、ここまで本当に大変な道のりだったのだろう。
想像しただけで、胸が痛くなる。
「ララ先生は、好き勝手言ってきた人たちのこと、許したんですか」
思わず聞いてしまった。
「あんな奴ら、今でも大嫌いさ。あんまりにも腹が立ったから、食事にこっそり下剤を混ぜて飲ませたこともあったわね」
「えっ…それはさすがに」
「もう時効だよ。そうさねぇ。あいつらを許したかどうかって言われると、微妙かな」
私が首をかしげると、ララは少しだけ意地悪な顔をして聞いてきた。
「答えが欲しいかい?」




