14.使用人たちは知る
「大丈夫ですか?!」
トーマスが慌ててアランの体を支えた。
「一体何が…とにかく皆にも説明をお願いします」
「ああ、そうだな」
アランはまずトーマスを見た。
「トーマス、おまえが調べた情報は、ローデン侯爵家とローゼン侯爵家、どっちのマリアベル嬢だ?」
「…えっと、『帝国のマリアベル嬢の情報が欲しい』と言えばすぐに教えてくれて。あの、もしや、マリアベル嬢は2人おられるのですか?」
「そうだ。マリアベル・ローデンとアリアベル・ローゼン。どちらも侯爵家で同じ年。髪も瞳も同じ色。姓も似ているから、間違えるのも無理はないんだ」
その言葉に、トーマスは真っ青になる。
次にアランは、不安げに見守る使用人たちを見つめた。
そして、カイル殿下に聞いた2人のマリアベル嬢の話、彼女がかつて働いていた職場で聞いた話をした。
「え?じゃあ、あのご令嬢は、噂とは全く異なる別人だったんですか?!」
使用人たちがざわつく。
「すまない。私が最初に勘違いして思い込んでしまったせいで、君たちにも不誠実な態度をとらせてしまった」
「いや、でも…」
使用人たちは、互いに顔を見合わす。
主人の意向を汲んだとはいえ、何も手を貸さず、無視し、悪口を聞こえよがしに言っていたのは自分たちだ。自分たちがやろうと思ってやったことだ。罪がないとは絶対に言えない。
ちょうどそこへ、第二警備隊の隊長だと名乗る人物が屋敷を訪れた。
執事が慌てて対応に向かう。
「先日、この屋敷に1人で歩いて向かう女性と会いましてね。雨も降ってきましたし、無事に着けたか少し心配になり、一応確認のためお伺いしました」
「お気遣いありがとうございます。どのような女性でしたか?」
「金色の髪で緑の瞳をした若い女性です。深緑のワンピース姿でした。日も暮れて雨模様だったので、乗り合い馬車を勧めたのですが、『お金がないし、足腰鍛えるために歩く』と言って。なかなか逞しいメイドですね。彼女、ちゃんと着きましたか」
マリアベル嬢のことだとすぐに気付いた。
使用人だと勘違いしているが、ここでわざわざ素性を明かす必要もない。
執事は丁寧にお辞儀した。
「ご心配をおかけいたしました。無事にたどり着きました。後日、お礼に」
「いやいや、ちょっと気になっただけなので。無事なら良かった。それでは」
警備隊長はそう言うと帰って行った。
マリアベル嬢が外出したのは、エリアーナ王女のお茶会の日だけだ。
(公爵家の馬車で王宮に行くはずだが…)
アランは、はっと馭者を見やる。
馭者は慌てて答えた。
「あ、あの日の帰りは、ハミルトン伯爵家のご令嬢をご自宅に送り届けまして」
ハミルトン伯爵家は、アランの親戚だ。
「は? なぜマリアベル嬢を乗せなかった?」
「それは、えっと…ご令嬢が『奥様と一緒の馬車で帰る約束をしていたのに、先に帰ってしまった。伯爵家の馬車は返してしまったから、自宅に送ってほしい』とおっしゃって」
「その言葉を信じたのか?」
「は、はい。奥様は自由奔放で我儘な方だと聞いていたので、そういうこともあるのかと。それに、このことはご令嬢から公爵家に話をしておくからと言われ…そのまま」
馭者の声がどんどんと小さくなっていく。
アランは、トーマスや執事に話があったかどうか確認するも、2人とも首を横に振った。
次から次へと出てくる話に、アランは頭を抱えた。
今すぐ自分を殴りたい気分だった。




