13.アランは後悔する
アランはすぐさま駆け寄って、彼女を抱きかかえた。
熱があるのだろう、体が熱い。
「おい、しっかりするんだ! トーマス、すぐにララ先生を呼べ。ドーラは彼女の着替えを。着替えが済んだら客室に運ぶ。誰でもいい。すぐに部屋の準備を」
次々と指示を飛ばし、医師のララの到着を待つ。
ララとは昔からの付き合いで、この地で一番の名医とされている。
(先生はまだか?!)
時間が経つのがひどく遅く感じ、じりじりと時を過ごした。
やがてララが到着した。
「…これはマズいね。で、彼女は一体誰だい? 行き倒れでも拾ってきたのかい?」
ララの問いに、アランは言いよどむ。
「あ、いや、その、彼女は僕の…妻だ。一応」
「は? 何で公爵家の奥様がこんなにも痩せて衰弱しているんだい? とにかく今は治療優先だ。話は後で聞かせてもらうよ」
「治るだろうか…」
「やれることはやるさ。あとは体力が持てばいいんだけどねぇ…」
ララはそれきり黙ってしまった。
ここでジッとしている訳にもいかない。
マリアベルのことはララに任せ、アランはすぐさま使用人たちを集めた。
「すまないが、彼女にこれまでどんな対応をしてきたか教えて欲しい」
その言葉に、使用人たちは互いに顔を見合わす。
「では、私から申し上げます」
最初に名乗り出たのはドーラだった。
「旦那様があの方を嫌っておられることは、皆承知しております。1年後に離婚するとも聞いています。ですので、公爵家の奥様として扱わなくても良いと判断し、必要以上に関わりませんでした」
悪いことは何一つしていないという感じで言いきった。
「なぜ、あの部屋を使わせた?」
「旦那様が『適当な部屋に放り込んでおけ』とおっしゃったからです」
確かにそう言った。元凶は自分だ。
「専属のメイドは付けなかったのか。食事や風呂、着替えなんかはどうしていた?」
「用があれば、メイドに声をかけるようお伝えしています」
「何か用を言いつけられた者は?」
そう尋ねると、一人の男が手をあげた。
「初日に、部屋に荷物を運んでほしいと言われました」
「手伝ったのか?」
「いいえ。トーマス様から近づくなと言われていましたから」
次に、コックが手をあげた。
「メイドが食事を持っていくと言っているのに、自ら厨房に来て食事を要求してきました。スープだけ渡すと、それ以降はあまり来ませんでしたが。そう言えば、最近は全然」
「その後、彼女に食事を頼まれたり、食事を届けたりした者は?」
アランの問いかけに、誰もが首を横に振った。
そう、誰も彼女に食事を届けていなかったのだ。
愕然とするアランに、庭師のサムが声をかけた。
「アラン坊ちゃま、覚えておいでですか。わしは、奥様は決して悪い人ではないと何度も言いましたよ。奥様は食事がないからと、裏山へ林檎を取りに来ていました。あまりにお気の毒で、わしは自分の保存食や食事を彼女に渡しておりました」
サムの言葉に、使用人たちがざわつく。
(あぁ、僕は何てことを…)
アランはその場に思わず座り込んでしまった。




