12.アランは知る
アランはその言葉をゆっくりと飲み込んだ。
カイル殿下が紹介してくれたのは、マリアベル・ローゼン侯爵令嬢。
噂の自由奔放なマリアベル嬢とは全く違う人物。
え?! じゃあ僕は…
「嘘だろう? 僕はてっきり…。だって、マリアベル嬢の情報を集めたら、男を侍らす悪女だという話ばかりなんだぞ! カイルに話を聞こうにも、北方の戦いで連絡は取れないし。だから僕は彼女に…」
思わず頭を抱えた。
「アラン、一つ聞いてもいいかな。ベル嬢は君に、人違いだと伝えなかったのかい?」
カイル殿下の問いかけに、また言葉が詰まる。
「あ、いや、その…悪い女だと決めつけてしまったんだ。話をちゃんと聞かなかった。彼女が来た日以外、話もしていない。1年後に離婚するつもりで、使用人に対応を任せきりだ。彼女が今どうしているかも知らない。いや、知ろうともしなかった」
自らの行動の酷さが、自分を突き刺す。
「アランの素直さが、悪い方向に出たか…」
カイル殿下は、腕を組んで考え込んでしまった。
「なあ、僕はどうしたらいい…」
アランは俯いたまま、声を絞り出すように言った。
「謝罪して、きちんと話し合うしかないだろう。だが話を聞く限り、かなりこじれてしまっているよね…。そうだ。僕からもベル嬢に手紙を書こう。それでいいかい?」
「助かる。とにかく帰国したらすぐに謝って、彼女と誠心誠意向き合うよ」
アランはやっと顔を上げた。
アランはその足で、ベルがいた職場の上司や同僚に話を聞きに行った。
みんな口をそろえて、彼女の仕事ぶりを褒めた。
「いやぁ、ベル嬢がいなくなって、余計にありがたみを実感したよ」
「そうだな。調整役というか潤滑油みたいな役割を担ってくれていたもんなぁ」
「責任感もあるから、安心して仕事任せられるし」
「マリア嬢と比べたら、ベル嬢は地味ですけどね。恋人にするならマリア嬢、嫁にもらうならベル嬢なんて言う奴らも結構いたんですよね」
「彼女、貴国でも働いていますか? まだ? それは損失ですな」
などと教えてくれる。
聞けば聞くほど、自分の過ちを思い知らされる。
だからこそ急いで帰国した。
思い出すのは、初めて顔を合わせたあの日のことだ。
彼女が「勘違いしている」と言ったのに、聞く耳を持たず無視をした。
酷い言葉も投げかけたし、ずっと放置している。
謝罪して許しくれるかどうかは分からないが、とにかく彼女と話さなければならない。
「マリアベル嬢はどこだ?」
帰宅早々、彼女を探すアランに、執事も使用人たちも目を丸くした。
「はい、あの、おそらくお部屋でお過ごしかと。ここにお連れしますので、少々お待ちを」
侍女頭のドーラが、慌てて客室の奥へと歩いていく。
「いや、私も一緒に行こう。その方が早い」
そうして後をついていくと、立ち止まったのは離れの1階、一番奥の部屋だった。
「ここは、物置部屋になっていなかったか?」
「はい、あの」
ドーラは答えに詰まる。
部屋をノックするが、返事はない。
「マリアベル嬢、入るぞ」
声をかけ扉を開けた。
そこにいたのは、床に倒れたマリアベル嬢だった。




