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珈琲〜Coffee〜  作者: 餅月 響子


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第62話 夏楓の想い

 空翔に予想外のキスをされて、嬉しいような申し訳ないような気持ちになった夏楓は、どうすればいいかさらに混乱してしまう。

 今までどんな対応していたかなんて、忘れてしまうくらいだ。


 交際していた頃もどんなふうにやり取りしていたか何年前の話か。仕事に夢中になりすぎて、孝俊との恋愛のような素振りもここ数年消えかかっている。新婚のようで新婚じゃない生活が続いていたせいか。実家の母や、姑からは孫はまだかと急かれていたが、仕事が楽しくて仕方なく、電話が来ても右から左へスルーしていた。いっぽう、孝俊の方が男のくせに早く自分のジュニアが欲しいと思っていたらしく、嫌なのに迫られることも多かった。仕事で疲れて、それどころじゃない。慣れないアメリカ生活も、お店の切り盛りも手一杯で夫婦になってもレスであることの方が多かった。夏楓はそれでいいと思ってずっと生活してきたら、孝俊に浮気されて、家に帰って来なくなり、結局は離婚になった。食事や家事に多少の手抜きはあっても、自分なりにやってきたつもりだった。子供を全く望んでいないわけではない。仕事が落ち着いたらと考えた頃には時すでに遅し。孝俊への恋愛感情はなくなっていた。

 日本の生活に切り替えて、割り切った空翔とのルームシェア。孝俊の時とは、違う感情がよみがえり、家事も分担、仕事もプライベートも互いに干渉せずにフラットな関係。ちょうどよかった。でも、このままでは空翔に甘えてしまう。もしかしたら、結婚したい恋人がいるかもしれないと不安になる。1人暮らしの方がいいんだろうけども、家賃半分、光熱費半分、信頼のおける男性がいるという防犯対策に甘い蜜。自分のことをわかってくれる。どこのタイミングでやってほしいとかやってほしくないことを知っている。空翔は夏楓が考えている想像以上に夏楓のことを考えてくれていたのかもしれないと気づいた。耳まで真っ赤にして、街中を歩いていると両手に両頬をあてて、知らない厚化粧金髪の女性にぶつかってガンつけられてもすぐ謝って火照っていた。後ろでまだ睨みつけられている。追いかけてはこない。


(ちょっと、それはやばくない。まずいでしょう。空翔。だめだ。自分に甘くなる。やっぱり、家出ようかな……でもまぁ、関係がそのままなら)


 仕事終わりに駅前のBAR・LARFEE (ラルフェ) 店長の樫崎 亮のお店に立ち寄った。人生相談はいつもこの人だった。


「夏楓さん、それはまずくないっすか」

「えーー、亮くんならいいじゃないとか肯定してくれるかと思った!」

 夏楓はぐびっとロックの梅酒を飲み干す。亮は、洗い終えたグラスを拭いて棚に戻す。新しい梅酒のボトルを出して、夏楓のグラスに注いだ。


「いや、まずいって言ったのは、家を出ていくことですよ?」

「え? あ、そっか。そっちか」

「何のこと言ってるんですか?」

「いや、私、空翔を好きでいることがまずいかと思っていた」

「ん-、2人の問題なんで、俺には何とも言えないっすよね。それはご本人に言ってもらわないと……」


 夏楓はこれまでの空翔にしでかした失敗した出来事を思い出すと顔がゆがんでくる。


 「……私ってさ、最近まで彼氏彼女じゃなかったわけよ。同居人って割り切って生活してたの。だから、空気のような存在って時もあったのね。体が疲れてて意識飛んでてブツブツ唱えて、無視したり、家事分担もさぼってさ。しかも最近だけじゃなくて、結婚してバツイチでしょう。しかもさぁ、結婚する前に別れた彼氏が空翔だったから尚更、申し訳ないって気持ちあるじゃんさ。当時は夢中だったから、仕事も元夫に。……思い起こせばひどいことしまくってたなぁってさ。今更、どの面さげて、復縁をのぞめる?! 私、ひどい女じゃん。別な人のところに行ってさ。裏切ってるのよ。彼を。だから……足踏みしちゃうんだぁ」

 うなだれて、腕をのばし、顔を倒す。顔を真っ赤にさせて、ひゃっくりした。


「そ、そんなの。結婚が足かせになってるだけで、俺だって似たようなことしてますよ。前の彼女と今の彼女比べたら、前の方がやっぱり良かったとか。1人だけだったら気づなかったこと、2人だったらこっちがいいとかね」

「え~、そうなの? だって、亮くん、離婚歴何回?」

「いや、あの、その……大きい声では言えないので!」

「何回もしてるの?」

「いやいや、そういうわけじゃないですけど。まだ籍は入れたことはないですが、誰が聞いてるかわからないので、言わないでもらっていいですか?」

「君もモテるのねぇ……へぇ、そう。モテモテくん」

「む、昔の話っすよ。高校の時ですかね。告白された子と告白した子の違いっていうか。どっちも同時に付き合ったんですけど、やっぱり、自分で決めた子の方が何ていうか、フィーリングがね、合うとか合わないとか。どっちも学校が違う子だったので、バレなかったんですけどね」

「どっちも? 器用だね。高校の時から」

「ま、そ、そっすかね。そんな褒めないでくださいよ」

「褒めてないけど」

「がくー。違うんですか。まぁ、人間何か好きな物があったときに一つしかないと、デメリットが出て来たときにもう嫌だって思うじゃないですか。それはダメって。でも、違った目線で見たときに視野を広げて、やっぱりメリットの方が多かったって思う訳ですよ」

「ん? ごめん。よくわからない」

「だから、ここに果物のメロンあるじゃないですか」

 亮は、カウンターに乗せたインテリア置物のメロンを指さした。

「うん」

「メロン好きってずっとこれだけ食べるとしますよね。緑色の」

「うん、そうだね」

「飽きる時ありますね。きっと、ずっと同じものだと」

「そうね。そういうときもあるかも」

「そしたら、夕張メロンの果肉がオレンジにしてみようってそっち食べますよね」

「うん」

「そっち、美味しいってそっちにうつるときもあるけど、やっぱり緑のメロンの方が好きだなぁって気づく場合もあるってことですよ」

「あぁ、飽きてからうつってから?」

「ずっとだと気づかなかったメロンの模様とか、産地とか確かめるとやっぱ、自分にはこっちがいいって。人によっては、夕張の北海道でいいやって。思うし? 出会いがどっちが先かにもよるってことで」

「運命の分かれ道?」

「そうそう」

「……私って、どうして、こんなルートになっちゃったんだろうなぁ」

 頬杖をついて、グラスに入った大きな氷を指でクルクルと動かした。カランと鳴る音が心地良い。亮の話を聞いてちょっと気持ちが落ち着いてきたが、本当のところまだどうしたいかわからなくなる。そのまま、酔いが深まって、眠ってしまった。亮はため息をついて、そっと、ブランケットを背中にかけてあげた。


 いつの間にか店内には夏楓と亮だけに2人になっていた。









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