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珈琲〜Coffee〜  作者: 餅月 響子


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第59話 曇り空の涙

 目を開けると、窓のカーテンの隙間からキラキラと光りが降り注いだ。

手をかざして、温かさを感じる。今日も平和な日が始まるのかとベッドから体を起こした。隣にはもこもことふとんが動いている。1人でベッドで寝ていると思っていた。自分の服装を確かめる。ものすごく薄い。キャミソールに下は薄いペラペラしたズボン。上のパジャマを着ていない。白のしましまのシャツがあったはず。ふと、体を起こすと頭痛がした。お酒を飲みすぎたことを思い出す。隣にいるのは一体誰だったかなと白いふとんをはがした。


「うーん……」

 目をこすり、まだ眠そうな男性がいた。ベッドの宮に置いていた眼鏡をかけようとする。夏楓は、未だに誰かわからない。


「だ、誰?!」

 おもむろに眼鏡をかけて、上半身裸の体を起こした。


「誰ってことないですよね……。昨日のこと、覚えていないんですか?」


 夏楓は目をこすって、もう一度よく確かめた。足元に落ちたシャツを拾って着替え始める。


「え、え、え。ちょっと、待って。なんで?!」

「まさか、忘れたとか?」


 夏楓に顔を思いっきり近づけた。


「は、橋浦くん?!」

「あ、やっと名前出た」

「いやいやいやいや、違う違う」


 夏楓は気が動転して、ぐるぐると部屋をあっちに行ったり、こっちに行ったり、顔を両手で覆う。自分の行動が信じられない。なんで、部下とともに一緒に寝てるのか。しかも、半分裸って、これは事後かどうなのか。記憶が定かではない。


「何もないって言ったら、信じませんよね」

「そ、そりゃぁねぇ……んで、どうなの?」

「教えません」


 橋浦は、夏楓の横に近づいて、耳に息を吹きかけた。夏楓はぞわぞわと鳥肌が立

つ。


「ちょ、それってどういうこと?!」


 その言葉を発すると、扉をトントンとたたく音が聞こえた。まだ服を着替えていない。慌てて、キャリーバックから服を取り出して、着替えた。後ろに橋浦がいることを忘れる。


「待ってください、俺がいますから!」


 両手で顔を覆って夏楓を見ないようにした。顔を真っ赤にして恥ずかしそうにしている。そんな顔をする必要あるのか。事後だとしたら今更じゃないかと夏楓は感じてしまう。この人は嘘をついてるのか。ただ、隣に寝ていただけか。頭に疑問符を浮かべる。これは夢じゃないだろうか。夏楓は頬をつまんだ。痛みは感じる。


「入るぞぉー」


 同じホテルの違う階に泊まっていた空翔がやってきた。橋浦と一緒にいることを見られたくなくて、無意識に洗面所の扉を開けて、中に隠した。

 何事も無かったように出入り口に進む。


「あ、おはよう」

「お、おう。おはよう。俺、ロサンゼルス空港発の9時30分のチケットだからさ、そろそろ行くんだけど。夏楓はいつなんだ?」

「え、えっとね。確か、11時発だった気がする。ちょっとのんびり過ごしたくてさ」


「あ、そうなんだ。別な時間だな。すれ違いってことだから、んじゃ、俺、先に行くわ」

「あ、あ、あーうん。そうだね」

「は? どうかした?」

 冷や汗を大量にかいている夏楓に空翔は疑問に感じた。変な顔になっている。


「社長!! めっちゃ、暑いです」

 洗面所に閉じ込められた橋浦が突然出て来た。その姿を見た夏楓と空翔は一瞬固まった。目が点になる空翔がいる。


「え? なんで、同僚の橋浦くんいるの?」

「……ん? ん? たまたまよね。かくれんぼしてたんじゃない? 橋浦くん部屋間違ったっしょ」

「???」

 夏楓は、橋浦の首根っこをつかんで、廊下に出した。苦しい言い訳だ。


「なぁ、そんなわけないだろ?」

 空翔は否定する。夏楓は、まさかの出来事に言葉を失った。

「わ、私も何だか覚えてないんだよねぇ……」

「……まぁ、俺には関係ない話だけどな。んじゃ、そろそろ行くわ」


 さらにつっこんで聞かれるのかと思ったら、急にクールに対応されて、夏楓は心臓がしめつけられるくらい痛くなった。自分は今、悲しんでいるんだ。涙が出そうになる。何がしたかったのかわからない。廊下に出された橋浦は、どうすることもできずに眼鏡をかけなおしてずっと黙っていた。バタンと扉をしまったあと、空翔は橋浦の横を通り過ぎた。2人にしか聞こえないくらいの声で発した。


「泣かせることすんじゃねぇぞ」

 

 橋浦の背筋は凍り付いた。空翔のカツカツと靴の鳴る音が響いた。閉めたドアに背中をつけて、ゆっくりとしゃがみ込んだ夏楓の目から涙がこぼれる。


 どうして記憶がないのか。自分が悪いんだ。好きじゃないと思っていた空翔に見捨てられた気がして、悲しみに暮れた。顔をぐしゃぐしゃになるくらいに泣いた。日本に帰る準備をしなくちゃいけないのに、体が動かない。廊下にいた橋浦も中に入るべきではないなと思いその場から立ち去って、フロントに向かった。

 

 夏楓はこれから日本に帰国というのに心がもやもやした状態だった。どんな空を見ても今は曇り空にしか見えない。天気が良いはずのに綺麗な青だということを忘れている。

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