第53話 語られない真実
「welcome.We're very sorry, but we're still preparing...... Huh? Managing director Takatoshi Tanno? ! (いらっしゃいませ。大変申し訳ありませんが、まだ準備中です……あれ? 丹野 孝俊専務?!)」
開店前のアメリカの店舗のカフェ「ポメラニアン」に孝俊は入って行くと一番に出て来たのは、入ったばかりのイアンだった。他のスタッフは奥の方で丸になって囲っていた。お客さんだと思っていたイアンは孝俊だと気づいて中の方へ誘導した。
「I've been waiting. The number of staff we currently have is limited. I can't even afford to catch a cold. I'll be in trouble if Mary doesn't come to work early......(待ってましたよ。今のスタッフの人数ではぎりぎりです。誰1人風邪は引けないです。メアリーが早く来ないと困ります)
「I heard it was difficult. I came to ask why Mary stopped coming, do you know anything?(大変なのは聞いていたよ。メアリーが来なくなった理由を聞きに来たんだよ。みんな何か知ってる?)」
孝俊はスタッフミーティングの輪に入り、みんなに聞いたが、さっきまで喋っていたイアンが急に黙りはじめた。隣にいたマリーアが口を開く。何を言われるのかとイアンはドキドキした顔をした。
「I thought I had nothing. It's a private thing, I'm sure.(何もないと思っていました。それはプライベートなことです、きっと)」
冷や汗をかきながら、話すアリーアをじっと見つめるイアンがいた。さらに隣にいるジャックは、何も言わずに頷いている。さらに隣にいるレイモンは険しい顔でイアンを見ていた。年齢的にはイアンは後から入ってきて一番若い。なぜ、リーダーのように接しているのか不思議で仕方なかった。孝俊はそれぞれの表情をじっくり見つめる。
「I just wanted to ask, why is Ian the leader? (ちょっと聞きたいんだけど、なんでイアンがリーダーなわけ?)」
孝俊がその言葉をイアン以外のスタッフ全員がカチンコチンの氷のように固まって何も言わなくなった。これは何か問題が起きたのか。イアンは夏楓が決めた大学生のバイトの子だ。見た目はモデル並みにかっこいい。悔しいが、背も高い。他のスタッフはもちろんイアンよりも年上でこのカフェの経験年数も長い。どうして、こんな状態になったのか。
「What is this atmosphere? (何、この空気?)」
「sorry.I can't say anything(ごめんなさい。何も言えないです)」
アリーアはびくびくしながら下を向いて発言する。何か隠している。絶対この人間関係何かあるなと孝俊は察した。ふぅとため息をついて、問いただすのをやめた。
「Understood.It's almost opening time. Just get ready. That's the end of this story. Please do a good job today too.(わかった。もうすぐ開店時間だからそのまま準備をしてください。これでこの話は終わりにします。今日もいい仕事してください)」
孝俊はパチンと手をたたいて、切り替えた。イアン、レイモン、アーリア、ジャック、エミーの5人のスタッフは、それぞれの持ち場に移動した。オープン当初から働いてくれているレイモンに孝俊は肩をたたいて声をかけた。
「Is it okay? (ちょっといい?)」
「Ah, yes (あ、はい)」
孝俊はパンチパーマをチリチリにかけたバスケット選手のようなレイモンを休憩室へと誘う。
「あのさ、レイモン。日本語できるよね?」
「はい。ちょっとだけなら」
孝俊は聞こえても問題なさそうなあえての日本語で話し出す。
「ちょっと気になる人間関係なんだけどさ。俺、レイモンから聞くのはやめておこうと思うわけ。でもそれでは解決できないからさ。メアリーの連絡先を教えてくれないかな」
「は? ……メアリーとお付き合いされてたんじゃ?」
レイモンはロッカーの中からスマホを取り出した。孝俊は複雑な顔を表した。
「俺の黒歴史は言わないで」
「黒歴史って何ですか?」
「知らなくていい。いいから、連絡先を教えてよ。やきもち妬きの彼女に連絡先消されたんだから」
「……自業自得ですよね」
「よく難しい四字熟語知ってるよな!」
「おばあちゃんっ子なんで」
「お前んち、別に日本人いないだろ」
「へへへ……日本大好きおばあちゃんですけどね」
「流暢な日本語喋るよな、まったくもう」
孝俊は、レイモンからメアリーの連絡先を教えてもらった。休憩室のドアの隙間ではイアンは気になってのぞき見していた。案の定、聞き耳立てているだろうと日本語で話しててよかったなとほっとする孝俊だった。しっかりとイアンの行動も把握している。何事もなかったように持ち場に戻るイアンとレイモンだった。
孝俊は早速メアリーに電話をかけた。




