第52話 無意識の選択と代償
「よぉ! 久しぶりだな」
孝俊と空翔はデジタルの注文を受けてくれる居酒屋の前で待ち合わせした。身なりは前よりもブランドものの服を身に着けている。羽振りがいいのか。
「ああ。そうだな。とりあえず、中入ろう」
「おう」
空翔はきっと女に貢がれているんだろうなと感じた。前にも夏楓についていったのもどちらかと言えば、夏楓の方が金持ちな方だった。カフェの運営が軌道に乗るまでは実家の両親に助けてもらっていたようだが、儲かり始めてからは孝俊も裕福であったはずだ。お金があっても夫婦関係に溝ができたところだろう。お金のかからない人間関係の対応は面倒な部分もある。スタミナがあったり、WIN-WINな関係だったら長続きするだろうけども、孝俊の場合は、お金だけじゃなく構ってほしい欲求が強く出たんだろう。欲求不満ってやつだ。人間、目の前にどんなお金を積まれても仕事も恋愛も共有・共感できる人がいなければ、活かされないものだ。たった一人だけでは生きていけない。空翔は、孝俊の心境が読めた気がした。
「さてと、今日もみぃ子のVtuber様にお願いしますか。俺、ハイボールね。空翔は?」
「俺は、ビールでいいよ。あと適当につまみ頼んで」
「おう、わかった。焼き鳥セットとかかな」
孝俊は慣れた手付きでタブレットをタップする。タップするたびに、みぃ子は注文が嬉しかったようで無表情から笑顔になる。
≪ご注文ありがとうございます。しばらくお待ちくださいね!≫
甲高い声のみぃ子は、注文を承ってものすごく嬉しいそうだ。右と左に体を向けた。センサーがあるようで、空翔と孝俊の方に目を向けていた。
「こっち見てるな。いいな、これ」
「前来た時より、進化してるかもな。目の位置がわかるらしい」
「確かに、時々目が合うな。リアルな感じだな。毎日でも来たい」
「彼女、いるんじゃないのか?」
「いるけど、これと生身は別だろ? 人間は毎日同じ対応してくれないだろ?」
「……そりゃぁ、そうだろ。彼女は毎日対応が大変なのか?」
「ハハハ……大きい声では言えないが、ホルモンバランスがねぇ」
「まったくない方がおかしいだろ」
「確かになぁ。夏楓はいつもイライラしていた気がするけど、今の彼女は起伏が激しすぎる。テンション高い時は笑顔で面白い対応なのに、ネガティブ満載だと泣いて面倒になる。顔がめっちゃ可愛いのにメンヘラだった」
孝俊はハイボールの入ったジョッキを片手に顔をテーブルにつけて氷を鳴らした。
「俺は女運に恵まれてないのかなぁ」
「そういうわけじゃないと思うけど……。孝俊自身がそういう彼女にしてるんじゃないかと思うよ」
「俺自身の問題かぁ……」
「ちょっと聞きたいんだけど、アメリカの店舗に行ってた時にいたメアリーって孝俊は知ってんの?」
「メアリー? あぁ、夏楓との揉め事作った人ね」
「は?」
「あれ、夏楓から聞いたんじゃないの?」
「いや、そこまで聞いてない」
「俺の浮気相手だった人だよ」
「……だからか」
「え? 夏楓が空翔に全部話したわけじゃないの?」
「俺は、アメリカのカフェ・ポメラニアンのトラブルがあるからって孝俊にメアリーの連絡先聞こうと思っただけだけど……」
「何、トラブル起きてるの?」
「そう、らしいよ」
「……メアリーとの連絡先ブロックしたんだよね、最近。俺」
その言葉を聞いて空翔は、持っていたジョッキをテーブルに置いて、目を見開いた。
「だってさ、今の彼女にほかの女の連絡先登録してたらしばくとか言われたのよ。それで、ブロックしたわけ……」
「それ、いつの話?」
「1週間くらい前かな」
「それだ」
「え?」
「ちょっと、夏楓に電話してくるわ」
空翔は、原因は孝俊だということが即座に分かった。まさか目の前にいる孝俊が国境を越えて、影響を与えていたとは思わなかった。解決の糸口が見えて安堵する夏楓だ。空翔は自分のことのように安心した。これは孝俊が責任もってアメリカの店舗のトラブルを解決だなと空翔は肩をたたく。
「マジで?!」
「お前の責任だぞ」
「……メアリーと会うの?」
「電話じゃ解決しないだろ」
「そうだけどさぁ、真由に怒られるなぁ」
「……人との関わり方に問題あるからだ」
「えー?」
何のことか全然わからない孝俊だった。空翔はため息をついて、レモンを絞ったから揚げをつまんだ。みぃ子は空いたグラスを見つけて、注文を伺った。
≪ご注文はいかがですか? 今ならキウィサワーおすすめですよ≫
「あ、俺。それ頼むわ」
≪ご注文ありがとうございます≫
孝俊はご機嫌にお代わりを注文した。空翔は、タブレットを静かにタップして、芋焼酎を頼む。みぃ子がいてもいなくても同じ対応だ。
「AIの対応より人間対応慎重にやれ」
孝俊は空翔の言葉にぐさっと胸につきささった。
お互いにストレスになりそうな時間だった。




