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珈琲〜Coffee〜  作者: 餅月 響子


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第45話 3人のそれぞれの道



ー夏楓sideー

 夜の賑やかな街の中、バックをゆらゆら揺らしながら夏楓は歩く。今日も仕事をどうにか終えた。いつも以上にお客さんの入りが多く、社長でもある夏楓も現場に入って、裏方作業をした。エアコンが効いていてもキッチン側は暑い。コーヒーを入れる際のお湯を沸かすポットの近くは暑い。売りであるラテアートだが、今の時期はパフェやソフトクリーム目当ての人も多い。ふわふわかき氷も夏限定メニューだ。本当ならば、自分が食べたくなるところを、ぐっとこらえて提供する。何個も冷たいスイーツを見ていると食べている気がしてなぜかお腹いっぱいになっている。風邪から回復した橋浦には、変に意識されて、無視されてしまう。何を考えているのかわからなくなった。1人夜道を歩いて、ぼんやりしているとハンドバックがパッと無くなった。自分が職場に置いてきたのかまさかそんなと考えていると、隣の歩道すれすれに2人乗りバイクが夏楓のバックを持って、走り去っていこうとする。そのバイクを必死で追いかける青年がいた。


「あ……」


 同じ職場で働く橋浦隆吾だ。静かに尾行されていたのか気づかなかった。帰る道と反対方向のはずだった。でも、夏楓のバックを取り返そうとひったくり犯を追いかけてくれていた。目の前には交番があったお巡りさんがすぐに気づいて、笛を吹きながら一緒に追いかけていた。


「待て!!」

 交差点の赤信号で止まっていたバイクを運転する黒マスクに黒帽子、黒のパーカーに黒いズボンをかぶった犯人の首に左腕を出すと、あっという間に2人組はひっくり返った。夏楓の白いハンドバックは空中に飛んで歩道の端に投げ飛ばされた。腰を痛めた2人は、腰を抑えながら起き上がった。


「現行犯逮捕な」


 駆けつけた警察官にすぐさまつかまった。なんだなんだと人だかりができて、辺りは騒然としていた。


「橋浦くん。ごめんね、ありがとう。けが大丈夫?」

 橋浦は、腕で捕まえようとしたときに負傷した。少し血がたれている。夏楓は駆け寄って、けがを確かめる。


「これくらい平気です。あの……気をつけてもらえますか」

「え。あぁ、うん。そうだよね。私もぼんやりしていたから」

「夜ですから、一応女性ですし。夜道は危険ですよ」

「……うん。そうだね。待って、一応ってどういう意味?」

「……それじゃ」

 橋浦は、けがをしたところを気にもせず、立ち去っていく。

「答えになってないよ、橋浦くん」

 夏楓はけがの手当てをしようと近くのドラッグストアに急ぐ。


 ◇◇◇


ー孝俊sideー

 「お疲れさまでした」

 孝俊は家から近い牛丼屋でバイトを始めていた。さすがに無職のままでギャンブルに走るのはまずいと空翔の知り合いに頼んで働くことになった。経歴のことなど気にしない店長は気さくで話しやすく、エネルギッシュだった。今日も仕事終わりにスポーツジムに行くらしい。タイムカードを切って店の外に出ると、パートで働く大学生の坂本美紗紀さかもとみさきに声を掛けられる。


「佐藤さん、今日はすぐ帰るんですか?」

 何だか初対面だったが、気に入られているようだ。


「あ、ああ。そうだけど。美紗紀ちゃんは?」

「ちょっと行きたいところがあるんですけど、付き合ってもらえません?」

 全体的にふくよかで触るとぬいぐるみみたいにぷにぷにしていそうな体形だ。顔は小さくて少し体格がいいのに、お得感のある子だ。胸も大きい。頬を赤くして、腕をつかんでくる美紗紀に抵抗することなく、誘導されながら着いていく孝俊だった。その後の2人は、ピンク色のネオンが輝く繁華街に吸い込まれていく。喉がごくりと鳴った。今日は夕飯当番だったのをすっかり忘れている。



◇◇◇

ー空翔sideー


 孝俊のことを信頼していない空翔は代わりにいつも買い出しに行っていた。家事当番は担当制にしていたものの、結局ぐだぐだだ。そういうのも予測はしていた。それでも一緒に暮らすのを許したのは、家賃を3分割できるからだ。3LDKの家賃や光熱費が折半できるのはありがたいと考えた。さすがに1人暮らしするよりかなり浮く。我慢するところはあるのは仕方ない。我慢がその分だと空翔は思った。

 今日の特売は、豚ひき肉1Pとキャベツ1玉が200円らしい。お得なスーパーを見つけて買い物するのも慣れてきている。その辺の主婦と同じくらいにクーポンを使ったり、ポイントやスタンプを貯めて安く買うのが楽しみになっているくらいだ。夏楓も孝俊もそんな苦労も知らないだろうと考えながら買い物していた。


「俺って、なんでなこんなことしているんだろうな。結婚……もう遠くだろ。おいおいおい」


 なぜか、ひき肉パックを持ちながら、独り言を言っていると小学生くらいの女の子がこちらをチラチラと見てくる。知らない子だった。独り言が気になっただろうか。


「お、お母さん。そこの人、何か豚肉に話しかけていたよ?」

「いいから。気にしないの!」


 一緒に買い物に来ていたお母さんが静かに小さな声で話しなさいと注意していた。空翔は変人扱いされているのか。ささっと急いで、レジに向かった。今日のメニューは野菜炒めとサラダ、味噌汁にしようと決めて、買い物かごからお気に入り迷彩柄のエコバックに入れ込んだ。やっていることは主婦そのもの。いや主夫。仕事しているのは当たり前だが、本当にこの生活でいいのかと疑問を感じる。何をどうしたいかもわからなくなってくる。かと言って、今更、夏楓と恋人関係に戻るなんて考えも起きない。いざ、他の誰かと結婚と考えたら、今の家を出なくてはいけない。それも気を遣うなと妄想する。まぁ、そんな予定はみじんもない。相手さえもいないのに。3人で暮らしていても孤独感がぬぐえない。心の中にぽっかりと穴が開いた気分だった。


 エコバックの中にコロンと転がって入っているアボカドと同じポジションかとため息をつく。


 




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