第42話 発熱時の思考回路はおかしい
小鳥のさえずりで目が覚める。
空翔は高熱との戦いにずっと汗をかいてうなされていた。
黒い得たいの知れないガイコツのような悪夢さえ見てしまう。
きっとたまっている仕事に長期の休みで追われてしまうことを想像するのだろう。
ベッドからごろんと落ちて、ここはどこだったかと一瞬わからなくなるほどだ。
「……え?」
天井が白いこと、ベッドから冷感接触のふとんがずり落ちていること、スマホの通知がたまっていることに気づく。改めて、自分の家なんだと思いだした。発熱の影響でシャツがたっぷりと汗でぬれていた。服をつまんで風送ってみるが、結局熱い。エアコンのリモコンを探した。
「あれ? 起きたん?」
「うわ!?」
声がして、すぐにリモコンを床に落とした。寝室の扉の向こう、孝俊がいた。
「な? 俺をお化けかなんかみたいに驚きすぎじゃね?」
「なんで、お前いるんだよ」
「覚えてないのか?」
「ああ、まったく」
「高熱で頭が……」
「…………泊めた覚えないんだけど。断ったよな?」
「いやいや、空翔さん。言葉ではそう言ってましたが、結局この家の扉を開けて、どうぞって誘導してましたよぉ?」
「……いや、俺は何も言ってない」
「またまたまたぁー、お人が悪いねぇ」
空翔は、台所に移動して、冷蔵庫に入っていたミネラルウォーターのペットボトルをぐびぐびと飲んだ。なんとも言えなくなる。自分の判断が見誤ったなと反省する。
「シャワー浴びて来る」
「いってらっしゃーい」
お腹がすいてぐーっと腹が鳴ったが、当然のことながら、孝俊は料理できないだろうと期待もせず、じーと孝俊を洗面所から睨む。
「覗くなよ?」
「誰が、覗くか! ツルの恩返しかよ!」
「むしろ、逆だ!」
「……確かに。俺が恩返さないとな? ってことはどういうこと?!」
「察しろ!」
そう言って、空翔はバタンと風呂場のドアを閉めた。孝俊の頭には疑問符がたくさん浮かぶ。
「ま、いいか」
気にもせず、のうのうと空翔のお気に入りソファにどんがりと座って、有料チャンネルの映画鑑賞を楽しんだ。右の手元にはコンビニで買ったスナック菓子があり、ポロポロとカスが落ちていく。落ちたことにも気づかない孝俊だ。さらに左はスマホゲーム画面で忙しい。今流行りの農業しながらこずかい稼ぎができるゲームにはまっていた。
数時間後の夏楓は、仕事を終えて、コンビニで今夜の夕食お弁当と贅沢にご褒美スイーツを選んでいた。ふと頭にひらめいたのは、空翔にも風邪のことで迷惑かけたなとお詫びに届けようと考えていた。
商品棚には小さな可愛いサイズのシャインマスカットのパフェと白桃のパフェが並べられていた。
「どれにしようかな。空翔って甘いの好きかどうか知らないなぁ。果物食べてるところも見たことないな……コーヒーも本当は嫌いの知ってたけど。あ、カフェオレ好きなら、大丈夫かな? うーん。どっちも美味しそう。あ、モンブランもある。迷うから3つ買っちゃおかな。いらないのは後で食べてもらおう!」
独り言を言いながら、かごに丁寧に入れて、レジに向かう。スマホを取り出して、バーコード決済で支払った。ポイントがどんどんたまることに幸福感を得ていた。ほんの小さなことでも嬉しいものだ。嬉しすぎて備え付けの募金箱に20円入れてしまう。ポイントと照らし合わせて金額的にはプラスマイナスゼロだが、それでもいいって感じていた。
夏楓の手にかけたビニール袋が微かに揺れる。なんとなく、嬉しくなる。最近、夕食やスイーツを誰かと一緒に食べるということは無かった夏楓は、浮足立っていた。横断歩道の信号も青だったことにラッキーと感じる。
まさか、空翔の家の玄関のドアを開けるまでは……
「ねぇ、なんでここにいるの?」
夏楓と孝俊が目を見合わせる。




