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珈琲〜Coffee〜  作者: 餅月 響子


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第38話 夏楓のカフェのチームワーク

街中を出勤途中、小雨が降ってきた。

傘を持たずにやってきた夏楓はバックを傘代わりに走り出す。

石畳の地面にヒールの音が響く。お店の扉が開いて、ベルが鳴る。


「いらっしゃいませ! あれ、社長。やっとですか」


 大学生バイト君の岩崎潤がレジスターの前で立っていた。会計の担当していたようだ。両替用の小銭をレジスターに入れていた。夏楓は壁ドンされたことを思い出し、ささっと抜ける。


「おはようございます。今から仕事しまーす」


 遅刻したことを大きく言わないで、さらりとかわす。岩崎はにやにやと笑っていた。


「おはようございます。社長、大丈夫ですか?」


心配してくれたのはホール担当の大学生バイトの木下美佳だ。準備中のテーブル

をタオルで拭いていた。


「おはようございます。木下さん、ありがとう。そう言ってもらえるとほっとするよ」


「いえいえ。遅刻すると焦っちゃっていろんなアクシデント起きますから。私なんて、持ち物全部忘れるとかありましたから」


「……そうだよね。気をつけないとねぇ……あれ、書類、持ってきてないかも」


「ん? 社長。どうかしました?」


「今日、税理士さんと話し合いがあったの。約束してたのよ。提出書類。持ってくるの忘れたから、もう一回家に行ってくるね!!」


「あ、夏楓! やっと来た。ちょっと来たばかりで帰ろうとしてる?」


 そこへ、水川がスタッフルームから出てきて、しっかりと夏楓の腕をつかんだ。


「税理士さんとの話し合いに必要な書類が!」


「夏楓。落ち着いて」


「え?」


「今日、税理士さんお店に来れないって」


「なんで?」


「熱出たから来れなくなったって」


「ん? 橋浦くんのことじゃなくて?」


「税理士さんの熊谷さんも同じ。さっき電話来たから」


「嘘、本当? 良かった。安心だぁ」

 

 へたっとその場に体が崩れた。夏楓はその話を聞いて、緊張していた力がすーっと抜けた。


「そんなに追い詰めなくても……」


 目線を合わせて、水川は夏楓の頭を撫でた。


「だって、全部まとめなくちゃって思ってさ。たまっていたから大変で。次からこまめにやらないといけないね」


「もしかして、経理の仕事ですか?」


 パート勤務の有希菜が横から顔を出していう。夏楓は目をキラキラした。


「まさか、有希菜さんって経理の仕事できるんですか?」


「いえ。できません。聞いてみただけです」


「え、なんだ。そうなんだ。がっかり」


「やり方は知らないですけど、そういう仕事も社長が全部やるのかなって疑問に思ったんです」


「……あ、ああ。そっか。経理の仕事してくれる人雇えばいいんだよね」


「夏楓、雇うって大丈夫なの? 予算とか」


「……確かに」


「うん。冷静にいかないとお店立ち行かなくなるよ?」


「どちらかと言えば、予算より時間が足りないかな」


「……忙しいものね」


「スマホアプリで募集かけてみるのはどうですか? 今流行ってますよね」


 岩崎潤がスマホを取り出して夏楓に見せた。


「え? どういうこと?」


「時間で合間だけ働くみたいな。働いてすぐやめちゃうのを防げるらしいですよ」


「新人さん離職率高いからね。若いとさ」


 水川は腰に手をあててふぅとため息をつく。


「……それもそうだよね。まぁ、経理の仕事じゃなくてホールスタッフ増やしてもいいかもしれないよね」


「俺らではご不満ですか?!」


 岩崎潤が叫ぶ。


「いやいや、風邪で唐突に休みになってしまうこともあるから穴埋めとかじゃなくて

その前に余裕を持った働き方していかないと辛いでしょう。お互いに」


「……それは同意します」


「大学生たちも夏休みはしっかり働けるけど、普段は無理でしょう。そういうのもあるしね。私も遅刻し

てもいいくらいの余裕は欲しい」


「社長。現場で働かないと看板娘なんですから」


「え?ど、どこか?! 」


「美佳ちゃんと有希菜さんの方が、美人だし。看板娘でしょう!」


 夏楓は美佳と有希菜を手のひらで指し示した。


「謙遜……ちょっとなぁ」

 美佳は腕を組む。 


「私たちと比べるって」


 有希菜も複雑な顔。夏楓はかなりの整った顔で申し分ない。モデルになってもいいくらいの容姿であることに気づいていない。2人はあまりいい気分はしなかった。


「夏楓はお店に出た方が売り上げ貢献になる!!」


「……?」


 水川以外のスタッフ全員が何度もうなずいた。


「うそぉ。私、ホールにいなくちゃだめ?」


「「「「もちろん!!」」」」

 

 スタッフ全員が一致団結した瞬間だ。笑い合って、拍手が起きる。

 夏楓は仲良いは良かったが、苦虫をつぶした顔をした。


 ちょうどopenの時間になって、お店の扉が開いてベルが鳴った。行列をなして、次々とお客さんが入って来る。


「いらっしゃいませ」


 気持ちを切り替えて、元気な声で対応する夏楓だった。 

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