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珈琲〜Coffee〜  作者: 餅月 響子


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第30話 酔いと煙の中で……

空翔は夏楓の横を通り過ぎようとすると、夏楓が立ち上がり、こぶしを上にあげた。


「私、決めた。今のカフェをランキング1位になるくらい流行りの店にする! それが目標。ね、いいでしょう……むにゃむにや」

 そう宣言して、またテーブルの上に眠った。真横にいた空翔は、まさかここで宣言すると思っていなかったため、面食らった。眠り始めた姿にくすっと笑う。


「もう夏楓ぁー。恥ずかしいよぉ。お客さんいっぱいいるのに……ってもう寝てるし」

 水川輝音は両手をあげて呆れていた。首をすくめる。静かに通り過ぎようとすると、何故か寝ている夏楓の手が無意識に空翔の腕をつかんでいた。


(え……)


「ちょっと、夏楓。知らない人の腕つかんでいる。すいません。酔っぱらっていて、ご邪魔しましたぁ」

 輝音は夏楓の伸びた手をはがそうとしたが、なかなかはがせない。むりやりはがしてどうにか抜け出した。


「なんでそんなに頑固に動かなかったんですかね。本当にすいません」

「いえ……大丈夫です」


 空翔は知らない人を演じたままその場を離れた。 上司たちが待つ個室へと向かう。夏楓は寝息を立てて眠る。隣に輝音が座って、1人でグラスに入った梅酒を飲む。夏楓の酒癖には悩んでいた。ほかのスタッフはお腹を満たすとそそくさと帰って行った。会計はもちろん社長の財布だ。手をあげて、見送った。


「「「お先に失礼します」」」

 

大学生バイトの美佳と潤の2人とパート勤務の有希菜はすっきりした顔をして帰っていく。輝音は夏楓の横に座ってお酒を飲み続けていたが、飲み会は苦手としていた

橋浦が向かい側に座って1人黙々と水割り麦焼酎を飲んでいた。


「ねぇ、橋浦くん。飲み会苦手なんでしょう。もう、帰っても大丈夫だよ」

「……いえ、社長が心配なんで残ります」

「あーれー? あんなに集団行動苦手って来るのすごく拒んでたよね。夏楓が最初だけ行こうって声かけたからかな」

「……いえ、まだデートになるよりはいいかなと思ったんで」

「どういうこと?」

「勘違いされるの嫌なんで、この際参加してしまおうと考えました」

「ほうほう。君は頭かたいのかな?」

「……何とでも言ってください。俺は別に気にしないんで。自分が来たくて来たので」

「はいはい。マスター、レモンサワー追加で!」


 輝音は手をあげて、カウンターのマスターに声をかけると、スタッフ一同の元気な声が聞こえた。


「これから一緒に働くメンバーだからさ、どんな性格してるとか相性とかいろいろ伺いながら飲み会しようって話なんだ。飲みニケーションは嫌がる人もいるけど大事なことだと私は思うけどね。夏楓も同じ考えだと思うよ。今、寝てるけど」


 グラスの氷がカランと音が鳴った。輝音は頬を赤くして髪をかきあげた。


「社長には感謝したいんです。ずっと就職先が決まらなくて拾ってくれたので、本当に決まった時は嬉しかった」

「……嘘、そんなこと一言も言わなかったじゃない。嬉しいって君の口から言うとは思わなかったわ」

「第二新卒扱いって言うんですかね。僕の場合。最初の就職先で挫折して、ダメかなって思った時に近所でカフェがオープンするのを知って、求人広告見て、即応募してこんな身なりしてて絶対落とすだろうって思ってたんですけどね」

「……今日は流暢に話すね。いつも無口なのに」

 頬杖をついて聞き続ける輝音は、レモンサワーを飲む。橋浦は酔いが深まったのか顔を赤くして次々話す。

「……もう、就職先がここに決まった時は感動しましたよ。仕事があるってだけで僕は幸せです。かなりどん底みてきましたから」

「そっか。それは良かった。うん。わかった。ほら、次々飲みな。えっとメニューは……」

 輝音はラミネートされたメニュー表を橋浦に見せた。

「僕、ずっとこのカフェで働き続けますから!!」

「おう、頑張ってね。んで、何飲む?」


 橋浦は立ち上がって宣言する。どこか夏楓に似ているなと思った。その頃、空翔は個室から抜けて、お手洗いに行っていた。バタンと閉まる音に反応した夏楓はぼんやりと目を覚ました。


「ふえ?」

「やっと起きた? そろそろお開きにしない? 残っているの橋浦君しかいないよ?」

「えー、みんな帰っちゃったの? 二次会行こうと思ったんだけど」

「二次会ってあんたかなり疲れてるのに行けるわけないでしょう」

「……あ、そっか」

「社長、大丈夫ですか?」

「あれ、橋浦君来ていたんだっけ。飲み会嫌がってたのに、でも楽しかったでしょう」

「……まぁ、そうですね。社長の宣言に感動したっていうか―――」

 

 これから話そうとする橋浦を無視して、口を塞ぎなから夏楓はお手洗いに駆け込んだ。


「まさか、吐きそうなのかな」

「え? 大丈夫なんですか!?」


 隣の男子お手洗いでは用を足し終えた空翔が手を洗って、ポケットに入っていたハンカチを取り出した。ふぅとため息をついて鏡の自分の顔を見た。


(上司に媚び売るのも大変だな……。ちょっとここで休んで行こうかな)

 

 分煙室を設けている居酒屋だった。空翔は電子タバコをポケットから取り出して一服していた。天井を見上げて休憩しているとバタンバタンと豪快に移動する夏楓が見えた。気持ち悪そうな姿が見えた。


(飲みすぎたのかな……まぁ、連れがいるから大丈夫だろう)


 あまり関わらないようにしようと後ろ姿に変更して、タバコを吸い続けた。一本でも吸うだけで心が落ち着いた。


「はぁ……何とかなった」

 ハンカチを口元に当てて、お手洗いから出て来る夏楓が移動する。気づかないだろうと思ってかくれんぼしてるつもりだった。

 ハイヒールの音がとまる。


「……あ」


 まさかの夏楓が喫煙ルームに入って来た。タバコなんて吸ったところ見たことない。見つかるのは嫌だなと思った空翔は端の方に移動した。取り出したのは電子タバコではなく、紙タバコだ。女子に人気のピンクパッケージの細いものだった。


(あーー、吸うようになったんだ……)

 

ちらっと視線が気になったようでうす暗い電気の喫煙ルームに2人は隣同士になっている。


「ふーー」

 

 夏楓は,気持ちが落ち着いたようで大きなため息をついた。


「…………」


 空翔は知らない人を演じ続けようと電子タバコを吸い終えて、そっと外に出ようとした。


「あ!! 思い出した」


 突然、出口に飛び出してきて、ばれたかと思ったら、空翔より先に出ていった。お手洗いにスマホを忘れたことを思い出したようでまたすぐに喫煙ルームに入ってきて、空翔の真正面にぶつかった。車だったら正面衝突だ。


「わぁ」

「あ。すいません」


 髪がぐちゃぐちゃになって整えて、顔を見上げた。目の前に空翔がいた。知らない人だとずっと思っていたのに、空翔だと思わなかった。 どう反応すればいいかわからなくなって変顔になった夏楓だった。

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