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珈琲〜Coffee〜  作者: 餅月 響子


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第19話 彼女と初めて行く旅行

 職場での休憩時間。スーツに社員証を首にかけて、喫煙ルームに入り浸る。

電子タバコもここで吸わないといけない。ニコチンが出ないのにと不満を思いながら、スマホ画面を見る。ボーナスが出てからいつか夏楓と旅行に行くぞと決めてもう3ヶ月。

 秋になってしまった。本当は夏の間に行きたかったが、仕事で風邪で休んだ同僚のフォローに入らねばならず、まとまった休みを取れなかった。週休2日であったが、連休にはなかなかならなかった。

 今さらながら、ネットで温泉旅行の予約をしようといろいろ検索してみた。昔ながらの伝統のある旅館もよかったが、なるべくなら新しくて綺麗なところとリクエストする夏楓の言う通りに選んだ。食事は空翔の好みでいいという話だ。


 紅葉がいい感じに始まる11月、季節限定の珍しいボタン鍋が気になった。

岡山県にある登録有形文化財の宿 名泉鍵湯 奥津荘という温泉旅館が目についた。美人の湯とされる温泉は肌にとてもいいらしい。女子ならば、こういうの好きだろうととことんおもてなしをした。東京から岡山には飛行機を使わないと何時間もかかる。格安航空券を予約した。新幹線でもよかったが、乗り換えが面倒かなと思い、大盤振る舞いで飛行機にした。きっと喜んでもらえるだろうと、数か月前から計画していた。チケットを渡すまで内緒にしていた。夏楓の驚く顔が楽しみで仕方なかった。


 ◇◇◇

 

 旅行の当日、出かけるのが苦手な夏楓は嫌がるかなと思ったら、全部空翔が払うと知って大喜びで着いてきた。飛行機も高校の修学旅行以来乗っていなかったと興奮する。

 夏楓と一緒に紅葉狩りを楽しんだ後、温泉旅館に泊まった。とても綺麗な外装の旅館、露天風呂にも大満足の夏楓の顔は今でも忘れられない。風呂上あがりのチラリと見えるうなじが綺麗だった。

 

 滅多に食べられないボタン鍋を堪能して、夏楓との2人きりの時間もたっぷり作った。幸せの絶頂ってこういうときに言うのだろうか。


 同棲する前に過ごしたデートの思い出はものすごく儚い。

 旅館の夏楓にはもう見られないし、会えない。


 丁寧に整理した写真アルバムが涙で濡れる。

 空翔はずっと泣きながら、夏楓の写真を見つめ続けた。

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