第1話 休日のまったりとした朝
窓から日差しがさす朝に小鳥の囀りで目が覚める。
カーテンを開けて、外を見た。少しだけ靄がかかっている。今日は暑くなりそうだ。
羽星空翔は、ベッドの上、体を起こした。
寝ぼけ眼を擦りシャツをたくし上げ、背中をボリボリとかく。
トイレに行ってから、台所に向かう。マグカップにモカブレンドのドリップコーヒーをセットした。ポットの音とともに珈琲の香りが漂う。
大森夏楓と 同棲してまだ1ヶ月が経ったばかりだ。まだべったりと一緒にいることが新鮮だと空翔は思っている。
台所に立つ彼女の後ろに立ってパジャマ姿のままハグをした。またコポコポとポットが鳴る。
「また珈琲? 嫌いじゃないの?」
「うん、嫌い。紅茶の方が好きだから」
夏楓は自分の好きなアールグレイのティーパックを開けて、マグカップに入れた。熱いお湯を注ぐ。なぜか空翔だけ珈琲を注ぐのが日課になってしまっていた。珈琲の銘柄を教えてと言った日からずっと空翔はいろんな種類のブラック珈琲を飲んでいる。夏楓は会話の中で自分は珈琲嫌いだと宣言していた。珈琲を作るのが好きだからと言っていたのを覚えている。
「なんで?」
彼女は微笑み、立ったまま紅茶をそっと飲む。
「好きだから。このアールグレイが。他にも種類あるけどね」
「なんだっけ」
「アッサムか、ダージリンが有名だよね」
夏楓はマグカップを持って、食卓に移動する。
「食パンね、今、トースターで焼いてたよ。バター塗ってくれない?」
夏楓はパンよりも先に紅茶を飲みながら、スマホ画面を見ている。
何となく、寂しさを感じた。空翔はトースターの焼けた音を聞いて、チューブタイプのバターをスプーンで伸ばして塗った。夏楓はこのワンアクションさえ面倒だと空翔に頼む。結局、台所に立つのはコーヒーを作る時以外は、空翔ばかりだ。食パンやサラダなどの一通り、朝ごはんの準備を終えて、席に座る。空翔は、やっと飲みやすい温度になった珈琲のマグカップを持ち上げて鼻に近づける。ほっとする香りだ。
「なに?」
夏楓はスマホ画面から向かい側に座る空翔をじっと見つめている。
「ううん、ただ見てただけ。美味しい?」
「まだ飲んでないよ」
「ふーん」
夏楓はスマホ画面に目を向けた。空翔のことはもう興味無くなったらしい。
空翔は、リモコンスイッチを押して、朝の情報番組のテレビで気持ちを紛らわした。
横目でスマホを見ながら笑う彼女に嫉妬してしまう。
それでもふーっと冷ましながら、珈琲は飲み続けた。