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なし
ーー序章ーー
本当に、
愛おしい……。
甘酸っぱく転がり落ちてく林檎のようにーー。
1、
天瀬海羽、十七歳。これは、神経過敏症のため二ヶ月病室で眠り続けた少女のお話である。
二日前ーー。
海羽は、恋人のセルと一緒に地下鉄新中野駅ホームに立っていた。「オレ、ちょっとトイレに行ってくる」
海羽は不安な面持ちで頷いた。「ごめんな、一人にして」
海羽は頷いた。
海羽を後方にセルは足早にトイレに向かう。
海羽はなんとなく壁のポスターを見やった。
ーーガーーーッ!! シュウゥゥゥ!!
背後を電車が流れ込んできた。
海羽は耳と心をつんざく音に、強い刺激を感じて、オソロシー!! オソロシー!! と感じられて、気を失って倒れてしまった。
トイレから戻ってきたセルは、海羽の周囲に二、三人集まっていた人だかりを見て駆け寄った。「海羽!!」、「ちょっとアナタ、動かさないで!!」肩を揺すっていた老婦に対して声を荒らげた。