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02 嘘つき……絶対に許さない2

 そしてエリシアは冷たい牢獄に閉じ込められた。

 鉄格子からわずかに差し込む月明かりを見つめながら、これまでの人生を回想した。


 リュミエット家は代々、黒髪の女しか生まれない不思議な一族である。

 この都市国家ドラゴエルの端でずっと暮らしてきた。

 ルーツは別の国にあり、何百年前か前に、この国へ移住してきたらしい。


 人々が言うには、とある国がドラゴエルに侵略戦争を仕掛けて返り討ちにあい、滅びた。リュミエット家はその生き残りで、お情けでこの国に住ませてやっているらしい。

 嘘か本当かは分からない。

 とにかくリュミエット家は『黒髪の一族』と呼ばれ、忌み嫌われていた。


 しかしリュミエット家の人間には、黒髪以外にも、回復魔法に高い適性を持つという特徴があった。

 それを応用して作ったポーションは絶大な効果がある。

 重い怪我や病気になったドラゴエルの住民が最終的に頼るのはリュミエット家だった。


 ところが、そのポーション作りの才能が、逆に不幸を招く。

 エリシアの母は取引先の店にポーションを卸しに行く途中、強盗に襲われ、死んでしまった。当然、強盗の狙いはポーションだ。


 エリシアは父親が誰か知らない。九歳で天涯孤独になってしまった。

 幸か不幸か、エリシアの魔法の才能は、歴代リュミエット家でも最強クラスだった。

 司教に目をつけられ、偽の聖女になることを強要される。断れば当然、口封じに殺される、というのは子供の頭でも理解できた。


 九歳だったエリシアは考えた。

 お母さんが死んで、ひとりぼっちになったのに、生きる意味はあるのだろうか、と。

 自分にまだ残されているもの……一つだけあった。

 それは家の近くにある森だ。

 毎日、お母さんとそこを歩いた。薬草の育て方も使い方も習った。

 国の人たちは「異国から持ち込まれた植物が生い茂る穢れた森」と言うけれど、エリシアにとって思い出の場所だった。

 あの森があれば、思い出は残るし、お母さんに教わったポーションを作り続けることもできる。


 だからエリシアは司教の命令を聞く条件として「森の保存」を出した。その条件をのんでくれないなら死んでも言うことを聞かない。なにせ生きる意味がないのだから。


 かくしてエリシアは血が滲む努力を重ね、聖女ではないのに聖女と見紛う魔法を身につけ、十三歳で偽の聖女としてデビューし、本物並に働いた。


 十四歳になった辺りで、第一王子との婚約話が出てきた。

 なにせ聖女である。

 邪を払う力を最高神から与えられた聖女。

 それと王子が婚約すれば、神聖教団におけるドラゴエルの存在感がますます上がる。


 とはいえ黒髪の一族だ。

 この国の人間にとって、リュミエット家と関係を持つなど、考えただけで怖気が走るだろう。


 リュミエット家は、他人とまともな交流をもてない。

 恋愛だの結婚だのはあり得ない。友達さえ作れない。

 せいぜい行きずりの男と一夜の関係を持って、なんとか子孫を残すのがリュミエット家にできる関の山。エリシアはずっとそう思っていた。


 だから政略的な意図が見え見えの婚約話とはいえ、少しばかり嬉しかった。

 しかも相手が第一王子というのも気になる。

 彼には噂があるのだ。

 それも容姿に関する、悪い噂である。

 渾名は『竜王子』。


 その名の通り、皮膚が竜のようなウロコ状であるとか。鋭い牙が生えた恐ろしい顔つきだとか。

 とにかく、その風貌のせいで第一王子なのに式典などに出席させてもらえず、王位継承権を弟に譲るしかなかったらしい。

 汚らわしい黒髪と人々に囁かれるエリシアとしては、まだ見ぬ第一王子に親近感さえ抱いていた。


「顔合わせの日が楽しみですね」


 そして請われるがまま、聖女として働いた。

 土地に瘴気がたまったと言われれば、そこに赴いて浄化する。怪我人が大勢出たと言われれば、フラフラになるまで回復魔法を使う。日々、ポーションのストックを作り続けるのも忘れない。

 ドラゴエルの人たちは感謝の言葉をくれない。聖女だからそのくらいして当然だという顔をする。

 黒髪の一族に助けられるなんて屈辱だ。そう面と向かって言う人さえいた。

「じゃあ死ねばいいんじゃないですか?」と返してやると目を丸くして固まるから面白い。

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