あめのひ
○6がつ13にち
あめはきらい。
だって、おそとにあそびにいけなくなるもの。
せんせいもおそとにでちゃだめっていうの。
かぜをひくからって。
つゆっていうのになると、いつもあめがふるの。
まいとしあるんだって、せんせいもパパもいってた。
どうしてあめはふるんだろう。
あめじゃなくて、おかしがふってくればいいのに。
てれびのなかだけずるいなぁ。
パパは、てんきよほうがあしたからはれっていってたから、あしたはおそとであそべるよね。
○6がつ14にち
きょうもあめがふった。
パパのうそつき。
でも、とてもうれしい。
だってとってもあまかったもの。
ふしぎなこともあるものね。
あ、これはママのくちぐせ。
おひるねのじかん、あめがふっていたの。
へんだなとおもってこっそりそとにでていったら、あめはあまかった。
あまいにおいもしてたし、そんなものがふってたらなめたくなるじゃない。
きっと、かみさまがわたしのためにふらせてくれたのね。
てのひらにおちてきたあめをべろでなめて、とってもあまかった。
でも、パパとママにいってもしんじてくれないの。
ほんとだよっていっても、そんなのいたいだけっていう。
パパはなにかとかんちがいしてるよ。
いたくないもん。
○6がつ15にち
きょうもあまいあめがふってきた。
みんながねているあいだ、わたしだけのおひる。
ひみつのおひる。
わたし、あめがすきになっちゃったかも。
きょうもひとりでこっそりと、おそとにあそびにいくの。
なんどもあめがほしくて、なんどもあめにてをのばした。
ありさんもよろこんでるみたい。
あしたもあまいあめがふるかな。
とってもたのしみ。
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「それで、そのまま女の子を誘拐したわけですか」
「はは、まあ、そういうことになるね。 なんせ、とても誘拐しやすいところに自ら来てくれたものだから。 このご時世、どこでも大人が見守っているものだから、女の子一人を攫うのも一苦労だよ」
取調室の中、男はまるでなんでもないかのように、そう肯定する。そんな男を見ながら、彼の前に座る取調官は不思議がる。
「しかし、飴なんて幼稚園の庭に一つも落ちてなかったぞ」
「飴、ねぇ」
そう男が呟くと、彼の笑い声が取調室の中で響き渡った。
「な、何がおかしい!」
女の子の日記を手に取り、取調官は説明する。
「女の子の日記によると、事件前後には雨が降っていたそうだ。そうだな? 山下」
「ハイ! 先輩! そして同時に、女の子をおびき寄せるための飴も降らしたんです」
扉の前に立つ警察官は、そう元気に返答するが、そんな彼らを男は嘲笑する。
「ははは、君たちは馬鹿だねぇ。 "あめ"は、"あめ"に流されていったのさ」
「なに……!」
「少々言葉遊びが過ぎたかな。 でも、日記に書いてあることは間違っていないよ」
飄々としている男に、取調官は怒鳴る。
「もったいぶるな! いったいどんなトリックを使ったんだ!」
「まあまあ、ちょっとお菓子でも食べませんか。 とっておきの飴があるんです」
男はおもむろにポケットから小瓶と使い捨ての木製スプーンを取り出す。小瓶の蓋を開け、粘度の高いその液体をぐるぐるとかき混ぜ、掬って口の中に放り込んだ。
「子どもたちの嗅覚はすごいね、それともあの子だけかな。雨の中に、散水機で撒いた水飴が混ざっていたのさ」