言葉にトゲがあると婚約破棄された悪役令嬢は、黒薔薇の魔女に呪われております (短編版)
長編のあらすじを短編として読めるよう改変したものです。
『あらすじだけ企画』寄稿作。
公爵令嬢ローザは、七歳の誕生日に呪われた。
祝いの場で四人の魔女が順に祝福を授ける中、「タチが悪いから」と呼ばれなかった黒薔薇の魔女が現れて、自らの命を捧げてまで凶悪な呪いをかけたのだ。
「この娘の言葉には常にイバラのトゲがつく! 決してひとに愛されることはないだろう!!」
誰も呪いを解くことは出来ず、四人目の魔女は「それでも人を愛する心を失くさない」という祝福を授けた。
十年後、ローザは王侯貴族の学園で「イバラ令嬢」と呼ばれていた。どんな言葉も勝手にトゲだらけになってしまうためだ。
「落とし物を拾ってくれてありがとう」は「汚い手で触らないで、泥棒!」。
呪いのせいと公言されていたが、分かっていても腹がたつのが人間。やがて呪いの実在すら疑われ、孤独に。つらくても涙ではなく高笑いが出てしまう……。
かつての婚約者、王太子サティアスがクラスメイトなのも苦痛だ。呪われたため両家の話し合いで婚約は破棄されたが、ローザはまだサティアスを想っていた。
言動は悪役そのものでも人間好きで優しいローザは、人知れず居残って掃除をしたり、ケガ人のもとに薬を置いて去るも、それは「妖精の仕業?」と学園で噂になるだけ。園庭の花や小動物だけが唯一の癒しだった。
そこへ、エマという平民の転入生が現れる。聡明で快活なエマは一躍人気者に。
ある日ローザはエマとサティアスが逢引きしている場面を見かけ、ショックを受けた。エマと二人きりになった日、「不細工な平民娘が身の程を知りなさい」と暴言を吐いてしまう。
しかしエマは泣くどころか、「なによこのぐるぐるもみあげ!」と言い返してきた。「学園内では身分差は無効」という建前を鵜呑みにしていたのだ。エマは物怖じせず公爵令嬢ローザに言い返し、しまいには殴りかかってくる。
「痛いわやめて」が「やりやがったわね豚小屋育ち!」になってしまうローザ、さらに殴られ、思わず殴り返す。肉体言語で語り合ったあと、ローザが取り出した傷薬に、エマは驚く。
「撫子のレリーフ……ケガ人に差し入れていたのはローザ? あなたが『妖精』?」
「なぜ転入したばかりのあなたがそれを」
「サティアス様よ。彼は妖精の正体を探っていて、顔が広い私に協力を頼んできたの」
呪いのことを理解し、以後、柔軟に暴言を「翻訳」しながら会話するエマ。切ない片想いにもよき理解者となる。
「ローザの人柄と気持ちを知ればサティアス様もローザを好きになるわ」
「でもこの呪いがある限り、わたしは王妃にふさわしくない。何よりサティアス様を傷つけたくないの(※訳)」
「だったら呪いを解こう! 黒魔術の資料集めからね!」
イバラ令嬢の物語はここから動き出す。
以降、調べ物をしているとなぜか頻繁にサティアスと遭遇。相席になったり、躓いた時に支えられたり。ときめきながらもやはり暴言しか話せない。
エマから、「学園には昔、魔術研究学科という教室があったらしい」と聞き、立ち入り禁止の旧校舎に忍び込むことに。ローザらしからぬ強行だが、これ以上サティアスを傷つけたくなかったのだ。
深夜、なんと門前にはサティアスが待ち構えていた。勝手についてくる。エマに「もしや黒薔薇の魔女が実は生きていて、化けているのでは?」と耳打ちされ息を呑む。
研究室の書架へ。それらしい本を見つけたが読めない言語。しかしサティアスがサラサラと読み始めた。
「これは魔女の暗号だな。呪いは魔女が死ぬまで解けないそうだ」
「では魔女は生きて……待って、なぜ魔女の暗号をサティアスが!?」
とたん、エマが突然サティアスに襲い掛かった。二人の力は拮抗していた。サティアスに「君が信じるようにしろ!」と促され、ローザは銀の燭台を、エマに刺した。エマは闇色の花吹雪となり霧散した……。
「呪った魔女が『黒薔薇の』だって、エマに言ったことはなかったもの」
最初から気付いていたらしいサティアスに理由を聞くと、本物のエマは待ち合わせ前、魔女に囚われたものの自力で脱出しサティアスの前で失神したらしい。
「なぜ魔女の暗号が読めたの?」
「十年間、四人の魔女のもと勉強してたんだよ。いつか呪いを解いてやれるように」
サティアスはローザを理解していたが、ローザがつらそうなので距離を置いていたのだ。『妖精』探しはクラスメイトに呪いを信じさせたくて。ローザが癒されるようにと園庭に花や動物を取り寄せたのも彼だった。
「ずっとわたしを想ってくれていたのね……」
ようやく自由に話せるローザだが、涙ばかりで言葉が出てこない。それは口下手なサティアスも同じ。
「こういう時どうしたらいいか、エマから聞いたな」「どうするの?」「肉体言語」
二人は無言で口づけを交わした。
エピローグ
あれから数か月……まだじれったい距離感の二人に、エマは肩をすくめる。
「愛してるって言えたのは百年後でした、なんてオチはやめてよね」