2-1.一つ積んでは誰のため?
何か、よくないことが起きたのだろう、と思った。
昨晩、所属するヒーロー組織であるG6から突然の連絡があった。学校は公欠になるよう連絡を取ったから、明日の昼間、G6の本部に来るようにと。大事な話があるから、と。また、誰にも口外しないように、とも。
その電話のすぐ後に携帯が青く光った。メッセージが一件。ブルースワロー先輩、と表示されたその通知を目にして、嫌な予感はほとんど確信へと変わった。
「なぁ、真白。お前、もうG6に呼び出されたりしたか?」
もう、と付いているということから、二つのことがわかる。一つ、スワさんもG6に呼び出され、おそらく既に話をされていること。二つ、「口外するな」と命令されればそれに背くことはおそらく無いであろうあの人が私に声をかけたということ──つまり、少なくとも私たち二人に共通する話であること。
とすれば、思い浮かぶのはもう一人。ひたすらに無垢で、でもきっと、だからこそヒーローである不思議な仲間のこと。
「あぶろちゃんに、何か?」
巡らせた思考に、きゅ、と口を真一文字に結んだ。あれらの予感は全て正しかった。
「……殺す? どういうことでしょうか」
目の前の男性、G6の支部長は困ったような顔をした。
「ああなに、事態が悪化しただとか、彼女が問題を起こしただとかそういう話ではない。むしろ好転の兆しなんだ」
彼が見せてくれたのは、G6の危機管理部による会議録。その中の、「ヒーロー「!」の要注意管轄解除案について」という部分にマーカーが引かれていた。下へ、下へと読み進める。
つまり、彼女は……あぶろちゃんは、信頼されていないのだ。まだ、爆弾を抱えるような、腫れ物扱いが拭えない。せめて抑止力が十分に確保されていれば、という条件付きでしか、彼女を認める気はないのだ。それに少し、腹が立った。
「お言葉ですが、支部長。彼女は分別の無い、善悪に理解の無い"子供"じゃありませんよ。現に、現場からの活動報告に問題行動は報告されていないでしょう」
「今までが大丈夫でも、これから大丈夫とは限らない。それが大人の考えだ。エクスクラメーションが敵に回りました、多くの被害や犠牲者が出ました、ではお話にならない。組織も、ひいては国も、希望的想定ではやっていけないんだよ」
大人は、と線引かれたことにまたか、と思ってしまう自分はやはり子供っぽいのかもしれない。かといって、仲間を手にかけられます、などと言う大人にはなれない。なりたくない。
じっと床を見つめた。何も言えなかったからだ。なにかを言いたいのは確かなのだが、それが是とも非とも言葉にならない。
──私の混乱の波の引くより前に、さらに支部長はその先を続けた。そして、それは私にはにわかに信じがたい言葉だった。
「ちなみに、もう一人の彼……ブルースワローは、直ぐに了承してくれたよ」