第36話【姫の瞳】(後編)
前編からの続き……
「行くぞ……カオス・デス・ドラゴン! ! 」
そう言うとメルシャは猛スピードでドラゴンに向かって跳び掛かった。
ドラゴンは咄嗟に魔方陣を展開し、 守りの体勢に入った。 しかしメルシャが拳を握ると青い炎が拳を包み、 それが魔方陣を軽々と砕いた。
『何っ……! 』
「復讐の炎は……正義の意志へと……変わった! 」
そしてメルシャは空中で体を回転させながら燃え盛る脚でドラゴンの顔面に後ろ回し蹴りを撃ち込んだ。 ドラゴンの体をあっという間に青い炎が包んだ。
『ぐぁぁあぁぁぁぁ! ! ! 』
「やった! 」
「アイちゃんスゲェ! 」
「やるじゃん、 それでこそクイーンだな! 」
……まだだ……まだ火力が足りない……
メルシャが地面に降りた瞬間、 ドラゴンの体を包み込む炎がかき消された。
『ぬぅ……我が復讐心は……こんなものではないぞ! 』
するとドラゴンの周囲に複数の魔方陣が出現した。
あの魔法は……死属性魔法! しかも超位!
「まずい……! 」
どうする……皆を逃がすにしても……もう……
(メルシャ……君の仲間を思う気持ちを……今この場で示すんだ……! )
……諦める理由なんて無いだろうが! !
次の瞬間、 ドラゴンの魔方陣から大量の黒い鎖が放たれ、 ウルヴェラ達に向かって飛んできた。
「ヤバい、 フェリア! 」
「駄目です! 展開が間に合いません! 」
そして鎖はウルヴェラ達の所に突っ込み、 辺りに大爆発が起きた。
『……終わりだ……小娘よ……』
辺りには砂埃が舞い上がった。
「……終わらねぇよ……」
砂埃の中からメルシャの声がした。
『何っ! 超位魔法を……! ? 』
すると砂埃が青い炎に変わり、 メルシャ達の姿が現れた。 メルシャの目の前には青く輝く魔方陣が出ていた。
……これは私がパーティ結成した時、 最初に作った魔法……蒼き炎盾だ!
「私が終わらせるのは……復讐の炎だ! 決して仲間との冒険や……私の人生じゃあねぇ! ! 」
『貴様……そうか……』
そしてメルシャは短剣を抜き、 それで魔方陣を壊すと青い炎が短剣を包み込んだ。 その炎はやがて剣の形に固まった。
「……超位魔法……」
メルシャはドラゴンの首の方まで飛び上がり、 炎の剣を構えた。
「お前の復讐心を……私が終わらせる……私の復讐心と共に……」
超位魔法……ドラゴン……キラー……
次の瞬間、 メルシャは超高速でドラゴンの背後へ通過した。 そしてドラゴンの首から青い炎が吹き出るのと同時に切れ目が入り、 吹き飛んだ。
ドラゴンの首は青い炎に包まれ、 段々灰へとなっていく。 体も灰のようにバラバラに崩れていく。
『……再生が出来ない……この炎の効果か……』
「そうだ……その炎は再生する瞬間にその箇所を焼き尽くす……その灰を魔力へと変え、 永遠に燃え盛る炎に変える」
『……あぁ……ようやく終わる……』
「……」
そうか……このドラゴンも……本当は終わらせて欲しかったんだ……本来なら魂亡き肉体を捨てて、 あの世へと還りかったんだ……
『……暖かいものだな……貴様の炎は……』
「……そうか……」
灰になる寸前、 ドラゴンはメルシャに言った。
『我は……ずっと……この温もりを……求めていたのかもしれない……』
「……」
『……礼を言うぞ……小娘よ……』
そしてドラゴンは灰となって消えてしまった。
さらばだ……私の……最初の恩師よ……
「リーダー! 」
「クイーン! 」
「アイちゃん! 」
戦いが終わり、 ウルヴェラ達がメルシャのところに駆け寄った。
「やっと終わったなぁクイーン! 」
「前よりも強くなってるじゃないかリーダー! 」
前よりも強くなった……か……
メルシャは黙り込んで自分の青い炎を見つめた。
……兄さんが思い出させてくれた……私の生きる意味を……
「ふっ……それより、 お前達のレベルが上がったんじゃないか? 超位竜だ、 相当上がっているはずだ」
「おっ、 そうだ。 どれどれ……」
ウルヴェラ達はステータスを確認した。
「うぉ! 124になってるぞ! 」
「僕は112! 」
「私は131だな! クイーンはどうだ? 」
ウルヴェラに言われてメルシャもステータスを確認した。
……186か……だがこれではイージス様には敵わない。 それどころか恩返しなんて……
「私は186だ……まだまだ強くならないとな……」
「それ以上強くなったらいつか熱すぎて触れなくなりそうですよ……」
メルシャの言葉にフェリアは苦笑いしながら言った。
するとメルシャの短剣にヒビが入った。
「ぬぁ! ? 短剣が……」
「そういやぁ俺達の武器、 だいぶ酷使してたなぁ……」
「この際ですし、 武器を新しくしましょうか」
そしてメルシャ達は一旦バラナルハに戻った。
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バラナルハの鍛冶屋にて……
「親父殿、 いるか! 」
「おう! 誰かと思えばドラゴンキラーの皆じゃねぇか、 久しぶりだなぁ! 」
鍛冶屋の店主はメルシャ達を歓迎した。
そういえばここは私がパーティを結成したばかりの頃から世話になっていたな……あれからもう三年か……時が経つのが早いものだ……って……もう112歳の中身老婆が言うことではないか……
「新しい武器を買いたいのだが……」
「おっ、 それなら丁度いい物があるぞぉ! 」
すると店主は店の奥に入っていった。
しばらくすると布に包まれた何かを持って店主が戻ってきた。
「親父殿……それは……? 」
何だろう……凄い魔力を感じる……肌が熱く感じる。
「こいつはあのイージス様が作り上げた魔法武器の一つなんだぜ、 競りで買い取るの必死だったんだぜ? 」
そう言うと店主は布を取った。 その中身には青い刃をした短剣があった。
イージス様が作り上げた! ? そんな……いい物を……むしろ国宝級だぞ!
「……そんないい物を買ってもいいのか? 」
「なぁに、 嬢ちゃんはダイヤ等級なんだぜ? 当然だ! 」
そう言うと店主はメルシャに短剣を渡した。
「お代はいらねぇぜ! こいつを大切に使ってやってくれ! こいつは嬢ちゃんに使ってもらうべきだと思うからな! 」
親父殿……
「……分かった……有り難く受け取ろう……」
そしてメルシャが短剣を受け取ろうと触れた瞬間、 刃から青い炎が溢れ出てきた。
「ぬぉ! ? 」
「リーダー! 」
しばらくすると炎は収まり、 何事も無かったかのように短剣はメルシャの手元にあった。
驚いた……この魔力……流石はイージス様だ……
「収まった……のか……」
「ま、 まぁ……とにかく、 他の皆にも武器を持ってきてやるからな! 待ってな! 」
数分後……
「うぉ~! こいつは黒聖鉄の短剣か、 軽いのに鉄の何十倍もの硬さを誇る素材……こりゃいいや! 」
「僕のこれは竜血晶を使った杖……上位竜の血から稀に採れると言われる貴重な鉱石を……素晴らしい! 」
「これはあれかい? 大剣ってやつ? ……いいじゃないか! 前よりも思いっきりぶん回せそうだ! 」
「皆気に入ったみてぇでよかった! 」
ふむ……これでこのパーティは更に強くなった……だが……これで終わりじゃない……もっと強くなって……イージス様に……
そしてメルシャ達は代金を払い、 店から出ようとした。
「親父殿……」
「おう! 何だい? 」
「……またいつか来る。 それまでしばしの別れだ」
「……おうよ! いつでも待ってるぜ! 」
店主はそう言ってメルシャ達を見送った。
店を後にし、 バラナルハを出たメルシャ達は次の目的地へ向かっていた。
「リーダー、 次はどこへ行きます? 」
「そうだな……」
この際だ……もっと強くなる為にはもっと強い敵と戦わないといけない……だが戦う前にそれなりの修行を積まなくてはいけない……今回の戦いでそれを学んだ……なら行先は……
「メゾロクスへ行こう、 そこには稽古をしてくれる伝説の剣士がいるそうだ。 まずはその方の元で修行させてもらおう」
「そうだな! よっしゃあ、 いざメゾロクスへ! 」
そしてメルシャ達がメゾロクスへ向かおうと道を歩いていると……
「おい、 お前ら! 」
「ん? 」
声を掛けてきたのは山賊達だった。
「命が惜しければ荷物を全部置いていきな! 」
やれやれ……早速面倒な奴等が……
「はぁ……クイーン、 やるぞ! 」
ウルヴェラに続いて他のメンバー達も武器を構えた。
それに続いてメルシャも短剣を抜き、 周りに青い炎を発生させた。
「……肩慣らしだ……行くぞ! ! 」
……彼女の名はメルシャ・エヴェル、 ダイヤ等級の冒険者にしてドラゴン・キラーのパーティリーダー……かつて彼女の心には復讐の炎が宿っていた。
しかしある時……彼女の前に現れた一人の男により、 彼女の心にあったはずの復讐の炎は消え失せた。
その男の名はイージス……そして彼女は……彼に恩返しを誓ったのだ。
……彼女の本当の名はイージスと彼女の兄しか知らない……それ以外の者は彼女をこう呼ぶ……クイーンズ・アイと……又の名を……
…………蒼炎の姫と……
続く……




