第36話【姫の瞳】(前編)
死の糸がイージス達によって壊滅してしばらくした時……元ヴェル・ハザード帝国の首都、 バラナルハにて……
「だぁかぁらぁ! やめろと言ってるだろうが! 」
「くぅ~……相変わらずのアイちゃんは可愛いなぁ! 」
ドラゴンキラーのパーティは現在、 酒場にて今後の計画を立てている最中だった……が……
「燃やすぞテメェ……! 」
パーティのリーダー、 クイーンズ・アイこと……メルシャとケルムはいつものように争っていた。
「おいおい、 計画を立てるんだろう? 」
「あ、 あぁ……すまない」
ウルヴェラに言われるとメルシャとケルムは席に着いた。
……はぁ……こんな奴よりイージス様と一緒に旅をしたいものだ……いやいや駄目だ! イージス様は一国の王……そんな忙しい中で私なんかと……
「リーダー? どうかしたんですか? 」
「あぁいや、 何でも……それより今後の計画だな。 やはりこの前のレッド・アイズでの戦いを通して分かった事がある……」
「私達がもっと強くなる必要があるってことだろ? 」
「そうだ」
メルシャ達は以前のレッド・アイズの戦いにて敗北してしまった。 しかしイージスの協力によってレッド・アイズの壊滅に成功したのだ。
……しかし……強くなるって言っても……どうしたものか……やはり上位竜と戦う以外方法は無いのか……でもそれでは……
悩んだ末にメルシャが出した結論は……
「……超位竜と戦うか……」
「……やっぱりそれしか無いか……」
「……厳しい戦いになりそうだな……」
超位竜……か……
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三年前……メルシャがドラゴンキラーのパーティを結成したばかりの頃……
「まさか……こんなにも……」
その時はギルドからの依頼でドラゴンの討伐に向かっていた。 いつものように……すぐに終わるはずだった……しかし……
「どうして……超位竜がここに……」
突如として……
『……憎い……』
メルシャ達の前に……
『殲滅してくれる……! 』
魂亡き超位竜が現れたのだ……
「……カオス……デス・ドラゴン……奴はおとぎ話の存在だけだとばかり……」
「皆は早く村へ戻れ! 私が時間を稼ぐ! 」
その時、 メルシャはパーティメンバー達を逃がそうと促した。
「分かりました、 早く村の皆に避難を呼び掛けよう! 」
そして他のメンバーは山から降りた。
当時、 メルシャは眼帯をしていなかった。 する必要が無かったから……
『我が種族の怒り……憎しみ……悲しみを……死を持って思い知れ……』
「……私はこんな所で死ねない……まだ……奴らを……! 」
メルシャがそう呟くとドラゴンの動きが止まった。
『……貴様……復讐者であるか……? 』
「……! ? ……何を……言っている……」
『その瞳を見れば解る……復讐に燃える炎……』
するとドラゴンはメルシャの目を指をさした。
『その復讐心……力に変えてやろうか……? その左目を犠牲として……な……』
「ッ……! ? 」
当時のメルシャは復讐に燃えていた。 レッド・アイズを滅ぼせるなら全てを捧げると……そう誓っていた。
そして彼女はドラゴンと契約したのだ……その左目に……魂亡き竜の憎悪を宿し……
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でも結局は……その力も無意味だった……か……いや……イージス様が……私の復讐心を和らげてくれたから弱くなれた……かもしれないな……
メルシャが昔の事を思い出しながら山を登っているとフェリアが話しかけた。
「リーダー、 どうしたんだい? 何だか微笑んでるみたいだけど……」
「いや、 何でも無いさ……」
そして山を登って数十分後、 メルシャ達は目的地へ着いた。 その場所は……
「さぁて、 着いたぞ! ここだな……」
「……カオス・デス・ドラゴンと出会った……場所だね……」
三年も前の話になるが……伝承が正しければ……奴は……
しばらくすると声が聞こえてきた。
『……懐かしき……匂いだ……』
すると地面に大きなヒビが入り、 そこから巨大なドラゴンが出てきた。
知っている超位竜はこいつしかいない……そしてもう、 終わらせないといけない……この左目の……復讐の炎を……
『……久しいな……小娘……』
「あぁ……」
ドラゴンは既に何か察しているようだった。
『……復讐心が無いな……終わらせに来たか……我と共に……我の憎悪を越えると言うのだな……』
こいつには確かに感謝はしている……力が無かった私に力を与えてくれた……だが……復讐は何も生まない……それを知る事ができた……誰かが……いつかは終わらせないといけない……
『我を倒せば……小娘……貴様の力も無くなるのだぞ……? それでも我と戦うのか……』
「もう、 決めた事だ……」
『そうか……』
ドラゴンは最後にそう言うとメルシャ達に紫色の炎を吐き出してきた。
それをフェリアが魔法で防いだ。
「リーダーとウルヴェラさんは後ろに回り込んで! 前は僕とケルムが引き付ける! 」
『了解! 』
そしてメルシャとウルヴェラはドラゴンの後ろに回り込み、 武器を構えた。 するとドラゴンの首が二つに増えたのだ。
『考えが甘い……』
「まずい……ウルヴェラ! 」
「任せな、 うおらぁぁぁぁ! ! ! 」
ウルヴェラはドラゴンの首に向かって大斧を投げ飛ばした。
ドラゴンの首は斬れて飛ばされた。 しかしそれと同時に飛ばされた首が炎を吐き出してきた。
「くっ! 」
咄嗟にメルシャは手から青い炎を出し、 ドラゴンの炎を弾いた。
『……その力……弱くなっているな……』
やはり火力が無い……所詮私の力なんてこんなものか……!
「リーダー、 危ない! ! 」
「えっ? 」
次の瞬間、 ドラゴンが尻尾をメルシャに向かってなぎ払ってきた。 メルシャは防御魔法を展開し、 間一髪で防いだがそのまま岩に叩き付けられた。
「ぐぁっ! ! 」
「リーダー! 」
「アイちゃん! 」
「クイーン! 」
頭を打ったメルシャは気絶してしまった。
……………………
……私の力は……こんな……脆弱なものだったのか……ただの……復讐心にかられた力に頼っているだけの……この私は……
…………もう……ここで死んでも……いいかもしれない……
意識を失っている中、 メルシャが生きることを諦めかけたその時……
(メルシャ……本当にそれでいいのかい……? )
その……声……兄さん……! ?
(メルシャ……その力は……復讐心の強さによって力を増す……だがもう君には復讐心は無い……)
そうだ……もう……私には生きる意味なんて無い……
(本当にそうだろうか? )
へ……?
(メルシャを……復讐心に燃える炎から救ってくれたのは……誰なんだ……彼に……いつか恩返しするんじゃなかったのか……? )
……誰だっけ……誰……
(……思い出すんだメルシャ……君の……生きる意味を……)
生きる……意味……
するとメルシャはかつてイージスがくれた指輪を見た。
「生きる……意味……」
『これは魔法の指輪だ、 君を悪いものから守ってくれる。 』
……そうか……! そうだ、 私は!
……………………
「ありがとう……兄さん……」
するとメルシャは岩から起き上がった。
「クイーン! 」
「良かった……! 」
『生きていたか……小娘……』
次の瞬間、 メルシャの指輪が弾け、 そこからとてつもない火力の青い炎が吹き出た。
「私に復讐以外に生きる意味を与えてくれたイージス様に……恩返しをするまで……」
するとメルシャの眼帯が焼き切れ、 そこから青く輝く瞳が現れた。
「私は……ここで……死ぬわけにはいかないんだ! 」
『貴様……その力は……! 』
「私の復讐心は……ここで終わらせる! ! 」
いつの間にかメルシャの周囲には青い炎が渦巻き、 燃え盛っていた。
「リーダー……凄い……! 」
「いつの間に強くなったんだ……クイーンの奴……」
「アイちゃん……やっぱスゲェ! 」
「行くぞ……カオス・デス・ドラゴン! ! 」
後編へ続く……




