第35話【死神の勘】
ヒュエルに拠点を作ったという組織を調査していた十二天星騎士団は拠点にいた組織のリーダーを追い詰めるも、 超位魔法により生み出された魔物によって危機的状況になってしまった。
しかし絶対絶命の状況に現れたのはメゾロクスの守護者、 ロフィヌスだった。
「なっ……国王が……! 」
「あぁ……だいぶやられてますね……そこで休んでいて下さい、 すぐに終わらせますね」
「し、 しかし組織のリーダーが……! 」
「あっ……それならもう既にイージス様が殺してしまいました」
「イージス様が……! 」
すると黒い物体はロフィヌスに襲い掛かってきた。
しかしロフィヌスが攻撃を軽くかわした瞬間、 黒い物体をまた一体弾けた。
(な、 何をしたんだ……! 見えなかった……! )
ネルトがそんなことを考えているともう一体の黒い物体が襲い掛かってきた。
「あぁ! そっちじゃなくてこっちですよぉ! 」
「うわぁ! 」
黒い物体の攻撃がネルトに当たろうとした瞬間、 ネルトの体がロフィヌスの背後へ瞬間移動した。
「な……何が……」
「もう……戦闘になるといつもこう……私はいつも無視されて……皆そう……皆……皆……ミン……ナ……そう"……」
「っ! ? 」
次の瞬間ロフィヌスは黒いオーラに包まれ、 姿を消した。 すると……
「………………タマシイモモタヌケガレ……キエロ……ケヒヒヒヒヒヒ! 」
さっきとは別人のようなロフィヌスの声と同時に黒い物体は全ての同時に弾けた。
そして黒いオーラに包まれたロフィヌスはネルトの目の前に再び現れた。
「ロフィヌス……殿……? 」
ネルトから見て彼女の顔は黒いオーラに覆われていてよく見えなかった。 しかし口元が不気味に笑っているように見えた。
ネルトが唖然としているとロフィヌスが手を差し伸べた。 先程の黒いオーラはすっかり消えていた。
「あの……大丈夫ですか……? 」
「あ、 あぁ……」
そして十二天星騎士団はロフィヌスの治療を受け、 地上へと戻った。
ルスヴェラートの城へ戻るとそこにはベルムントとイージスの姿があった。
「イージス様、 ただ今戻りました」
「おう、 ご苦労様」
「あの、 一体何がどうなって……」
エルセが聞くとイージスが答えてくれた。
「実は……」
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数時間前……
メゾロクスにて……
「ふんふふ~ん……♪」
暇を持て余していたイージスは一人で城の廊下を歩いていた時。
「あ、 あの……イージス様……」
「ん? その声はロフィヌスか。 どうしたんだ? 」
するとイージスの目の前にロフィヌスが現れた。
「その……ルスヴェラートの方から……嫌な気配というか……何と言いますか……その……」
……相変わらずだなぁロフィヌス……いつも人と話す時こんな感じ……まぁそこがかわいいんだけどね。
「……また何か感じたのか? 」
「は、 はい……それで……是非イージス様にも……ご協力を頂きたく……」
この時、 ロフィヌスは本能的に感じていたのだ。 ルスヴェラートにとてつもない脅威が迫っていること、 そして今回は自分だけでは解決が出来ないということを……
ロフィヌスがそんなことを言うなんて……相当な何かが起きてるということか? ……まぁいいか、 どうせ今は暇だし。
「分かった、 それで……俺は何をすればいい? 」
「は、 はい……えっと……ヒュエル全体を探知して頂きたいのです……それで……」
「……とにかく怪しい奴を捕まえればいいんだな? 」
「は、 はい! 」
そしてイージス達はヒュエルへ向かうことになったのだ。
数分後……
ヒュエルに着いたイージスとロフィヌスはそれぞれに分かれ、 街を監視していた。
「はぁ……ロフィヌスの勘……か」
イージスはこの時、 フォルドゥナからロフィヌスについての情報を聞いていた。
『ロフィヌスは幼少期の時に突如として異常な発達をした能力を発現していますの……その能力は無意識的な危機予知能力……すなわち……勘……ですわね。 』
フォルドゥナが言うにはロフィヌスの勘は絶対に当たるらしいしな……さて、 何が起こるやら。
その頃、 ロフィヌスは……
「……」
ヒュエル中央区にある時計塔の屋根の上で座っていた。
「……感じる……この街にいる……放っておけば厄介な事になる……死の糸…………」
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十二天星騎士団が黒い物体と戦っている頃、 イージスはヒュエルの周辺で探知をしていた。
「……! 」
何だ……? 突然何もないはずの空間から人間の反応が……行ってみるか。
……………………
「フフフフ……あれは奴らに対抗するために生み出した超級魔獣……もう十二天星騎士団は終わりだ……さて、 お次はメゾロクスだな……守護者を一人ずつ殺してやろうか……フハハハハ……」
謎の男はそう言って転移魔法を展開しようとした次の瞬間……
「なぁ、 今……守護者を殺すとか言ったな……お前は何者だ? 」
謎の男の背後からイージスが声を掛けた。
「なっ! ? 」
イージスの姿を見た男は咄嗟に転移魔法を展開しようとした。 しかし展開寸前で魔方陣が砕け散った。
「悪いが既に結界を張らせて貰ったよ……四天王さん……かな? 」
「何と……そこまで……ですが少し不正解……元、 四天王ですよ……魔王は私の性格が気に入らなかったようでねぇ……ならば自ら勝手に組織を作ってしまえばいいと思いましてねぇ。 死の糸……という組織でございます。 以後、 お見知り置きを……」
ロフィヌスの勘通りだな……元だとしても四天王はかなりの強さを持つ……そんな存在が組織を作っているとすれば尚更面倒だな……守護者を殺すと言っていたのを聞くと……メゾロクスにも襲撃を考えていたということか……ロフィヌスが何かを感じるはずだ……
そしてイージスは背中の剣を抜いた。
「ふむ……もしや貴方様がイージス様……ですかな? その剣と言い……その能力値……下手をすれば魔王を超越していますね……」
能力透視ができるのか……指輪の効果も貫通している辺り……今までのどんな敵よりも厄介な相手になりそうだな……
「お前の名前を聞いておこう」
「私はシュランゼと言います……ロフィヌスの保護者であります……」
やっぱりそういう感じか……
「……では……殺し合いを始めましょう……! 」
次の瞬間、 シュランゼはイージスの目の前に瞬間移動し、 短剣で斬りかかってきた。 イージスはそれを剣で受け止めた。
「……その短剣……普通の短剣じゃないな……」
「ご名答、 この短剣はあらゆる加護の効果を貫通し抹殺ができる代物でしてね……」
魔法武器とは少し違うみたいだな……元からの性質か? 何にしろ……危ない物だというのには変わりはないな……しかも……
(スキル、 能力透視・極が発動します。 )
……レベル……914……守護者を越えるレベル……しかも俺の結界の効果を弾くとは……ヤバいかもな……手っ取り早く決着を付けないとな。
そしてイージスは剣でシュランゼの短剣を弾き、 聖神剣を飛ばした。
「おぉ……それが……」
するとシュランゼは聖神剣を素手で掴み取った。
マジか! 聖神剣を素手で掴むって……しかし……超位魔法、 エクスプローディング・ヘル・ファイア……
(スキル、 魔法転送を発動します。 )
次の瞬間、 聖神剣から赤黒い炎が噴射された。
「むっ! ? 」
シュランゼは咄嗟に聖神剣から手を離した、 しかし聖神剣はシュランゼの胸に突っ込んできた。
「……空間切断……」
シュランゼそう呟くとシュランゼの姿が消えた。
……空間魔法まで使えるなんて……でもさっきから何か変だ……
「……コピー……か……」
そう言うとイージスは背後に向かって持っていた剣を振り払った。 すると振り払った空間から血が吹き出た。
「……まさか透明化もできるなんてな……超探知が無かったら分からない……」
「ぐっ……中々のものですな……」
シュランゼの声と同時にシュランゼの姿が現れた。
「その力、 鍛練で手に入れた物じゃないな……殺した人達を……喰ったのか……! 」
イージスはそう言うと気配を変えた。
「その通り……この力は今まで殺した人間の血肉を糧とし、 己の物としたのだ! 」
やはりコピースキルか……普通ならそんな方法じゃ能力を吸収できないからな……
「……何故ロフィヌスにはその能力が無い? 」
「あいつは我が一族の出来損ないですよ……」
そう言うとシュランゼはローブを取った。 その顔にはいくつもの傷痕があるが容姿がロフィヌスと僅かに似ていた。
「……出来損ない……か……前にもアルゲルもそんなことを言っていたが……もっと愛があった……お前のはただの軽蔑の言葉だ……! 」
そう言うとイージスはシュランゼに向かって剣を突き付けた。
「ロフィヌスがこっちへ来たがらなかった理由が分かった……今ここでお前を殺す! ! 」
……超空間魔法、 能力消失空間……超時空魔法、 リセット……
「行くぞ! 」
次の瞬間、 イージスはシュランゼの目の前に目にも止まらぬ速さで移動し、 剣で斬り付けた。
しかしシュランゼは短剣で身を守り、 再び距離を取った。
「……! ? 馬鹿な……! 」
「能力が使えないだろう? お前の能力は消させてもらった! 」
流石にこの結界と魔法は効いたみたいだな……一瞬だけでもいい、 隙を作れればあとは……!
「くそっ! 」
剣技……
イージスが剣を下から振りかぶりながら両手で持つと剣は青白い炎に包まれた。
この技は……相手が今まで殺した人間の数に応じて威力を増す魔法剣技……
「グリム・リッパーズ・ジャッジメント……! 」
死神の裁きを受けろ……シュランゼ!
そして剣がシュランゼの脇腹に触れた瞬間、 シュランゼの体は一瞬にして青白い炎に包まれ、 激しく燃え盛った。 間を与えずイージスはシュランゼの下半身と上半身を真っ二つに斬り裂いた。
「体が真っ二つになっても……その炎はお前が死ぬ直前まで苦痛と恐怖を与えるだろう……まぁ……地獄の底までまとわり付くかもしれないな……」
何も言わなくなったシュランゼを見ながらイージスは言った。
その後イージスは組織のリーダーについて話すためにベルムントの元に向かっている間、 ロフィヌスは組織の拠点を突き止め、 現在に至る……
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「……という訳」
「なるほど……ではこれは全てロフィヌス殿のお陰だったということか……」
まぁ……ロフィヌスの勘に助けられたな……
「今回もイージス殿達に助けられましたな……もはや我が国はメゾロクス無しでは成り立たぬなぁ……」
いや……寧ろ俺達が現れたからこんな事態になっている可能性もあり得なくはない……申し訳ないのはこっちかもな……
「……まぁとにかく……これで組織の生き残りも自然に解散するだろう。 それじゃ、 俺達はこれで……ロフィヌス、 行くぞ」
「はっ! 」
イージス達がメゾロクスへ帰ろうとした時、 ナターシャがイージスを引き留めた。
「あの、 イージス様! 」
「ん? 君は……」
するとナターシャは少し照れながらもイージスに言った。
「その……また……会えますでしょうか? 」
あれ……これって……はぁ……
「……そうだな……君達にまた危機が訪れれば会えるかもな」
そう言い残し、 イージス達は姿を消した。
「…………はぁ~~~! 愛しきイージス様ぁ~~~~! ♡」
……続く……




