(番外編)【レフィナスの悩み】
これは、 イージス達が冒険者としての生活をしに旅へ出ている間にあったレフィナスのお話である。
「イージス様がご不在間、 このメゾロクスは私達が責任を持って管理することになっています。皆さん気を引き締めていきましょう! 」
『おー! 』
イージス達がいない間は守護者二番目代表のレフィナスが指揮を取ることになっている。
さて……イージス様がご不在の間にメゾロクスの発展と管理をしっかりこなして見せなければ……
心の中でレフィナスが意気込んでいると早速フォルドゥナが意見を出した。
「早速だけど、 また最近メゾロクスに交易契約したいという商会が現われたの。魔法道具の商会らしいのだけれど……これで25件目ですの……どうしますの? レフィナス」
「ふむ……この国は今後も拡大する可能性がありますから。多いに越した事はないですね……そちらで契約を結んで構わないですよ」
今やメゾロクスでは経済的にも注目度を上げている。アルゲルが開発する魔法道具や兵器がどの国にも無い程の性能の高さから様々な商会から是非ともと契約を結ぼうと提案をかけてくるのだ。
その点に関してはフォルドゥナが一番適任のため、 イージスからも交易等の契約は任せられているのだ。
「了解しましたわ。では早速商会に話をしてきますわね」
そう言うとフォルドゥナは姿を消した。
「はぁ……」
「む? どうしたのだ、 レフィナス殿」
ため息をつくレフィナスにガムールが話し掛けた。
「いや……私なんかにこの国の責任者代行が勤まるのかと思いまして……」
元々私にリーダーシップなんてものは無いのに……それならザヴァラムの方が……
レフィナスは自分が充分に責任者として勤まるのかと案じていた。
それに対してガムールはアドバイスをした。
「心配する事はないと思うぞ? もし迷ったならイージス様の立場になったつもりで考えればいい」
「イージス様の……立場に……」
確かに……それなら間違い無さそうだ!
「ありがとうガムール、 やってみます! 」
そう言うとレフィナスは自室に戻っていった。
「……大丈夫だろうか……レフィナスに任せて……」
アルゲルはレフィナスの様子を見て心配していた。昔から守護者達の様子を見てきたアルゲルにとってはレフィナスが一番心配なのだ。
「レフィナスは自分で問題を抱え込んでしまう事が多い……過労で倒れてしまわなければいいのだが……」
「なぁに、 これもイージス様からの試練みたいなものさ。自分の弱点を克服するってのも大事だと俺は思うぞ」
ガムールは昔からポジティブな性格なのである。
「……それもそうか……きっとイージス様も考えがあってのことだろう……」
……………………
一方その頃……
「ヘックシュ! ! 」
「大丈夫ですか? イージス様」
「んあぁ……誰かに噂でもされてるのかなぁ? 」
……………………
翌日のお昼、 メゾロクス城の守護者用食堂にて……
「やっぱり漁港をもう少し広くする必要があると思いますの」
「いや、 それよりメゾロクス防衛兵の為に訓練施設を増築した方がいいと思うぞ! 」
「魔法道具開発研究の為の道具と施設拡大を求む……」
「わ、 私は特に提案は……」
食事中、 守護者達は次のするべき優先順を話し合っていた。
うぅ……やることがあり過ぎる……こんな時にイージス様がいれば……
「どうしますの、 レフィナス」
「レフィナス殿に決めて頂かなければ」
「どうする……レフィナスよ……」
「私はレフィナスさんの決めた事なら……」
いや、 駄目だ駄目だ……イージス様にばかり頼っていては守護者の名が廃る! ここは冷静に……
「うーん……ではまずは漁港の拡大をしましょう。この国の発展において一番重要な貿易施設でもあり、 一番発展が遅れていますからね」
「了解しましたわ」
そして守護者達は食事を終わらせ、 各自の仕事へ戻った。
レフィナスの仕事は主に、 国の治安保持や城の管理を担当している。これと言って忙しいような役割ではないためレフィナスは大体城の中をウロウロしている。
「はぁ……できることなら私もイージス様と一緒に旅をしてみたい……」
レフィナスは廊下を歩きながらため息をついた。
するとレフィナスの背後から城の従者が話し掛けてきた。
「あの、 レフィナス様」
「ん? あぁ、 何でしょう? 」
「ガムール様が一緒に川で釣りにでも行かないかと申し上げております」
「釣り? 何故急に……」
もしかして気分転換に連れて行こうとしてくれているのかしら……
「分かりました、 ありがとうございます」
「いえ……」
レフィナスはガムールのいる訓練施設へ向かった。施設では大量の兵士達が剣や魔法の訓練をしていた。
うわ……訓練施設って初めて見たけど凄い所……
レフィナスが呆然と訓練風景を見ているとガムールがレフィナスの元へ向かってきた。
「おっ、 来たか! では参ろうぞ! 」
「は、 はい」
そしてレフィナスとガムールは城から少し離れた川へ向かった。
「ほら、 釣竿」
「あ、 ありがとうございます……」
「ははっ、 レフィナス殿、 我々はお互い仲間なのだからそんなに敬語を使わずとも良いのだぞ! 」
……ガムールは昔からそう……誰に対してもまるで親友のように関わってくれる……
「……そうですね、 しかし何故急に釣りに? 」
レフィナスの質問にガムールは当たり前だろ? というような表情で答えた。
「レフィナス殿がまた何か一人で考え込んでると思ったからだ」
「えぇっ、 私そんな雰囲気出てました! ? 」
「ガハハッ、 勘だよ勘! さぁ、 さっさと始めようか」
「えっ、 はい……」
レフィナスとガムールは川岸の草むらに座って釣りを始めた。
・
・
・
数分後……
「……」
「……」
……話題が無ーーーい! ! !
一向に釣れる気配が無いしガムールもずっと黙って向こうの景色眺めてるだけだし! 何なのこの空気! ! ?
レフィナスが一人でそんなことを考えていると
「……レフィナス殿」
「は、 はい! 」
「……またいつか……釣りに行くか? 」
「え……」
向こうの景色を眺めたままガムールは言った。
何、 どうしちゃったのガムール? ちょっと怖いんだけど……
するとガムールは話を続ける。
「……レフィナス殿、 俺は一人で抱え込むなとは言わない、 レフィナス殿は自分なりに俺達の事を考えて言わないことだってあるはずだから。しかしあまり重く考えるな……」
「ガムール……」
「人に話せない悩み事があるなら好きな事に没頭するのが一番だ! 俺は釣りが好きなんでな! 」
「えっ、 ガムールも何か悩む事もあるんですか! ? 」
するとガムールは大声で笑い出した。
「ガハハハハッ! こう見えて俺にもちゃんと悩み事だってあるのだよ、 レフィナス殿」
ガムール……私にこの話をする為にわざわざ……
レフィナスは何だか嬉しい気持ちになった。
この何千年もの間ずっと誰かを好きになるって感情を忘れてた……そうか……こんな感覚だったっけ……
「それとレフィナス殿」
「はい? 」
「今気付いたのだがこの川、 いつもよく釣れる川ではなかったようだ」
レフィナスはキョトンとした顔でガムールを見た。
「ふふっ……相変わらず考え無しですね」
「ガハハハハッ! 」
このメゾロクスを守る守護者達の日常、 それは時に慌ただしく、 時にはまったりとしたもの……そう、 どこにでもあるような……そんな日常である。
今日もメゾロクスは平和である。
……………………
「そういえばガムール、 私のこの釣竿は随分新しいみたいですが……いつ買ったのですか? 」
「街の道具店で買ってきたんだ、 あと500本はスペアがあるぞ! 」
「……考え無しにも程がありますよ……」
番外編、 終わり……




