第32話【星の守護者】
イージスが戸惑っているとザヴァラムが驚く一言を口にした。
「久しぶりね……崩空龍 フェース……」
「えっ……ラム、 もしかして知り合い? 」
「はい、 弟子のフェースです。今はこの星の周辺の守護を努めているんです」
なんとそのドラゴンはザヴァラムの弟子だったのだ。
『ちょっ……師匠……雰囲気壊さないで下さいよぉ……』
マジか……ラムに弟子っていたのか……ってか意外と軽い……っとそうだそうだ、 本題に入らないと。
「あの、 フェースさん……ちょっといいですか? 」
『む? ……そなたは? 』
「初めまして、 イージスと言います。実は……」
イージスは事情を説明した。
『なるほど……つまり我にそこの小僧の配下になれと言いたいのだな? 』
「はい、 簡単に言うと……」
するとしばらくフェースは考えた。
そして……
『……良かろう、 ならばそこの小僧と小娘で我と勝負をし、 見事勝利することが出来れば契約を結んでやろう。』
え……ヒューゴとミーナだけでかぁ……確かに二人は強くなったけど……ラムの弟子だからなぁ……
イージスが迷っているとヒューゴとミーナは黙ってイージスの方を見て静かに頷いた。
……二人共……よし。
「分かった、 条件を呑もう。ヒューゴ、 ミーナ」
「おう! 」
「はい! 」
『では……来い! 』
「フェース、 分かっているな……殺しはするなよ……」
闘いを始めようとした直前、 ザヴァラムがフェースに言った。
『は……はい……』
「それじゃあ行くぜ! ! 」
ヒューゴは剣を抜き、 フェースの体に攻撃した。次の瞬間、 ヒューゴの剣が折れてしまった。
「なっ! 」
『その程度の切れ味で我の鱗に傷を付けられると思うな……』
そしてフェースはヒューゴに爪の攻撃を仕掛けた。それをヒューゴは間一髪で避けた。
「くそっ……剣が……! 」
ヒューゴが困っているとミーナが魔法を発動させた。
「武器錬成! 」
するとヒューゴの剣が一瞬にして治った。
更にミーナは続いて魔法を発動させた。
「強化魔法、 身体能力、 武器! 付与魔法、 魔法剣! ! 」
『ほう……支援系の魔導師か……』
ミーナも色んな魔法を同時に発動できるようになったんだな……成長したなぁ……
「ありがとうミーナ、 剣技、 豪龍斬! ! 」
ヒューゴはフェースの頭上に飛び上がり、 剣をフェースの頭部に叩き付けるように斬り付けた。轟音と共に辺りに青い炎が吹き出てきた。
「……これで少しでもダメージが通ってくれるといいんだが……」
降りてきたヒューゴは炎の向こうを眺めながら言った。
案の定、 炎の中から無傷で佇むフェースの姿が現れた。
『フフフ……流石は竜人の血を継ぎし者よ……今のは少し肝を冷したぞ……鱗一枚に傷が付いた。』
……ラムの弟子なだけあって言うことがラムと似てるな……
すると今度はフェースが攻撃を仕掛けてきた。
『ではそろそろこちらからもやらせてもらおう……』
そう言うとフェースは指を差し出し、 下に降ろした。
『崩空……』
! ? ヤバい!
何かを感じ取ったイージスは咄嗟にザヴァラムと自身の周りに防御魔法を展開した。
次の瞬間、 ヒューゴとミーナは地面に倒れ込み、 身動きが取れなくなった。
これは重力系の超位魔法……崩空……一定範囲の重力を倍増させ、 相手の動きを封じる魔法だ。この魔法は特定の防御系のスキルや魔法を貫通するんだ……超位魔法レベルじゃないと防げない……
「ぐっ……動けない……」
「ヒューゴ……君……」
『まだ行くぞ……超位魔法……』
するとフェースの頭上に複数の魔方陣が現れた。
あれは……
(空間内に高魔力反応、 スキル、 絶対防御・極を自動発動します。)
『崩空龍槍……30連……! 』
次の瞬間、 複数の魔方陣から巨大な光の槍が降り注いだ。凄まじい轟音と共に辺りには光線が飛び散る。
「ヒューゴ、 ミーナ! 」
攻撃が収まると砂埃の中からヒューゴの姿が見えた。
「……あれ……痛く……無い……? 」
『何……! ? 』
あれだけの攻撃を受けて殆ど無傷……まさかミーナ!
「……うっ……良か……った……」
ヒューゴの後ろには身体中の傷から血を流すミーナの姿があった。
……犠牲の……翼か……
(はい、 ミーナ様は上位魔法、 犠牲の翼を使用したのかと……)
犠牲の翼……相手のあらゆる攻撃を特定の仲間が受ける時、 その傷やダメージの9割を代わりに受ける魔法である。
「ミーナァァァ! ! ! 」
「私は……大丈夫……だから……ヒューゴ君は続けて……」
『ふむ……仲間の為に自らを犠牲に……良き仲間を持っているな……』
フェースがミーナの行動に感心していると
「もう……私は回復できる……程の体力は残ってないけど……最後の足掻き位なら……! ! 」
ミーナは手を天に掲げると上空に先程の魔方陣よりも巨大な魔方陣が現れた。
「私は……イージスさんやザヴァラムさん程……強くないけど……それに近付く事は…………できる! ! 」
……あれは……まさか! 超位魔法! ?
(はい、 超位魔法の魔力反応を確認しました。)
「……アーチエンジェル・ブラストォ! ! ! ! 」
するとフェースの頭上から巨大な光線が降り注ぎ、 フェースの体を包み込んだ。
『ぐあぁ……! ! 』
アーチエンジェル・ブラスト……聞いたことも無い魔法だ、 ミーナのオリジナルなのか。
「後は……お願い……ヒューゴ……君……」
そう言うとミーナは倒れた。
「ミーナ……強くなったな……」
イージスは思わず呟いた。
光が収まると体の至る所が焼け焦げたフェースが立っていた。
『ぬぅぅ……まさか人間の小娘が……超位魔法を使えるとは……』
すると突然フェースの表情が一変した。
『この気配は……』
フェースがヒューゴの方を見るとヒューゴは黒いオーラに包まれていた。
「よくも……よくもミーナを……」
この感じ……前のラムの時と同じ……
(ヒューゴ様が竜化を発動します。)
やはり竜化……でも前よりも何か違う……!
次の瞬間、 ヒューゴは黒い炎に包まれた。
「ミーナの思いは無駄にしねぇ……絶対にお前を倒してみせる……! ! 」
そして黒い炎が晴れるとそこには
『なっ……! 』
燃えるような赤い髪に輝く黄金の瞳、 その体の至る所には覇王龍ザヴァラムのように黒い竜の鱗に覆われているヒューゴの姿があった。
(報告、 ヒューゴ様のスキル、 竜化が覇龍化に進化しました。)
「覇龍化……! ? 」
「覇龍化……それは私の力の一部を使うことができるようになる特殊スキルです」
マジかよヤッバァ! ! ヒューゴめっちゃカッコ良くなってる! !
『ぬぅえぃ! こうなれば本気でいくしか無い! 』
するとヒューゴは突然姿を消し、 フェースの目の前に現れ顔面にパンチを入れた。激しい轟音と共にフェースの体は吹き飛ばされた。
『ぐぁっ! ! っ……龍星咆! ! 』
フェースは口から巨大な光線を吐き出した。
「覇龍咆哮! ! ! 」
それと同時にヒューゴも口から巨大な光線を吐き出した。
……まるで怪獣大戦だな。
そして光線がぶつかり合った瞬間、 ヒューゴの吐き出した光線がフェースの光線を飲み込み、 そのままフェースに直撃した。直撃と同時に大爆発が起き、 辺りは火の海となった。
「……どうなった……? 」
しばらくして炎が消え、 フェースの姿が見えてきた。フェースは地面に手を付き、 体はボロボロになっていた。
『フフ……見事だ……小僧……いや、 真なる我が主よ……』
「俺は……勝ったのか……? 」
『左様……そなたは見事我に勝利したのだ……』
「ということは……! 」
するとフェースはヒューゴに指を差し出した。フェースの爪がヒューゴの胸に当たるとヒューゴの胸から光が漏れ、 そこから指輪が現れた。
『それがあればいつでも我を呼び出すことができる……大切にするといい…………それでは……我は……少し……休……む……』
フェースはそう言い残すと眠りに付き、 空間が元のダンジョン内の空間に戻った。そして気付くとフェースの姿は無かった。
「やったな、 ヒューゴ……」
イージスがヒューゴに声を掛けるとヒューゴは突然大の字になって倒れた。
「やっ……たぁ……! 」
そう言うとヒューゴは気絶してしまった。
相当体力を消耗しそうだもんなぁ、 あのスキル……さてと……ミーナを治療してヒューゴと一緒に屋敷に運ぶか。
「ラム、 手伝ってくれるか? 」
「承知致しました」
そしてイージス達は里へと戻っていった。
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翌日、 イージス達は里から旅立つ準備をしていた。
「むぅ……おはよう、 イージスさん……」
「おぉ、 起きたかヒューゴ」
眠そうだな……まぁ無理も無い。
「……信じられねぇよなぁ、 俺がこの星を守護する龍に勝ったなんて……」
「はははっ、 あそこで覇龍化を習得してなかったら負けてたかもな」
戦闘の最中に能力透視してみたけどフェースのレベルは750はあったし……それに比べてミーナとヒューゴはレベル100をやっと越えたばかりだった……正直無理ゲーだった……あの覇龍化、 レベル関係無しに全能力値をザヴァラムに近付けるっていう……ヒューゴもだいぶ人間離れしてきたな。ミーナも超位魔法を使えるまで成長してるし……
イージスがそんなことを考えているとザヴァラムが部屋に入ってきた。
「イージス様、 準備が整いました」
「おう、 そうか。それじゃミーナも起こして出発しよう」
そしてイージスはミーナを起こしにミーナが眠っている部屋を訪ねた。するとミーナは既に起き上がって窓の外を眺めていた。
「おっ、 ミーナ! 起きてたのか」
「イージスさん……おはようございます……」
ん? ……何だか元気が無い……
「……どうした、 ミーナ」
「……」
イージスが聞くもミーナは黙ってて何も言わない。しばらくするとミーナは涙を溢しながらイージスに抱き付いてきた。
「……イージス……さん……ごめんなさい……」
「えぇ! いきなりどうしたんだよ! ? 」
イージスは混乱した。
そしてミーナは話を続けた。
「私は……いつも皆の……足を引っ張ってばかりで……前のパーティでもずっと守ってもらってばかりで……」
……ミーナ……なるほど、 自分は役に立ってないと思って……
「こんな私、 イージスさんも嫌ですよね……! 」
ミーナがそう言った瞬間、 イージスは軽くミーナの額にデコピンした。
「……へ……? 」
「……そんなはず無いだろ、 ミーナは充分皆の役に立ってるさ」
「そ、 そんな……! 」
ミーナがまた何かを言いかけた時、 イージスは優しくミーナの頭を撫でた。
「大丈夫、 俺達は君を捨てたりなんて絶対にしない……ミーナが皆の為に頑張ってくれてること、 少しでも強くなろうと努力してること……それはしっかり俺達に伝わってるから……だからもう泣いたりするな」
イージスがそう言うとミーナは声を上げて泣き出し、 イージスを強く抱きしめた。
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しばらくしてミーナは落ち着きを取り戻し、 ザヴァラムとヒューゴの所に向かった。
「おっ、 ミーナ! もう大丈夫なのか? 」
「治癒したとは言え、 あまり無理はしないで下さいよ」
心配してるザヴァラムとヒューゴを見たミーナは少し微笑み
「はい、 私はもう大丈夫です! 」
そしてイージス達は龍の里から旅立ち、 メゾロクスへと戻っていったのだった。
続く……




